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(学パロ)


「誰も誘ってくれなそうだから優しい俺が誘ってやるよ夏祭り」

学校帰り、夏祭りに浮き足立つ街並みを眺める俺に気付いたトラファルガーは唐突にそう言った。もう高校生で餓鬼でもねェし夏祭りに浮かれ騒ぐ歳でもない。別に行っても行かなくてもどうでもいい。しかもその誘い方。相変わらず可愛くねーと言おうとして俯いたトラファルガーの耳が赤いことに気付いた。

「…行くか夏祭り」
「ったりめーだ。俺が誘ってやったんだからな」

偉そうに言い放ったトラファルガーは、でもどこか嬉しそうに笑ったので、思わず手を伸ばすとその頭を撫でた。そうすれば触んなと怒られたがんな赤い顔で言われてもなと思う。相変わらず素直じゃない。

「どうせだし浴衣着て来いよお前」
「はぁ?やだよ面倒臭ぇ。それならユースタス屋が着て来いよ」

器用に片眉だけつり上げるとトラファルガーはふいっと顔をそらした。どうせ持ってんだろ?と聞けばなくはないけどと曖昧に答えられる。

「よし、じゃあ決まりな。明日浴衣着て来い」
「なに勝手に決めてんだよ…ってユースタス屋!」

家まで送ってじゃあまた明日にと片手を上げれば諦めたらしいトラファルガーがお前も着て来いよと後ろから叫ぶ声が聞こえた。それを尻目にひらひらと手を振って、柄にもなく夏祭りごときで浮かれている自分に苦笑した。





「あー似合う似合う」
「かっこいーっすよ先輩」
「お前らちゃんと見てから言えよ!」

口から心臓が飛び出るかと思うほど高鳴る鼓動の中でようやっとユースタス屋を夏祭りに誘えた俺はペンギンたちを呼び出して浴衣の着付けを教えてもらっている。相変わらず生意気で可愛くない言葉(本当に誘ってんのかと思うぐらいの)が出たときはまたやっちまったと心中でため息を吐いたが、行くか、と言ってくれたユースタス屋が嬉しくてそれでさえもどうでもよくなってしまった。(そのあとまた触られたことに対してドキドキして邪険な態度を取ってしまったのだけれど。)
一緒に行けることが嬉しくて、浴衣着て来いよと言ったユースタス屋に浴衣ぐらいは真面目に着てやろうと長らく箪笥の中で眠っていたそれを引っ張り出したのだけれど。自分じゃ似合うかどうかなんて分からなくて(似合わないのなんて着ていきたくないし)ペンギンとシャチに聞けば至極どうでもよさそうな返答が返ってきた。

「本当に大丈夫ですって。きっとユースタスもイチコロですよ」
「イチコロって…それ死語じゃないか?まあでも俺も似合うと思うよ」

鏡の前に立っては自分と睨み合う俺にシャチはにこっと笑って言った。ペンギンはどちらかというと自分の着付けの完璧さが一番で二の次に俺を賞賛しているような気もしたがご足労代金として気にしないでおく。それよりもちゃんと素直になれるかどうかじゃないですかー?とシャチの間延びした声で核心を突かれ言葉に詰まって顔を顰めた。

「おま…よくそんなこと面と向かってローに言えるな」
「えっ?!あ、やっぱダメだった?先輩お願いですから蹴るのはヤメテ!」

身構えたシャチに別に取って食いやしねぇよと呆れた一瞥をくれると努力するつもりだと手短に答えた。それに驚いたように顔を見合わせる二人にイラッとしたけどそこは押さえておく。ってかよくそんなこと面と向かってローに言えるなって言えたなペンギン。

「まー先輩ならきっと大丈夫ですよ!いつもどおりいけば平気ですって」

何が大丈夫なのか、根拠もないままそれでもにこりと笑ったシャチにそうだといいけどとふっと笑って呟いた。それに、よし、とペンギンの意気込む声が聞こえて徐に立ち上がると帯に触れられる。

「じゃあ一人で着付けできるようになるまで練習だ」
「別にお前が着付けしてくれれば、」
「それだと後できっと困る」

確信めいたように呟いたペンギンに理由を聞こうとすれば、脱がされたときとかと言われて思わず右ストレートを繰り出しそうになった。





予定よりも早く着いた俺はそこでトラファルガーを待ちながら浴衣着るなんて久しぶりだなと自分の格好を見つめながら思った。いつだったかに一度着たきりのそれは新品同様で。黒生地に白の薄いシンプルな絣縞模様、緋色で七宝柄の角帯は髪と似合っているとキラーに茶化されたことがある。

「…ユースタス屋?」

ぼーっとしていたらやや控え目に名前を呼ばれ、顔を上げればそこには待ちに待ったトラファルガーが立っていた。俺が言った通りきちんと浴衣を着ていて、ちゃんと着てきたんだなと言おうとして言葉に詰まる。
すらりとした体は黒と水浅葱の絣麻の葉で飾られた紺色の生地に包まれており、白い縞模様が入った黒色の帯が細い腰をさらに強調しているようだった。普段は服に隠れている項がちらりと覗き、似合いすぎてて言葉にならず、思わずその姿に魅入るとトラファルガーは不安げに首を傾げた。それですらも型に嵌まった仕草のようで。

「着て来いなんて言わなきゃよかったな」

ぼそりと呟くと、それでもトラファルガーには聞こえていたらしい。似合わない?と消え入りそうな声で呟かれたので違うと首を振ると俯いたその頭を撫でた。

「似合いすぎてて誰にも見せたくねェなって思っただけだ」

そう言って笑うとトラファルガーは一瞬で顔を赤く染め上げながらなんだそりゃとふいっと顔を背けて言った。耳まで真っ赤のくせして相変わらず素直じゃないその態度に苦笑しながらじゃあ行くかと人混みに向かって歩き出した。



「一瞬違う人かと思った」
「あ?何でだよ」
「髪型いつもと違うし」
「あー」

人混みの中を練り歩きながらそういや今日はいつもみたいに立ててないなと思った。トラファルガーと祭りに行くことをキラーに伝えたら浴衣着るなら髪を下ろした方が似合うとか言われたから下ろしてきたんだっけ。

「…ってる」
「あ?」
「だから!…似合っ、て…る」

俯いたままぼそりと呟いたトラファルガーの声が周りの喧騒に掻き消されてしまい、聞き返せば自棄になったように大声で返される。でもやっぱり一拍間を置いたあとは小さくなっていて、最後の方は辛うじて聞き取れるぐらい。応じて赤くなるトラファルガーの顔に今すぐ帰ってベッドに押し倒したいような気分になった。

「あんま見惚れんなよ」
「っ、調子乗んな!」

からかうようにそう言ってその場をやり過ごせばトラファルガーはいつも通りキッと睨み付けて先を行くようにスタスタと歩いて行く。無自覚って恐ェなと思いながら、んな赤い顔で睨まれたって恐くねェのに、と小さく笑いながら隣に並んだ。



「ユースタス屋!次あれ!」
「お前…ちょっと落ち着けって…」

さすが自分から誘っただけあってトラファルガーは夏祭りを目一杯満喫していた。人混みだとか浮かれ騒ぐようなイベント事には興味ないと一蹴しそうなものなのにどうやら以外と好きなようだ。
金魚すくいで釣った金魚と水玉のヨーヨー片手に空いた手にはりんご飴を持って早くと急かすトラファルガーは射的の前でピタリと止まった。一心に見つめるその視線の先を追えばそこにいたのは最近トラファルガーがお熱の白熊のぬいぐるみ。しかもデカい。真ん中に置いてあるところを見るときっと目玉商品なんだろう。

「兄ちゃんやるかい?」

ぼーっと見ていたトラファルガーに屋台の親父が声をかける。それにハッとしたように財布を取り出すと、やると一言。絶対取ってやるとトラファルガーの表情が物語っていて、その意気込みに苦笑すると、金を渡そうとしたトラファルガーの手を引っ込めて代わりに俺が財布を出した。

「ユースタス屋?」
「お前苦手だろ、こういうの」
「射撃は得意だ」
「ゲームのゾンビに限りな」

まあ見てろってと頭を軽く撫でるとトラファルガーは何か言いたそうにして、でも結局俺が三百円と引き換えに受け取った弾を黙って見つめていた。

「結局取れなくて格好悪い感じになっても罵ったりしないでおいてやる」
「そりゃありがてェな」

とは言ったもののでけェし重たそうだからなかなか難しそうだ。さてどこを狙うか、と考えながら置いてあった銃に弾を込めると、まず右足に狙いを定めた。もちろん命中。座ってないで立ってるところがラッキーだよなと思いながら今度は左足。弾だってそうないんだから一つも外せない。次に腹。ゆら、と反動で少し揺れたが落ちるにはまだ少し足りない。あと三つか、と思いながらもう一度右足と左足に一発ずつ。ゆらゆらと揺れているそれにいけるかもなと思って最後。顔に狙いを定めて撃つと揺れていた白熊が棚の上から消えた。


「いやーあんた上手いねぇ。よかったなお連れさん」

いつの間にか注目を浴びていた。周りの人込みに気づかないほど真剣だったらしい。どんだけ取ってやりたかったんだと店の親父から白熊を受け取るトラファルガーに何だか気恥ずかしくなった。それと同時にやや後ろで「ねーねーあの二人よくない?誘ってみようか?」と少し甲高い声が聞こえ、こちらに向かって歩いてくる派手な化粧の女にやっぱ注目ってのは浴びるもんじゃねェなと思いながらトラファルガーの腕を引っ張って何か言う女の横を通り過ぎながらその場を後にした。

暫く歩いてると今度はわたあめを食いたいとトラファルガーが言い出したのでわたあめを買ってやる。甘いと言って笑うトラファルガーを見ながら恋人というよりは我儘な子供のいいなりになる親のような気持ちがした。
少ししてからトラファルガーがわたあめを俺に押し付けてきた。いらねェの?と聞けば首を振ってさっきとってやった白熊のぬいぐるみを顔の前に抱えなおしてたから、何をするのかと思えば。

「とってくれてありがとう……ってベポが言ってる」
「…どういたしまして。そいつは何て言ってる?嬉しいか?」
「ユースタス屋にとってもらえて嬉しいってさ」

ちらりと白熊から覗いた顔は真っ赤で、白熊を媒介に喋るトラファルガーが可愛すぎてどうしてくれようかと思った。くつくつ笑いながら頭を撫でれば笑うなと顔を背けられる。はいはい、と機嫌を損ねないように頷いてわたあめを返してやった。黙々と食い始める頬の赤いトラファルガーにうまいかと聞けば素っ気なく頷かれる。

「じゃあ味見」
「え、」

わたあめを握るトラファルガーの手を掴むと食べる横からぱくりと食いつく。その瞬間目があったのでにやりと笑うと慌てたように視線をそらされた。

「確かに甘いな」

ぺろりと唇を舐めてまるでトラファルガーに対して言うように囁くと赤い顔がさらに赤くなる。それにまた笑うとやっぱり笑うなと怒られた。

「怒んなって。今から花火見に行くんだろ?」
「あ!そーだった忘れてた!…でも今からじゃ絶対いい場所ないだろ」
「俺、いいとこ知ってんだ。誰も知らない絶景スポット」

おいで、とトラファルガーの手を掴むと花火を見ようと急ぐ人混みに逆らうようにして歩いて行く。本当に大丈夫なのかと聞いてきたトラファルガーに着きゃ分かるとそのまま掻き分けるように進んでいった。花火が始まるまであと十分。時間的にはちょうどいい。

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