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(学パロ、キラペン有)


机の上に広げられた参考書やら教科書やらと睨み合うのも早々に飽きてしまって、ただトラファルガーがあれだこれだと丁寧に説明していくその姿を盗み見る。
数式をなぞり、カリカリとルーズリーフに書き留めるあの長くて細い指が。その伏し目がちに教科書を見つめる冷静な瞳が。スラスラと言葉を紡ぐその唇が。
セックスの最中とは別物のそれを比べて重ね合わせて心中を占めるトラファルガーの卑猥な姿に思わずムラッときてしまう。そもそも健全な男子高校生が可愛くて可愛くてしょうがない恋人と自室で二人っきりなんて言ったら言わずもがなだろう。しかも、最後に触れた日から一週間も経っているのだ。やはりそういう気持ちにはなってしまう訳で、こうなるのは察してほしい程だ。

もちろん勉強を教えてほしいと頼み込んだ俺がそれを投げ出してトラファルガーを押し倒せば、頬に一発で済むか済まないかぐらいであると自分でも分かってはいるんだが。何せ実証済みだ。なのでこれがなかなかジレンマだったりする。

「…おい!ユースタス屋、ちゃんと聞いてたのか?」
「ん…ああ、聞いてた」
「ならこの問題解けるよな?」

不意にトラファルガーに話し掛けられ意識を一気に引き戻される。もちろん全く聞いちゃいなかったが適当に流せばトントンと問題を指し示されてしまい。用意されたそれを見つめるがさっぱりで全く指が動かない。それにトラファルガーは眉根を寄せた。

「んだよ、聞いてねぇじゃんか」
「…悪ぃ」
「あーあ。せっかく明日ユースタス屋と映画観に行けると思ったのに。この分じゃ今日明日かかるな」
「何だそりゃ?聞いてねェぞ?映画?」
「あれ、言ってなかったか?この間俺『白熊のベポ』観たいって言ったじゃん」
「や、それは聞いたけどよ…何で明日?」
「だってユースタス屋、馬鹿だから補習ばっかで時間ないし。でも真面目にやってるからいいとこまできたし…だから今日の頑張り具合でもしかしたら行けるかなって」

ま、いいけどな、別に無理して明日行かなくても。俺が勝手にそう思ってただけだから。

そう言って何でもない風を装って、気を取り直すように教科書を見つめたトラファルガーにちくりと胸が痛む。

考査で赤点の大安売りをしてしまった俺は留年だけは、とめちゃくちゃ真面目に補習に参加しているのだが、放課後を全て費やしてしまうそれにロクにトラファルガーを構っていられない状態だった。休みは休みでこうして追認考査にむけてトラファルガーに勉強を教えてもらっている訳で、何故かきっちり区別をつけたがるこいつは勉強するときは本当に勉強しかしないのだ。
そうして俺に付き合うだけ付き合って勉強を終えてしまえばあっさりと帰ってしまう。勉強中にそういう雰囲気に持ち込もうとすればまず間違いなく殴られるだろうし。土日ともこんな感じで正直俺も参っていた。目の前にいるのに触れないなんて生殺しもいいとこだ。だから日曜のその案には是非とも肖りたい。

「行こうぜ。少しぐらいならいいだろ?」
「お前がやることちゃんとやればな。こっからここまで今日中に終わらせられたら行く」
「こっからって…長っ」
「しょうがないだろ。……俺、お前と卒業したいし」

指定されたワークの範囲が軽く二十ページを越えていて、それを非難すればトラファルガーが眉根を寄せた。でも俯き様に服を握られて呟かれた言葉にどくりと心臓が跳ねる。そりゃ反則だろうがお前、と抱き締めたい衝動をぐっと堪えた。

「…これ、終わらせりゃいんだよな?」
「うん」
「よし、じゃあとっとと終わらせて明日行くぞ」
「え、お前出来んのかよ」
「出来んじゃなくてやんの」

俺もお前とデートしたいからな、そう言って笑うとトラファルガーは真っ赤な顔して、いいからやるなら早くやれとそっぽを向いてしまった。




「なぁ、キラー」
「ん?」
「あの、さ…」

不意に会話が途切れ、その中を心地好い沈黙が漂っていく。ただの音としか認識されていなかったテレビですら、この空間を邪魔するもののように思えて、切ってしまおうかなんて思えるほど。それでも、ココアを飲むペンギンの髪をさらさらと撫でながらここを一秒でも離れるのがおしい、なんて。そんな自分に苦笑した。

「何だ?」
「あー…」

こうして穏やかに二人の時間を過ごすのはいつからだっただろうか。部活が忙しくて時間がなかなかとれないのは俺もペンギンも同じで、だからたまの休みにはどちらともなく身を寄せ合うことが多くなる。

「…?」

先程から何かを言いかけてはやめてしまうペンギンに首を傾げた。俯いてしまったその横顔は何故か赤い。思い当たる節が見当たらなくて、さっきから唸るばかりのペンギンにも疑問は深まっていくばかり。どうかしたのか?となるべく優しい声色で聞き出せばペンギンはちらりとこちらに視線を寄越した。

「あの、あのな、」
「ん?」
「…明日、暇か?」

決心したようにこちらを向かれ、もったいぶるように話し掛けられてしまえばこっちだって変に身構えてしまう。頭を撫でる手を止めてペンギンの瞳を見つめれば、その発せられた言葉があまりに日常的な普通のもので、思わず呆けて黙り込んでしまった。

「あ、や、用事があるならいいんだ。別に大したことじゃない」

簡単な言葉だがペンギンの意図が見えず、黙っていれば何を勘違いしたのか慌てて首を振るペンギンに益々意味が分からなくなる。別に何もないと言えば、本当か?とどこか疑わしそうな目で見つめられて。

「わざわざ嘘を吐く必要がないだろ」
「…そ、だよな。……じゃあさ、明日…一緒に映画行かない?」

肩を竦めればどこか納得したように頷かれる。何なんだ、と思っていれば不意に言われた誘いの言葉に目を見開いた。
ペンギンから何かを誘ってくるということはほとんどない。たまの休みにだって、どこかに行くか?と聞けば家でいい、と。確かに家で一日中ペンギンとずっと一緒にいることも幸せだが、ふっと飽きはしないのだろうかと思うことはある。そうして俺が誘えば必ず行くが自分からは滅多に誘うことはしなかった。だからつい黙り込んでしまったのだ。

「あ…やっぱ嫌だよな…久しぶりの休みだし、キラーも疲れてるからゆっくりした方が、」
「いや、むしろ嬉しい」
「…本当に?」
「ああ、ペンギンが誘ってくれるなんて滅多にないしな。第一俺がお前の誘いを断る訳ないだろ」

全く悪いことなどしていないのに、どことなく申し訳なさそうな顔で俯いたペンギンに慌てて遮るとその手をぎゅっと握った。無理してないか?と窺うように見つめられてその様子に思わず笑みが溢れる。

「たまには外でデートもいいからな」

いつでもこうしてペンギンは俺に気を使ってくるのだ。自分から誘わないのも俺の日頃の生活を踏まえてのこと。そんなペンギンが素直に甘えてきてくれたことが嬉しくて。
冗談めかして笑いながらそう言うとペンギンの頬にさっと朱が走る。明日が楽しみだな、と言えばそれでも嬉しそうに手を握り返された。

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