"愛しい"の飼育法 | ナノ

ユースタス屋がフラれるところが想像出来ないとか言って、俺は確かにフったんだよな、と昨日はそのことを考えていた。
だけどユースタス屋は何というか、平気そう。に見えるってだけの話だけど、朝いつも通り迎えに来てくれたしいつも通り話もしたし。普通だった。俺が友達でいよって言ったからなのかな。なら、言ってよかったなとは思うけど。


「お前またそんなん食って」
「だって腹空かねぇし」

長い午前授業から解放されてやっと訪れた昼休みは周りのクラスメイトの騒ぐ声で賑やかだった。いつもなら屋上で食べる俺たちも、さすがにこの季節になると寒くて屋上になんかいられなくなる。
眉根を寄せたユースタス屋に、メロンパンって結構腹に溜まるんだぞ?と袋を開けながら呟くと、どこがだよ、と呆れたように呟かれた。

「せめてもっと違うの食えよ。栄養偏りまくってんぞ」
「例えば?」

開けた瞬間袋から漂う甘い匂いに空腹を誘われる訳でもなく、惰性で一口かじるとユースタス屋は何か考えるような声を出した。

「自分で弁当作るとか」
「出来たら万々歳だ」
「つうより火山が噴火するレベル」
「うるせ」

ムッと頬を膨らませるともう一口。笑うユースタス屋に拗ねたように唇を尖らせると、機嫌直せよ、と宥めるように卵焼きが近付いてきたからぱくりとそれに食いついた。

「うま。相変わらず料理上手でいいな、ユースタス屋は」
「そりゃどうも。作り方でも教えてやろうか?」
「ならうち来て飯作ってよ」
「自分で作る気はねェのかよ」

ユースタス屋の作る卵焼きは適度に甘くて時間が経ってもふわふわしていてとにかく美味い。両親が共働きとはいえ、自分で出来ることは自分で、のスタンスは偉いと何かと俺は思っている。俺は一人暮らしだけどそんなこと考えないし、やろうとも思わないし、毎月仕送りされる金で適当に暮らしているから一週間ずっとたらこスパゲティで暮らしていた日もあったぐらいだ。それでもこうして生きているんだから人間なかなかすごいと思う。

「ユースタス屋偉いな」
「…お前はいつも唐突なんだよ」
「唐突にそう思ったんだ」

よしよしとユースタス屋の頭を撫でてやるとヤメロと手を止められる。口調のわりに優しい手つきは相変わらずで、そんなユースタス屋をじっと見ていればじろじろ見るなと怒られた。仕方なくメロンパンをかじる。

「お前昨日何食った?」
「またチェックか…」
「お前が不摂生すぎるからだろ。で?」
「…カルボナーラ風リゾット」
「おい何日目だそれ」
「聞いて驚くな新記録だ。今日も食うからこれで十二日目」
「死にたいのか?」
「そこは聞くな。俺も最近自覚しだしてるから」

いくらあのリゾットがお手軽でしかも美味いとは言っても十二日連続で食い続ければさすがに飽きてくる。その感情に訴えかけるように体の調子も絶好調とはかけ離れていた。何せその前はずっと焼きうどんを食っていたのだ。そろそろぶっ倒れてもいいんじゃないかとは薄々自分でも気づいている。

「お前なぁ…」
「ため息ドウモ」
「どういたしまして。…なあ、そのパン貰ってもいいか?」
「は?」
「交換しねェ?」

これと、とユースタス屋は自分の弁当を指差した。
食いかけ、と言ってもまだほんとんど食べられていない栄養満点で美味いユースタス屋の弁当と、俺が三口ほどかじったコンビニのメロンパン一つではどうにも釣り合わない気がして手元のそれを交互に見比べる。でもユースタス屋が嫌か?と聞いてきたので首を振ると大人しくメロンパンを差し出した。

「なんで?俺の食いかけが欲しかったのか?」
「ち、げェよ!お前が不摂生すぎて心配なだけ!」

一瞬赤くなったユースタス屋の頬に首を傾げながら有り難く弁当を頂戴する。
美味い美味いと言いながら食っていけば俺にしてみれば珍しくも残り半分だった。でもさすがにもう腹八分目は越えている。

「ユースタス屋、あーん」
「…は?」
「あーんだって。俺もう腹いっぱいでいらないから、ご馳走様」
「じゃあ寄越せ。俺が食うから。自分で」
「え、もうこれ俺のだし。ユースタス屋がくれたから」
「うざっ」
「だからあーんっつってんだろ。早く」

腕が疲れる、と文句を言えばユースタス屋はじゃあやるなよと呟いたが、ユースタス屋が嫌だと言えば言うほど何だかそうやって食べさせたくなった俺にやめる気はない。
でもなかなか食べてくれないユースタス屋に、他の奴は食べてくれるのに、とぼそりと呟くとその体がぴくりと震えた。

「ユースタス屋?」
「…他の奴って誰だ?」
「え…あー…言ってもキャスだけだぞ?ペンはたまにだけ…それがどうかしたのか?」
「別に…早く食わせろ」
「なんだよいきなり」

どことなくホッとしたような顔をしたユースタス屋に首を傾げるといきなり口を開けられて、急な変わり様を不思議に思いつつもそこにウィンナーを突っ込んだ。
俺としては一回のつもりだったけど食べ終わったユースタス屋がまた口を開けたので再度箸を運んでやる。そんなことを繰り返していたらいつの間にか全部ユースタス屋の胃袋に収められてしまった。

「あれだ、お前から食わせてもらうと美味く感じる」
「元から美味いだろ」
「…そういうんじゃなくてだな」
「え?」
「いや…いい。お前に変化球が通用しないのは分かってんのにな」
「はぁ…」

がくりと項垂れたユースタス屋に首を傾げると気にするなというように手を振られる。
ユースタス屋はたまにこうやって俺が分からないような顔をするとすぐに自己完結するのだ。それを知ってて無理矢理話を合わせると、分かってねェだろ、とすぐにバレてしまうから自己完結したユースタス屋の脳内は謎のままだ。そういうときは聞いても教えてくれないのであまりに気にしないことにしている。

「なあ、明日もする?あーんって」
「…何で?」
「やりたいからじゃ駄目?」

何となくユースタス屋に食べさせてるときは楽しかったので明日もしたいなと強請ればユースタス屋は理由を聞いてきたけど特にない。じっとユースタス屋を見上げて首を傾げると何だかとても重いため息を吐かれた。
それにもしかしたら嫌だったかなと、駄目?と眉根を下げるとユースタス屋は慌てて分かった分かったと言ってくる。その慌てぶりがおかしくて笑うとユースタス屋は少し頬を赤くして、それからまたため息を吐いた。



「ため息ばっか吐いてどうしたんだ?」
「弄ばれてるな、って思って」
「はぁ?」




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