"愛しい"の飼育法 | ナノ

ユースタス屋に好きな人が出来たんだって。

だって、って言うのは本人から直接聞かされた訳でもなく、不可抗力でたまたま耳に入ってきた情報がそれだったからだ。確か廊下あたりで女子がフラれたって騒いでいた。好きな人がいるからごめんだって。

ふうんユースタス屋にも好きな人が出来たのか、と思いながらちらりと隣を歩く横顔を盗み見た。俺はその好きな人とやらがちょっと気になっていたりする。

「ユースタス屋」
「あ?」
「好きな人って誰?」
「っ、ゲホ…おま、いきなりなんだよ」
「んー…なんか風の噂で好きな人がいると聞いて。興味あるな、と」

さっき自販で買ったココア微糖を飲んでいたユースタス屋は俺の質問にゲホゲホ噎せる。大丈夫?とマフラーをしっかり口許まで引き寄せつつ首を傾げると大丈夫?じゃねーよ…とユースタス屋はぼそりと呟いた。
だって気になるものは気になるんだから仕方ないじゃないか。唇を尖らせるとユースタス屋は困ったように頭を掻いた。

「あ、じゃああれだ。ヒントちょうだい。何組?部活は?そもそもタメなのか?」
「一気に聞きすぎ。つか別に…んなのどうでもいいだろ」
「え、よくねぇよ。気になるもん」
「…何で?」
「いやだから気になるから」
「何で気になんの?」
「なんで…?別に気になるから」
「お前…会話する気あんのか」

はぁ、と明らかに呆れたようにため息を吐いたユースタス屋にムッと頬を膨らませる。気になるものは気になる、でいいじゃないか。そのどこがいけないんだ。大体友達(ってか悪友?)に好きな奴が出来たら気になるもんじゃないのか普通。お年頃なんだからそういう話にもなるだろ普通。
だけどユースタス屋はやっぱり言う気がないらしく、俺が頬を膨らませるとユースタス屋も黙ってしまった。じゃあいいや。質問を変えよう。

「告白とかしねぇの?その子に」
「…しても無駄」
「なんで?もう彼氏がいんのか?」
「俺が知ってる限りでは誰とも付き合ってねェ」
「じゃあ告白すればいいのに」
「無理」

無理だから、ともう一度ユースタス屋は呟くと飲み終わったココアをコンビニのゴミ箱に捨てた。俺はユースタス屋を見つめながら無理の理由を考える。
ユースタス屋は強面だけど顔は整っているし、話してみると意外と気さくでまた面倒見もいいのだ。それに優しい。そのことを知っている女子の間では結構人気のあることを知っていた。ユースタス屋が好きだと言ってしまえば大抵の女の子はYESと答えてしまうと思うんだけどな。

「…お前は?」
「え?」
「好きな奴…とかいないのか?」
「いないよ」
「あっそ…」

ぼんやり考えていたら不意にユースタス屋が尋ねてきたので俺はすぐに切り返した。それにどこか項垂れたようなユースタス屋に首を傾げる。何なんだ?と思いながら息を吐く。真っ白だ、冬だなぁと思いながらユースタス屋に話しかけた。

「俺思ったんだけど」
「今度は何だ」
「ユースタス屋が告白したら断られる確率の方が少ないと思う」
「何なんだお前…応援でもしてくれてんのか?」
「さあ?でもフラれるユースタス屋が想像できないなって」

何だそりゃ、と呆れたように言ったユースタス屋に本当だ、と寒さに震えつつ声を出した。そしたらユースタス屋が不意にぴたりと足を止めたもんだから、俺もユースタス屋よりも二歩先に歩いていた足を止める。なに?と首を傾げるとユースタス屋はしっかりとこちらを見つめながら、俺が告白すれば絶対断られねェんだよな?と呟く。まあ例外もあるだろうけど大体はいいだろうとか思いながら俺は首を傾げつつ頷いた。
そしたらユースタス屋が一歩距離を縮めて。

「好きだ」
「……え、あ、は?え、うん、まあ俺も…」
「まてまてまて、お前のすきって確実に友達としての好きだろ」
「え、なに?…違うのか?」
「違ェよその…あれだ、恋愛感情として好きだ」
「誰が?」
「俺が」
「…?…ああ!その好きな人の話な」
「いやいや何納得した!みたいな顔してんだ、全然違ェよ。俺が、お前を、好きなの。恋愛感情として!」

半ばやけくそ気味に言いきったユースタス屋に頭の中は大混乱だ。ユースタス屋が好きって俺を?恋愛感情としてって手繋ぎたいとかキスしたいとかセックスしたいとかそういうことだよな?
え?ユースタス屋って、

「俺とセックスしたいのか?」
「は?!な、なんでいきなりそうなんだよ!」
「だって恋愛感情としてとか言ったじゃん」
「言ったけどいろんな段階すっ飛ばしすぎだろお前!」

馬鹿か!と決して夕日のせいではないだろう赤く染まった顔を惜し気もなくさらしながら俺を怒鳴り付けるユースタス屋に眉根を寄せた。でも別に間違ってはいないのに、とか思いながら俺も考えてみる。ユースタス屋と手を繋いだりキスしたりセックスしたりする場面を。だけど全部靄がかかったみたいに明瞭ではなくて、セックスなんて靄なんか越えて無だ。想像できない。
あれだ、無理だわ。

「うん、やっぱ無理だ。ごめんユースタス屋、友達でいよう。俺お前とセックスしてるとこ想像できない」
「だから何でそこに固執すんだよ!別にそれだけが全部じゃないだろ」
「じゃあ俺とシたくないのか?」
「いや…まあそりゃあ…」
「ほら。でも俺想像できないしシないよ。でもユースタス屋のことは好きだから友達でいよ」
「何なんだお前…」

そんなの生殺しっつうか…やっぱり無理なんじゃねェか、と言ったユースタス屋に、うんごめん、と返すとマフラーをぎゅっと巻き直す。
だって俺あれだ、例外もあるだろうけどって前置きしたじゃないか、心中で。大体そういうのは女の子に言うべき。勿体ないなぁ、ユースタス屋、俺にそんな言葉使うなんて。

「…な、俺を好きになってくれる可能性、とかない訳?」
「んー…分かんね。別にユースタス屋のことは元からすきだから…俺が想像できるぐらいになったら『好き』なんじゃね?」

想像出来て悪くないなって思えるなら、ユースタス屋のこと好きだなってことだろ?と言うとユースタス屋は、まあそうなのかもだけど…とどこか納得のいかないような声を出した。でも可能性がない訳じゃ、とブツブツ呟いたユースタス屋に、なに?と言おうとして家につく。いいや、と思うとユースタス屋に手を振った。ばいばい、と言うとユースタス屋は顔を上げてああもう着いたのかというような顔をするとじゃあな、と軽く手を振り返してくれた。また明日な、はいつもの決まり文句だ。去っていくユースタス屋の後ろ姿を見つめながら、あれ?もしかして俺ユースタス屋のことフったんじゃないか?とふと思った。




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