惚れられたが最後 | ナノ

俺と兄貴の性格は似て非なるものだと自負している。むしろあんな傲慢野郎と同じにされたら困るのはこっちだ。
大体ほんの数時間ばかし早く産まれただけで兄貴面しやがって。あまつさえそう呼ぶことを強制させてくるんだから全く腹の立つ奴だと思う。まあ確かに同じ名前だから呼び方に困るってのもあるけどよ。しかも同じ見た目ときたもんだ。一体全体どういう理由があって、まあ見た目は仕方がないが、同じ名前にしたんだかさっぱり分からない。今でこそ慣れたが区別がないとどちらを呼んでるのかすら分からないほどだ。全く同じなのは顔だけで十分だってのに。

でもまあ俺らも餓鬼の頃とは違って歳食ってんだからそれなりに知恵もつけている訳で。一体何度目か、間違えられることにキレた兄貴が見た目で分かるようにしてくれたお陰で他人にも随分優しくなった。立てていたそれをばさりとおろして、緩くウェーブがかった赤に時折うざったいのかピンで髪を止めているの、そいつが兄貴。
見た目がはっきりすると何となくどっちに話しかけたいのかもはっきり見えてくる。そのお陰で間違った告白だとか手紙だとかプレゼントをお互い受け取ることもなくなった。(だって「キッド君ですか?」って言われてもどっちもキッド君だからなぁ。)

だけどトラファルガーは違った。

あいつは双子を見分ける能力に長けてるんじゃないかと思うほど、親でさえ曖昧な互いの見分けをピタリとしてやってくれる。しかもそれがずっとずっと前のときからそうだったんだから、いつも互いの存在があやふやだった俺たちにとっては衝撃的だった。
どっちがどっちか分かんないから、こっちがきーくんでこっちがゆーちゃん!と勝手に名づけられたときのことも未だ覚えている。而して昔っからそれで呼び続けたせいか、トラファルガーのその呼び方は今も同じままだったりする。


「おら、さっさとしねぇと遅刻すんぞ」
「待ってよベポがいない!」
「…何だそりゃ」
「家の鍵!についてる白熊」
「探してんのは鍵か白熊かはっきりさせろよ」

トラファルガーの朝は相変わらず忙しない。迎えに来たちょうどさっきまでは玄関で靴を履いていたのに、急に思い出したような声を上げて鞄の中身を逆さに引っくり返す始末。ゴソゴソと探っては鍵がないと騒ぎ立てる。

「入学早々遅刻か」
「だって見つかんねぇんだもん!」

そう、今日は新学期第一日目。まあやけに学校近いからまだ時間はあるけれども。それに俺らは遅刻とかどうでもいいからな。兄貴なんか未だ立ったままうつらうつら舟を漕いでいるし。あんたはいい加減目覚ませばいいと思う。

「…あーもしかしてこれか?」

ふわっと欠伸をした兄貴が何か見つけたらしい。ちらりと玄関に置いてある靴箱の上を見やると白色の物体を手に掴む。チャリ、と金属のぶつかる音がしてそれにトラファルガーは顔を上げた。

「あ、それそれ!どこにあった?」
「そこんとこ。お前馬鹿だろ」

眠たげな顔で、それでも呆れたように指を示すとトラファルガーに鍵を手渡す。馬鹿は余計だ、とムッとしたようにいいながらも、ありがとうと笑いながら受け取った。やっぱり、というか、相変わらず笑った顔は可愛いんだよな。

「きーくん?置いてくよ?」

その笑顔に見惚れてボケッとしていた俺の制服を掴むとクイクイと引っ張って首を傾げたトラファルガーにハッとする。何でもねェと頭を撫でると兄貴は全く面白くなさそうな顔をした。俺がその笑顔に見惚れてることに気付いたからだろう、俺だって兄貴が見惚れてたらすぐ分かるしそれと同じことだ。そんで面白くないのもお互い様。

似てるのは顔だけで十分だと常のように断言する俺らにも、お互いどうしようなもなく似通ったとこだって一つぐらいある訳だ。その事実がまた一人の人間を対象としたものなんだから厄介なもんで、世の中そうそう上手くはいかないらしい。血は争えないってやつか、と適当に思いながら、携帯を見て遅刻する!と言ったトラファルガーに引っ張られながら玄関をあとにした。




[ novel top ]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -