なんて無謀な恋をする人 | ナノ

「億万歩譲って隣に座るってのはどうだ」
「断る」





きっと今この光景を見た奴はもれなく卒倒するだろうな、なんて課題をこなしながら独り言ちた。

うん、だって俺男。後ろの奴も生憎男。そんな俺が後ろから抱き締められながら課題こなしてるってどういうことだ。ビジュアルよければ全てが許されるって訳じゃねぇぞ。

「…いつ離れてくれんの?」
「それが終わったら」

おお、マジか。あと軽く三時間ぐらいはかかりそうなんですけど。
てか鬱陶しいな本当に。腰に回された手とか退けてほしい。顔も近…ちょ、マジで近い近い!超至近距離じゃねぇかこれ!

…本当は今日どうしても終わらせたかったんだけどどう考えても無理だ。もう集中出来ない。
はぁ、とため息を吐くと後ろから伸びてきた腕が開きっぱなしの資料本を掴む。続いてぱらぱらと捲る音。

「…意味分かんねェ」
「そりゃ馬鹿には理解出来ないようにできてるからな」

そう言って取り上げると他の本や資料も片していく。ユースタス屋はムッとしたような顔をしたがすぐに俺を強く抱き締めることで機嫌を直したようだ。
…っておいこれ完全におかしいだろ。何故俺を抱き締めて機嫌がよくなるんだ。だれかこれにツッこんでくれ。俺はもう疲れた。

「…終わったから離してくんない?」
「嫌だ」

おいてめぇさっきと言ってることが違うじゃねぇかこの野郎、というよう罵倒が一瞬で脳裏に浮かび、ついでに肘鉄でもくらわせてやろうかと思ったけど面倒くさいことになりそうなので止めておいた。(無理矢理)一緒に暮らすようになってからユースタス屋は短気だと知ったためだ。ほら、俺って結構平和主義者だから。

ばたん、と本を閉じるともう何かいいや、と思ってユースタス屋に背中を預けた。あーこいつ調子に乗るぞこれ。でもいいや、背筋ぴんって張ってんのも疲れたし。俺とユースタス屋って、一線越えた仲だし。

(……。待て待て俺どうしたどうした今の思考回路完璧やばいって何一線越えた仲とか俺はまだ認めてないってか何で今ちょっとすっぽり体が入ったからってユースタス屋って結構でかいんだなあとか考えたんだ意味分かんねぇしそもそも何でこんなに密着すること許してんだろああでも確かに自分から近づいたけどそれは)

「なぁ、」
「ぅわっ!はい何でしょうか!」

今の自分の思考回路に延々と思い連ねているといきなり声をかけられ途端に現実世界に引き戻される。引き戻されたのはいいけど急に耳元で、なぁとか言われて思わず訳の分からない返事をしてしまった。ユースタス屋の何こいつ的な目線がちょっと痛い。うん、でも逆にちょっとしか痛くないから別にいいか。

「今日何食いたい?」
「あー…オムライス」

そう言うとユースタス屋は分かったと言って立ち上がる。ついでにキスしてきやがった。まあ頬だから別にいいけど。

(……。何が“別にいい”んだ?ユースタス屋がキスしてきたこと?キスしたけど頬だったからセーフゾーンってことか?そもそも男が男にキスされて別にいいとかそれって正しい反応なのか?しかもこの間会った?ばっかりの男。…しかも幽霊。)



…そう、幽霊で、男だ。





………あれ?
もしかして俺、





絆され、て…る、


訳ないない。絶対ありえない。絆されてるとかそんなことない。この俺が男に絆されるなんて天と地が引っくり返ってもありえない。そもそも俺はホモじゃない。(でもユースタス屋にそう言ったら、俺はお前だから好きになったんだ(!)って言われたけ、ど)

大体ユースタス屋はちょっと顔がよくてちょっと料理が出来てちょっと優しくてかなり強引なだけ!それだけだ。




……。

なんで俺こんなに必死になってるんだろう…。


[ novel top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -