なんて無謀な恋をする人 | ナノ

ほださ・れる【×絆される】
1 情に引きつけられて、心や行動の自由が縛られる。
2 身体の自由を束縛される。
(―『デジタル大辞泉』より)




…あれ、俺やばくね?



「出来たぞ」
「…ん、ああ」

ユースタス屋の言葉にはっと顔を上げると手に持った電辞を置いて椅子に座る。
テーブルの上にはこれまた店に出てきそうなほど見栄えのいいオムライスが皿の上で湯気を出してまっていた。

いつだったか、俺のあまりの不健康ぶり(見つかる前は棚に大量のインスタント類が入ってたんだけどそれもまとめて始末された)にあてられたユースタス屋が料理を作ってくれたことがきっかけで今もこうして作ってもらってる。(けど、幽霊に料理作ってもらうのって俺ぐらいな気が。)

いただきます、とスプーンを取るとふわふわした塊を少し崩して口に運ぶ。相変わらず美味い…けど。

「…すげぇ食べづらいから止めてほしい」
「何がだよ」
「ガン見すんの」

ああ、とユースタス屋は呟いて、気にするな、と他人事のように言ってのけた。(気にするなとか無理だろ。)

ユースタス屋曰く「俺は食べなくても平気」らしい。
空腹というものがないんだと。そのわりに眠気はきちんと存在するんだから変なシステムだ。
だから俺が食べている間、ユースタス屋はひたすら俺を見つめてくる。実際問題食べにくいことこの上ない。人が食ってるとこなんか見て面白いのか。

「………」
「……」
「…………」
「……」

(…気まずい。)


特に話すこともないので自然と沈黙が二人の間を流れる。それに俺は黙々と口を動かした。
何だこれは。どうすればいいんだ。気まず過ぎる。何かいい話題はないのか。話題、話題…話題?


……あ。


「ユースタス屋ってさぁ…何で死んだの?」
「…あー」

ふと手を止めて顔を上げる。多分今ユースタス屋に眉があったらつり上がっているだろう。そんな表情だった。
…やっぱり触れてほしくない話だったのだろうか。そう思っていままで聞かなかったけど、正直気になるものは気になる。

「…知りたいか?」
「え…うん」

何故かもったいぶったようなユースタス屋の口調に自ずと引き付けられる。するとユースタス屋は自嘲気味にふっと笑った。
「刺された」
「……は?」
「殺されたんだ」
「…誰が?」
「俺が」

…え、と口を開けてまた閉じた。…マジで?

「え…っと…誰、に?」
「そのとき付き合ってた女。浮気がバレて家に帰ってきた瞬間にグサッと」

面倒な奴だとは思ってたけどまさか刺されるとはな…呆気ないだろ?とユースタス屋は笑った。

え、呆気ないとかって…え?そういう問題なのか?てかやっぱりユースタス屋って見た目通り(何か詳しい事情があったとしても見た目と相俟ってユースタス屋が八割悪く思える)の悪人なのか?


「…マジで?」
「ウソ」

刺さったぐらいじゃ死なねェよ、とユースタス屋は笑った。…そっち?

「…意味分かんねぇ」
「悪い、冗談だ」

そういうとユースタス屋はおかしそうに笑った。何と質の悪い冗談を吐く男だろう。一瞬どんなリアクションとるべきかと迷ったじゃねぇか。

「笑えない冗談はやめろ」
「はっ…っ、悪い…でも、すげェ間抜けな顔…くっ…!」
「堪えきれてないとこがまたムカつくな」

何がそんなにおかしいのか、まったく笑いを堪えきれていないユースタス屋に眉根を寄せる。俺をおちょくって楽しいのかこいつ。

付き合ってられない、とばかりに視線を下に戻すと幾分冷めたそれを口に含む。ユースタス屋は相変わらずにやにやと笑っていた。

「本当のこと教えてやろうか?」

訝しげにユースタス屋を見ればにぃっと口許が弧を描く。不意に立ち上がったかと思うと、ついてる、と目と鼻の先で言われぺろりと口端を舐められた。



「っ!いきなり何す」
「お前が好きすぎて自殺した」
「!?」



「訳ねェだろ」
「てめぇ…!」


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