そのお陰でかすぐに仲良くなれて、トラファルガーも俺らを気に入ったみたいだった。いつでもどこでもちょこちょこ後をついてきて、俺らといるときはよく笑う。実際トラファルガーは一つ下で、何だか弟が出来た気分だった。
その根本は今でも変わりないのだけれど。
「お前さ、無理してここ受ける必要なくね?」
「そーそ。もっといいとこ絶対狙えるって」
ここ最近、俺らはトラファルガーに会う度にこんな言葉ばっかりかけている。というより会わない日の方が稀なので勉強の話題になるとこの話になると言った方が語弊がない。
「いいの。俺はあの高校で」
ふいっとそっぽを向いたトラファルガーはムスッとしたような顔をしていてこの話はもうしたくないようだった。
そう、話題はトラファルガーの進路。こいつぐらい頭がよけりゃここらで一番いいとこだって裕に行けるだろうに俺は地元の高校でいい、の一点張り。確かにトラファルガーが行こうとしている学校へのメリットがない訳ではないけれど。ここから徒歩十分ほどの近い距離にあるし校風が比較的自由ということで有名なそこはなかなか人気もあったりする。別に頭は良くもなし悪くもなし。だがそんな、いわゆる普通高校に全国模試一位のトラファルガーが入り込もうとするんだから問題はありすぎるだろう。親には何て言われてるか知らないがセンコーには絶対何か言われてるはず。
「大体何でそこまでして行きたがるんだよ?」
正論とも言える疑問を兄貴がトラファルガーに向かって問いかければトラファルガーは視線をそらすように俯いた。
「なんで、二人とも…そんな、みんなと同じ事…」
俯いたトラファルガーがぼそりと呟く。皆と同じ事って何でもっと上にいかないんだとかそういうことなのだろうか。俯いたトラファルガーはまた黙ってしまって、俺は兄貴を見ると兄貴は困ったように肩を竦めた。
「なぁ、何でそこ行きたいのか教えてくれよ。そしたらお前のことちゃんと応援出来るだろうからさ」
「俺らだって、お前がそこに行きたい理由があるなら止めたりなんてしないぜ?」
ベッドの上に座るトラファルガーの横に腰掛けるとポンポンと軽く頭を撫でる。その反対側に座った兄貴も対トラファルガー用の優しい口調でそう言うとにこりと笑った。その顔は毎回思うが明らかに詐欺だろ。なんて思ってたらトラファルガーがぼそりと呟いた。
「…笑ったりしないなら、言う」
「笑わねェよ」
呟かれた声に頭を撫でて安心させるように言う。そうすればトラファルガーは恐る恐る顔を上げて。
「ずっと、二人と一緒にいれる…から」
「…は?」
「っ、だから!きーくんもゆーちゃんもその学校に通ってるから、俺もそこに行けばずっと一緒にいれるか、なって…」
思わずぱちぱちと瞬きを繰り返し、聞き返せば真っ赤な顔したトラファルガーが半ば自棄気味に言った。だけどやっぱり最後の方になるにつれて声は小さくなり、終いにはもう一度俯いてしまう。でもその顔は耳まで真っ赤で。
「俺らと一緒にいたいからそこに行く…ってことか?」
「…悪いか」
別に家だって隣同士なんだし会いたければすぐ会える。学校が違うからって疎遠になる仲でもねェのにずっと一緒にいたいから、と。
兄貴がぼそりと聞けばトラファルガーは強めの口調で、それでも少し瞳に涙を溜めながらキッと睨み付けてきた。
だけどもちろんそんなの、
「「悪くねェに決まってんだろ」」
お互い自然と口をついて出た言葉にトラファルガーはぱちぱちと瞬きをした。だけどそのあとすぐに照れたような顔をしながら嬉しそうに笑うもんだから。その可愛いの何のって、これはきっと見なければ分からない。でもこんな笑顔誰にも見せる気はないけどな。
「あーもう本当可愛いな、お前!」
「わっ、ちょ、ゆーちゃん…!」
…もちろん兄貴にも。と思ったがそれはなかなか難しそうだ。兄貴の腕の中でわたわたと慌てるトラファルガーを今度は俺の腕に引き寄せながらそう思った。