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(同棲パロ)


「お帰りユースタス屋!」

ドアを開けると同時に聞こえた声に少し驚く。トラファルガーが俺を出迎えるなんてとてつもなく稀だからだ。何か伝えたいことがある時や機嫌がいい時だけで、きっと今日は機嫌がいいんだろう、なんて。考えていたら腕を引っ張られて早くと急かされた。機嫌がいい理由は果たして何だろうかと思いながらリビングに入ると…おい、何だこの焦げた臭いは。

「…トラファルガー…これ…」
「すごくね?料理がうまくいったんだ!」

聞いて驚くなよと言うように目をキラキラさせたトラファルガーに若干頬が引き攣る。焦げ臭いということで少し思うところもあったがいざ直面するとなると話は別だ。
あの白い皿の上に乗せられた黒い塊は一体何なんだろうか。案に俺に死ねと言ってるんだろうか。

「ちなみにこれは…?」
「焼魚。見りゃ分かるだろ?」
「…焼けすぎじゃね?」
「あーちょっと焦がした」

本日のメインと思われるそれを指差せばトラファルガーは至って普通に答えてくれた。おい待てちょっと焦がしたって何だ。ちょっとどころか消し炭の域だぞこれ。

非常にテーブルにつきたくない俺はのろのろとした緩慢な動作で服を着替えるが、トラファルガーの早く食べて的な視線にどうしても堪えられないでいた。男なら腹を括るしかないと一つ深呼吸をして椅子に座るとトラファルガーにこにこ笑う。



…あれ、何だこれ。目の錯覚か?何か結構、

「…上手くできてんじゃん」
「だろ?」

白い皿の上に置かれた黒い塊こと焼魚にしか目のいっていなかった俺は、それ以外がなかなか上手く出来ていることにここでやっと気がついた。今日は和風にしてみたんだと言ったトラファルガーにテーブルをじっと眺める。
温かそうな湯気を立てる白御飯に味噌汁。焼魚はおいといて、だし巻き玉子なんかは結構よく出来ていると思う。あとは冷奴と野菜炒め的な何か。どれも普段トラファルガーが作り出すものから考えれば比較的マシに見える。案外上手くいったというのは本当なのかもしれない。焼魚を除いて。

「ユースタス屋?食わねぇの?」
「いや、食う。つかお前は?」
「俺腹減ってないからいらない」

何故自分は食わないのにこんなにたくさん作ったんだこいつは。全部俺が食えってことか?いや食えなくはねェけどよ。もうちょい考えてから作れよ。
などと考えつつ、いただきますと呟くととりあえずだし巻き玉子に箸を伸ばした。

「綺麗に巻けたと思わね?」
「まあな」
「おいし?」
「………」
「ユースタス屋?」
「……う、まい」

今の俺の声、裏返っていたり苦しそうだったりしてはなかっただろうか。眉間に皺は寄っていないだろうか。でもトラファルガーは嬉しそうに、そっか、と笑っているのできっと気付いていない。持ちこたえろ俺。無心だ、無心になれ。そして味わわずに飲み込め。

トラファルガーのだし巻き玉子は何と言うか詐欺だった。綺麗な見た目に騙されたのだ。味は残念ながらついてこなかったらしい。砂糖と塩を間違えたのだろうか。何故だが知らないが激しくしょっぱい。
まずだし巻き玉子に先手を打たれて箸を進めるのが非常に億劫になる。とりあえず味噌汁を飲んだ。味がしない。薄い。薄すぎる。でもトラファルガーは一々おいしい?と聞いてくるのでついうまいと答えてしまう。何だって今日に限ってそんな聞いてくるんだろうかと思ったときにそう言えば今日はトラファルガーの中では上手くいったんだっけなぁと遠い目をしながら思った。

「ユースタス屋、これ食べないの?」
「…ああ、食べる」

もそもそと野菜炒め的な何かを食べていたらトラファルガーに指差されて軽く頷いた。こいつの目…勉強のし過ぎでイカれたんじゃねェか?と思いながらゆっくりと皿を引き寄せる。切り身なのかそれとも丸ごと焼いたのか消し炭状態で判断が出来ないのでとりあえず箸をいれる。シャキシャキ、と焼魚にあるまじき音がした。

落ち着け俺。これを消し炭だと思うから悪いんだ。トラファルガーの言う通りちょっと焦げただけの焼魚だと思えばいいんだ。そう、焼魚。焼魚。



「ユースタス屋?どう?」
「こ、れは……まず」
「え?」
「ちょーうめェ」
「本当?」
「ああ」
「よかったー。焦がしたからどうかなって思ってさ」

ふふ、と笑うトラファルガーが可愛くて目の前の消し炭が憎らしい。正直もう食べたくない。せめてトラファルガーがどっかにいってくれたらどうにかなるんだが。

「…そう言えばお前風呂は?」
「もう入った」
「宿題とか」
「終わった」
「そろそろ寝る時間じゃね?」
「まだ二十時半だけど?」

どうやらどうしても俺に完食させたいらしい。焼魚とだし巻き玉子以外は何とかいけるがこの二つはもうお手上げだ。正直言って不味すぎる。特に焼魚。メインなだけあって威力が並大抵ではない。
それでもにこにこ笑うトラファルガーが可愛くて結局飲み込むようにして口に放り込んだ。唯一美味かったのは冷奴だが豆腐に醤油と鰹節だけのそれが不味かったら俺はもう生きていけない。



「……ご馳走様」

カタリと箸を置くと最後の一口を飲み込む。たった今俺は愛の偉大さを痛感した。そしてトラファルガーの料理の腕を舐めていた。これからも永遠にこれが続くのだろうかと思うだけでゾッとする。何とかしないとと思いながら食器を片付けるトラファルガーをぼんやり見つめた。

「ユースタス屋って和食好き?」
「何で?」
「いつもよりおいしいっていっぱい言ってくれた」

少し照れながら、でも嬉しそうに笑ったトラファルガーに乾いた笑みを返す。これはヤバイ。こいつこれから和食作りまくるぞ。それだけはマジで勘弁してもらいたい。でもだからってどうすりゃいんだ。

だんだんと憂鬱になっていく思考回路を投げ出すように首を振ると、 ため息を吐いた。幸い今日は金曜日だ。明日は休み。
とりあえずトラファルガーが料理してるところを見てみようと思う。

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