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(同棲パロ)

「ペンギン、俺とキスしやがれ!」
「……は?」



ソファにふんぞり返って一言言い放つとペンギンは少しポカンとしてから手で額を押さえた。訳が分からないと呟くその唇に触れようと腕を伸ばせばサッと避けられて眉根を寄せる。それに何だか重いため息を吐かれて。

「一応聞くけど…何で?」
「ユースタス屋にキスがヘタクソだって言われたから見返したい」

俺が意気込んでそう言うとペンギンは再度ため息を吐いた。そんなことでわざわざ呼び出したのかとぶつぶつ呟くペンギンはこのさい無視。
だってさ、ヘタクソだぜ?何だよヘタクソって。酸欠になるようなキスする方が悪ぃんだろうが。

「だからって、」
「いーだろ別に減るもんでもねぇし。お前もキラー屋とキスするときの練習だと思えば問題ない」
「…あんたって奴は」

頭を押さえてそう言うとペンギンはちらりとこちらに視線を向けて一歩下がった。それを腕を掴んで引き寄せる。ぐいっと逃れるように引っ込められたら倍の力で握り返してギリギリと腕に力を込める。でも口調と表情はあくまで切なげに。

「こんなこと頼めるのはお前しかいないの」
「…本人に練習台になってもらえばいいじゃん」
「だからそれじゃ意味ないだろ!ユースタス屋を見返したいのにユースタス屋とキスしたって意味ない!」
「別に大してうまくない奴と練習したって…」
「他人とすることに意義がある!うまいかどうかは二の次だ…多分」

お前だって分かるだろこの気持ち!と言えばやや視線をそらしたペンギンに、キラーはそんなこと言わないし、と言われてしまった。クソッ何でそこで若干照れんだよ愛されやがって!

「いーだろ別に減るもんでもないし」
「減るとか減らないとかそういう問題じゃない」
「俺とすんの嫌?」
「嫌とかそういう問題でもないって」
「じゃあなに」
「えー…気持ち?の問題?」
「は?」
「だから!ローにも俺にも相手いるのにそういうことすんのはどうかなって」
「あー…別によくね?だってペンギンだし」
「意味わかんね…」

終わらない押し問答にペンギンが再度ため息。だって別にいいじゃん。幼馴染だし、ペンギンだし。キャスでもいいけどあいつはマジで歯ぶつけてきそうだからやだ。だからペンギンに頼もうって決めてたのに。大体ドレーク屋とかに頼むよりマシじゃね?だってそれだとなんか「浮気」って感じするじゃん。
あーでもキラー屋に罪悪感とか感じちゃうのかなペンギン。一途だもんなー。いや俺も一途なんだけどね。でも確かにこれってキラー屋とユースタス屋がキスしてるようなもんだからな。そこに他意はなくてもやっぱり嫌かも。

「ペンギン、やっぱ」
「………一回だけ」
「え?」
「一回だけなら付き合ってやっても」
「マジで!」

やっぱり止めとこうか、と言おうとすれば斜め下を向いたペンギンが口を開く。思いもよらなかったその言葉に、ペンギンが言い終わらないうちに叫ぶと思わずガッツポーズ。結局何だかんだ言ってもこの幼馴染は俺に激甘。にやっと笑いながら取り消しなしなと言うと、やっぱ言わなきゃよかったと後悔の念を浮かべるペンギンを引き寄せた。

「…してもいいけどやっぱ上達は望めない気が」
「ばぁか。だからすることに意義があんだよ」
「…で、腕がここにある必要性は?」
「雰囲気が出る」
「………」
「早く」

若干眉根を寄せたペンギンにも気づかないフリをして早くと急かすと首に回した腕に力を込めた。そうすればやっと諦めたらしいペンギンの顔がゆっくりと近づいてくる。ペンギンがそっと目を瞑ったのを確認してから目を瞑って、あとは二人キスを待つだけ。

だったのに。





「……何してんだ」


見てろよユースタス屋絶対見返してやるからな、と心中で密かに誓った誓いは呆気なく崩れ落ちた。その元凶ともいえる声にペンギンを突き飛ばす(ペンギンごめん。)と、ああ、マジかよ。思わずオージーザス!と天を仰ぎたくなるほど最悪なことに眉根を寄せてこちらを睨み付けるユースタス屋がいた。

やべぇ。マジでやべぇ。視界の隅で打った背中を擦ってるペンギンとかマジでどうでもいい。や、どうでもよくはないけど。つか何で今日に限ってそんなに帰ってくるの早い、

「何してんだって聞いてんだけど?」
「…別に、何も、」
「嘘吐いてんじゃねェよ」

俺のいない間に浮気かよ、と自嘲気味に笑ったユースタス屋に首を振る。ああもう何て言ったらいいか分からない。キスがヘタクソだって言われたんで練習しようとしてましたーとか死んでも言いたくない。つかペンギンどうしよう。俺とユースタス屋の修羅場に可哀想にも巻き込まれた無実なペンギンはどうしていいか分からないという風に俺を見詰めてくる。
ごめんなペンギン、俺が悪かった。きっとキラー屋にもいらぬ誤解をかける気がする。だから早くその誤解を解かなきゃなんだけど何て言ったらいいか分からない。ああもう悪かったからペンギン俺を見詰めるのをやめてくれ。お前がそうやってじっと俺を見詰めている間にもユースタス屋の怒りのボルテージが上がっていくから。

いやーな沈黙が場を支配する。誰も一言も口を聞かずにお互い見詰めあったまま。でもこのままじゃ埒があかない。

「ペンギン、ごめんな。悪いけど帰って」
「でも、」
「いいから」

なるべく力を込めて押し返すようにそう言うとペンギンは観念したようでちらりと俺を見ると部屋を出ていった。本当にあいつはいい奴だ。今ここで何でキスしようとしてたのかユースタス屋にバラせるはずなのにその理由をペンギンは言わなかった。言ってくれても俺は文句言えないのに。
心中でキラー屋によろしくと呟きながら、あとでもっかい謝ろうと心に決めて、それでやっとユースタス屋と二人きり。さてどうしようかと頭を働かせるけれど、いい案は一つも思い浮かばなくて。

「いいのかよ、あいつ帰らせて」
「…ペンギンは関係ないし」
「別に二人でいてもよかったんだぜ?そしたら俺出てくし」
「だから違うって!なにもしてな……っ!」

蔑んだように笑うユースタス屋に顔を上げると思わず声を荒げてしまう。そしたらどさりと座っていたソファに押し倒された。ぎゅっと掴まれた肩がひどく痛い。

「っ、ぅ、いた…」
「何もしてない?キスしようとしてたじゃねェか」
「だ、から…あれは…っ!」
「何か言い訳あんのかよ」

あんなら聞いてやってもいいけど?と冷たい目線を寄越したユースタス屋にふいっと目をそらした。そう、ここで俺が素直に打ち明ければよかったんだ、その理由を。だけどやっぱり、なけなしのプライドが邪魔をする訳で。

「…言い訳もでてこねェってか」
「…ぃっ!」

すっと目を細めたユースタス屋に掴まれた肩をさらに強く握られて眉根を寄せる。いままでこんなに怒ったユースタス屋を俺は見たことがないから正直怖くてどうすればいいのか分からなかった。俺の痛がるようなことだって、絶対、しなかったのに。

「てめェが誰のもんか、きっちり教える必要があるみてェだな」

低い、聞いたこともないような怒った声で言われて瞳が揺らぐ。言えばよかったのに、俺。馬鹿だ。
このとき俺は自分のことしか考えてなくて、ユースタス屋のことはまるで考えていなかった。

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