惚れられたが最後 | ナノ

兄弟で、双子で、ある一人の同じ人間を好きになるなんて、そんなどこぞの少女漫画でもあるまいし。




「お前さ、ローのこと好きだろ」
「…んだよいきなり」
「惚けんなよ」

何をするでもなく、暇な俺はボーッとテレビを見つめていた。ついているのは大して面白くもないバラエティ番組で、でもやることがないので仕方がない。今日は休日なので学校は休みだが親は俺らを置いてどっか出かけた。いつもならトラファルガーといるけど、今日は友達と遊びに行ったみたいだった。だから珍しく兄貴と二人きり。暇だ、と思っていた矢先に兄貴がぼそりと呟いた。
突然の脈絡も何もないその言葉につい反応が遅れてしまう。いきなり何だという意味も交えて聞けば惚けるな、と。真っ直ぐこちらを向いた兄貴に視線がそらせない。

「…あんたはどうなんだ」
「俺?好きだ」

さらりと、むしろケロリと言われた言葉には今更何の感慨も沸いてこない。そんなの、こいつの態度を見りゃ明確で一々聞かなくても分かりきったことなのに、何で俺聞いたんだろうと思うぐらいだ。逆を言えば俺がトラファルガーを好きだということだってこいつから見れば明確で、一々確認する必要はない。今更、あれはもしや思い違いなのか、とお互い勘繰る仲でもない。それにしては時間が経ちすぎている。

「どーなんだよ」
「んなもん…好きに決まってんだろ」

トラファルガーのことは、好きだ。ずっと昔から、今も変わりない。それはきっと兄貴も同じで。
最初はお互い自分のことしか考えていなかったが、歳を取るにつれて、だんだんと見えてくるお互いのトラファルガーが好きだという部分。厄介だ。初め俺はそう思った。好きな相手がよりにもよってこいつと被るなんて。とにかく面倒だと思った。でも諦めるにはトラファルガーが好きすぎて無理。
その時の兄貴がどう思ってるか何て微塵も知らなかったから(せいぜい俺と同じでトラファルガーが好きなんだな、ぐらい)特に何をするでもなく今日まで過ごしてきた。

そりゃ兄貴はスキンシップ過多でよくトラファルガーにベタベタ触るし、そんときはやっぱり俺も苛々するからやり返すし、んで喧嘩になってトラファルガーが慌てるし、でもそれは所謂オフザケの延長線にあると自分の中のどっかで思っていた。それはどこか根本にある、トラファルガーは可愛い弟のような存在、みたいな思考回路がそうさせていたんだと思う。本気でアプローチだなんて、多分俺もこいつも一度もしたことがない。
可愛いと思うのも好きだと思うのもやっぱり弟みたいな存在だからで、だから兄貴も結局は何も言ってこなかったんだと勝手に思っていた。

今までは。


「そもそもお前の好きって何だ?弟みたいで可愛いから好きなのか?それとも恋愛対象としての好きなのか?」
「そりゃ……」
「俺は恋愛対象としての、好き」

口ごもる俺をばっさりと切り捨てるように兄貴は言った。何だこれ。何だか分からないけど胸の辺りがモヤモヤする。
今更、訳が分からない。今までずっと可愛い弟ぐらいにしか思ってなかった存在を、はいじゃあ恋愛対象として好きですか?と聞かれても答えはノーだ。なのにそう思うと途端に胸の辺りがモヤモヤする。兄貴のその真剣な表情も、断言できる姿も、モヤモヤする原因の一部にしかならない。

というか、イライラする。

はっきり好きだと言えない自分に、言える兄貴に、イライラする。兄貴はいつからそういう風な目でトラファルガーを見て、好きだ、と思っていたのだろう。俺が勝手にそうだと思っていたオフザケの延長線も、実は兄貴は全て本気だったのだろうか。そう思うと無性にイライラする。

だけど、あれだけトラファルガーを好きだと想っておいて、いざ恋愛対象として好きなのかどうかと聞かれると、自信がなかった。

実は俺はやっぱり弟みたいな存在として好きなんじゃないか。兄貴がトラファルガーに触れてイライラするのも、好きな人が他人に触れられているという嫉妬よりは、自分の大切な人がとられるんじゃないかという不安からくるものなのじゃないか。あの笑顔が兄貴だけに向けられてしまうのが嫌なだけじゃないのか。
頭の中がぐちゃぐちゃで何が何だかもう分からない。

「あんたはトラファルガーとキスしたいとか思うのか」
「思うさ。抱き締めてぇしキスもしてぇしセックスも。全部」

堪らず聞いた。聞いた後余計分からなくなった。
俺はそう思うのだろうか。俺もトラファルガーとキスしたりセックスしたいと思っているのだろうか。自分のことなのに全く分からない。というかそんなこと、そもそも考えたことがない。キス?セックス?頭の容量がパンクしそうだ。

でも迷ってる時点で俺はトラファルガーのこと、そういう目で見てないのかもな。何となくそう思った。



「で、答えられねぇってことは…恋愛感情はねぇってこと?」
「…ない」
「ローは弟みたいな存在として好きだと」
「ああ」

ふーん、と兄貴が言う。何だか自分が情けなかった。

「じゃあ手伝えよ」
「は?」
「お互いその相手を知っていて、仲良くて、しかも片方は相手のことを好きじゃない。ならもう片方がその相手と上手くいくように手伝うのが普通だろ?」
「それは何か…嫌だ」
「何でだよ。好きじゃねぇんだろ?ならいいじゃねぇか」

兄貴が言ってることは正論だ。でも二人の距離がさらに縮まり、恋人同士になっていく姿を想像して何故かズキリと胸が痛んだ。それに兄貴の言葉が突き刺さる。確かに好きでもないなら、嫌がるなんておかしい。

「…そう、だよな」
「そうそう。じゃあ宜しくな」

俺がローをオトすのを。
兄貴がそう言った気がしたけど聞こえないフリをした。そんな俺を見て、兄貴はにやり、とどこか馬鹿にしたように笑った。




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