いきなり自分の目の前に餓鬼が飛び出してきて、急な方向転換がためにトラックに激突―…という、理由自体は在り来り(と言っていいのか)のものだった。
俺はそれを聞き流すようにして聞いていた。死亡理由がまともすぎて、逆に何て反応すれば一番いいのか分からなくなったからだ。死んだ奴にお悔やみ申し上げますと言うのも変だし、ただ適当にも見える相槌を返した。
やはりこういう事実を目の前に突きつけられると、目の前の男はすでに死んだ人間だということを否が応でも理解する。だが頭では理解できていても、心の内では到底理解し得ないことだった。(何回も言うけどこんな生きている人間としか思えないような幽霊がいてたまるか。)
「…で、なんで俺に付き纏ってくんだよ」
「だからお前のことが好」
「だぁあ!違う!なんで俺のことが好きかって聞いてんだよ!」
「お前そんなこと知りたいのか」
自分の言った言葉に、はっとして口を噤むとユースタス屋を睨む。それをユースタス屋は素直に見つめ返してくるのだから、馬鹿らしくなって空になった皿を掴むと立ち上がった。
「そんなこと考えたこともねェな」
「理由ないのかよ」
「好きになるのに理由が必要か?」
いやいやそう言う訳ではないですけれども。
ある意味正論ともとれるような謎の反撃を食らい、どう言おうか思案しているとユースタス屋はこの話を終わりだと判断したらしい。立ち上がったユースタス屋が俺を後ろから抱き締める。(やめろ。食器洗いにくいからやめろ。)
でも俺も大分賢くなった。離せというと大抵ユースタス屋は嫌だとか言ってさらに抱きついてくるから無視するのが一番いいって漸く気づいた。いやよくはないかも知れないけどそれ以外思いつかない。
洗った食器はユースタス屋が拭いて片付けてくれた。こういうときは便利だなぁと思う。てか俺のことが好きとか訳分かんないことぬかしたり抱き締めたりキスしたり(ここら辺重要)しなかったら普通に同居許すかも。(でもこの考え自体がすでに絆されたものなのか…?)
ソファに座ってぼーっとテレビを見ていると、トラファルガー、と不意に名前を呼ばれて顔を上げる。差し出されたユースタス屋の手にはコーヒーの入ったマグカップ。ありがとう、と言って受け取る(こういうとこは嫌いじゃない)と、当たり前であるかのようにして隣に座られる。そして当たり前であるかのように距離はゼロ。前言撤回、お前ちょっと近すぎる。
手渡されたコーヒーを冷まして口に運ぶと、ふとある違和感に気がついた。
『トラファルガー』
ユースタス屋の声で脳内再生される俺の名前。
おかしい。でも何でいまさら気づいたんだろう?
「…俺思ったんだけどさ」
「あ?」
「何でお前俺の名前知ってんの?」
そういえば俺、ユースタス屋に自分の名前教えた覚えない。
…だってこいつ最初から知ってたんだもん。