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「…お邪魔します」
「ローのくせにお邪魔しますとか言うな。気持ち悪い」
「お前俺をなんだと思ってるんだ」


勝手に入れというように鍵が開いていたので文字通り勝手に入る。それでも一応申し訳程度に呟けば、ひょこっと顔を出したペンギンに言われた言葉に眉根を寄せた。

「何か飲むか?」
「いらねぇ」
「まぁそう言うなって」

リビングに入るとカチャカチャと食器の音がした。台所に立ったペンギンの問いに緩く首を振れば断ったはずなのに目の前にマグカップを置かれて、紅茶でよかったら、と肩を竦められる。それに悪いな、と呟くと有り難く頂戴しておくことにした。

「出掛ける予定とかなかったのか?」
「生憎と暇人なもんでね」

わざとらしく顔を顰めたペンギンに笑う。気を使ってくれているんだなって言うのが分かって、申し訳なさとそれを超える有難さでいっぱいになる。
ペンギンはいい奴だ。無理強いしたりしないし優しいしちょっと怖い時もあるけどそれは心配してくれているからだし何より真剣に考えてくれている証拠だからだ。全く別のタイプだと分かっているのに、そんなことを考えながら頭の片隅でユースタス屋と比べてしまう。

「…ペンギンみたいな人、好きになればよかったのにな」
「俺じゃなくてか」
「ふふ、うん。お前じゃなくてお前みたいな人」

考えて、不意に口をついて出た言葉。マグを掴むと冷えた手にじんわりと熱さが伝わってきて、悪戯に笑うと紅茶を一口飲んだ。だってペンギンはシャチのものだし、俺が何か言ったら怒られるだろ。それに、俺だって冗談でもキラー屋がユースタス屋にそんなこと言ったら嫌だ。
…結局ユースタス屋のところへ戻ってきてしまった思考回路に呆れてため息を吐いた。

「…何かあったのか?」
「ん?」
「ユースタスと」
「んー…まあ、いつも通りっちゃ、いつも通りなんだけどな」

ペンギンは俺とユースタス屋がどういう関係か知っているし、お互いの間にある相手に対する見方がズレていることも知っている。だからこうして気兼ねなく自分を晒け出すことが出来た。

俺がこうしていきなりペンギンの家を訪れることは決まってユースタス屋が絡んでいるから、ペンギンはいつも少し心配そうに探りをいれる。
だけど今日のペンギンはいつものそれとは違っていて。その唇からついて出た言葉に目を見開いた。

「なぁ、ロー、別れたらどうだ」
「…っ」
「そんな奴といてもお前が傷つくだけだぞ?」
「…そんなん…俺が一番よく知ってる」
「じゃあ、」
「でも!」

別れる、ということを考えたのは一度や二度ではない。でもその度にやっぱり、と思い直してしまう。どうしようもないのだ。このままではいけないと俺だって分かっている。
ぎゅっとマグを握り締めると俯いた。ペンギンは俺たちのことをよく知っている第三者で、だからやっぱりこの関係は殊更不毛のように思えるのだろう。
でも、それでも、俺は、

「ユースタス屋のことが好き、だから…」

だから別れられないと、緩く首を振る。他人からどう思われたって俺はユースタス屋が好きなのだ。それが俺一人だけの勝手なものだとしても、この事実に変わりはない。これからも、きっと。

「…悪かったな。勝手なこと言って」
「ペンギンは悪くねぇよ」

切羽詰った俺の表情を見て、申し訳なさそうな顔をしたペンギンにそっと呟くと苦笑した。ペンギンは優しいから。
悪いのはいつまでもだらだらとこんな関係を引き摺って他人を巻き込んでウジウジ悩んでいる俺なのに。

だから、と言ってペンギンに笑いかけるとどことなく辛そうな顔をされて、無理するな、と頭を優しく撫でられた。その優しさに不意に涙腺が緩む。

ユースタス屋とは違う掌なのに。でも俺、こんな風にユースタス屋に撫でてもらったことないや、と考えたらまた悲しくなった。穏やかな沈黙が辺りを支配して、俺は潤んだ瞳をごしごしと擦る。
泣いてもいいんだぞ?とどこか気遣うような視線に無理して笑った。泣かないって決めているのだ。泣いたらごちゃごちゃに絡み合った感情が全部全部出てきてしまいそうなになるから。

気丈に振る舞う俺を察してか、ちょっとコンビニ行ってくるな、と俺の頭を撫でてソファを立ったペンギンに頷きながら心中でほっと息を吐いた。ペンギンとあのまま一緒にいたら、きっと泣きながら思っていることを全部ぶちまけてしまうだろうから。確かに少しだけ一人なりたかった。そうして出ていくペンギンの背を見送りながら少しだけ、泣いた。



ピンポーンとインターホンの鳴る音で俺はゆっくりと目を覚ました。どうやら知らぬ間に眠ってしまっていたらしい。
ソファに横たえた体を起こすと、ごしごし目を擦って無理矢理覚醒させると玄関へ向かった。ペンギンが鍵でも忘れて中に入れなくなったのだろうか。がちゃり、と特に確認もせずドアを開けて、その先の予想もしなかった人物に思わず息を飲んだ。

「ユ、スタ…」

あとは、言葉にならなかった。ユースタス屋に腕を引かれていきなり抱き締められたから。
いきなりの展開に、俺はまだ眠っていて、実は都合のいい夢でも見ているんじゃないだろうか、とさえ思えてきてしまう。でもそれにしては背中に回った逞しい腕に、やけにリアルな夢だな、なんて。だって俺、ユースタス屋に抱き締められたことなんてなかったから。

そう思うとやっぱりこれが現実には思えなくて、夢ならいいかな、と恐る恐るその背に腕を回した。そうしたらもっとぎゅって抱き締められて嬉しくなる。ああ、夢なら覚めなきゃいいのに。

「…悪かった」

目を閉じて、ユースタス屋の温もりに浸る。そうしたら不意に耳元で聞こえた声に訳が分からなくて首を傾げた。どうしてユースタス屋は謝っているのだろう。
でも俺の肩に顔を埋めるユースタス屋はそんな疑問になんて気づいていない。ユースタス屋?と声をかけると顔をあげたユースタス屋はどこか悲痛そうな表情をしていてそれにぎゅっと胸を締め付けられた。

「ペンギンから全部聞いた」
「…ユ、スタス屋?」
「お前がそんな苦しんでるの知らなかったとか…最低だよな、俺」
「…え?ちょ、」
「俺の都合のいいようにばっかしてて…お前の気持ちなんて聞いてもいなかった。…恋人失格、だな」

一人で勝手に話を進めるユースタス屋に頭がついていかない。だって、これは夢のはずなのだ。なのに何でこんな現実とリンクしてるんだ?だって、現実のユースタス屋はきっと俺を性欲処理ぐらいにしか思っていなくて、

「ロー…好きだ」
「…っ!」

ぼそりと耳元で囁かれた言葉。頭が一瞬でショートしそうになる。
好きって、なに。ユースタス屋が、俺を?本当に?じゃあ俺は?まだユースタス屋のこと、好きでいていいのかな?

「ユ、スタ、屋?本当に…?」
「信じられねェなら何回でも言ってやる。好きだ、愛してる、ロー…今まで酷いことしてきてごめんな…」
「っ…!…っ、ぅ…ユ、スタ…っ」
「…泣くなよ」
「ふっ、だって…」

見開いた瞳からぽろぽろ涙が零れていく。嬉しくて嬉しくてどうしようもない。泣かないって決めてたけど、この涙だけは許してほしい。

優しく笑ったユースタス屋が俺の涙を拭う。そのまま宥めるように顔中にキスをくれて、ぎゅっとユースタス屋に強く抱きついた。これが夢なんかじゃないっていう証拠がほしくて、強く、強く。

「…なあ、俺たち…今からでもやり直せるか?」

こつんと額を合わせたユースタス屋が俺の瞳をじっと覗き込む。真剣なその赤い瞳をじっと見つめ返して。

「…ユースタス屋が俺のこと、ちゃんと好き、なら」

少し返答が恐かったけど、生半可な気持ちでいてもまた同じことを繰り返すだけだ。そう思って何とか言葉を吐き出すと、ここで目をそらしたら何もかも終わってしまいそうでその瞳をじっと見つめ返した。
そうしたら、ちゅっと啄むように唇にキスをされて。

「もちろん…お前が望むなら何回だって言ってやる」

好きだ、とそう言って笑ったユースタス屋に嬉しくなって、夢じゃないんだと俺からもそっと唇を重ねた。




(新しい恋の始まりです!)






企画参加してくださったぱんだ様に捧げます!大まかなシチュが指定されていたのでとっても書きやすかったです!キッドはきっと好きな子ほど虐めたいタイプなんでしょうね〜(笑)
まったくお騒がせカップルでしたがこれからはお騒がせバカップルになると思います!こんなので宜しければどうぞ!リク有難うございました!





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