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俺はいま、猛烈にイライラしている。



「あー面白かった!にしてもすげぇ混んでたな」
「あれは前売りなかったら観れなかったかもな」
「だな。お前途中で泣いてただろ?」
「…ああいうのには弱いんだよ」
「ふふ、知ってる。むしろいつ泣くのか待ってた」
「映画に集中しろよ」
「ちゃんと観てたぞ」

楽しそうに映画のことを話すトラファルガーは大分その内容に満足したみたいだった。俺からしてみれば特に面白くもなんともなかったがそこはトラファルガーが楽しそうなので気にしない。ただ、気に食わないことが一つある。

「ユースタス屋?どうかしたのか?」
「…別にどうも」
「?」

首を傾げたトラファルガーがこちらを振り向く。視線をそらしてぶっきらぼうに言えば、それでも変なところで鈍感なこいつはやはり頭上にクエスチョンマークを浮かべるだけで。それにため息を吐いた。
だって、あんな誘われ方したら誰だって二人きりで行くもんだと思うだろ。なのにこいつはペンギンと楽しそうに喋ってるし、キラーまでいるし。トラファルガーを迎えに行って映画館に行くまではよかった。着いた途端、偶然キラーたちと出会った、と俺は勝手に思ったが、どうにもトラファルガーたちは偶然出会ったとは思えないような会話(ペンギンが「三十分は遅れると思ったのに」に対してトラファルガーが「俺はそんなルーズじゃねぇ」と答えたり)をしていた訳で、まずそこで眉根を寄せる。は?二人きりじゃねェの?と思っていたのはどうやらキラーも同じらしく、珍しく顔に出ていたがそれをこいつら二人が気づくはずもない。そうして結局四人で映画を観て、その間始終こいつらは楽しそうに話すもんだから正直会話に参加する隙もない。ならお前ら二人で行けよ、と。思ったのは俺だけじゃないはず。

「…なあキラー、四人で行くって知ってたか?」
「全く」

仕方がないので隣を歩くキラーに意見を仰げば釈然としない様子で答えられる。だよなぁ、と相槌を打ちながらやけに楽しそうに前を歩く二人組を見つめた。本当、これじゃあ何のためについてきたのか分からない。

「まあそこでと言ったら何だが…キッド、一つ提案があるんだが」
「あ?」
「このまま帰るのはどうだろう」
「…さんせー」

不意にぼそりと呟いたキラーの言葉は賛同せざるを得ないものだった。
にしてもキラーがそんなこと言うなんて、きっと相当キてんだろうなぁ、とこっちの事情も知らずに話を弾ませるトラファルガーたちを見やる。これからどうしようか、どこか行くか?なんてこちらの気持ちも知らずに暢気に話している訳で。冗談じゃない、そろそろ二人きりにしてくれ、と俺の顔にもキラーの顔にもありありと書いてあったはず。

「トラファルガー」
「ペンギン」
「ん?」
「どうかしたのか?」
「「帰るぞ」」

こちらを振り向いた二つの顔に言葉を発したのはほぼ同時だった。きょとんとしたような顔で俺を見つめるトラファルガーと何がなんだか分からないといったようなペンギンに、キラーにちらりと目配せをする。軽く頷いたのを視界の隅にいれて、トラファルガーの腕を引くと家へ戻るかと回れ右をした。

「じゃあなキラー、ペンギン」
「ああ」
「ちょ、ユースタス屋!」

ちらっと後ろを振り返って手を振ると、今まできょとんとしていたようなトラファルガーが急に慌て出した。眉根を寄せたトラファルガーが引き止めるのも聞かず、驚いたようペンギンとどこか満足げなキラーを背に歩き出した。
「…どうしたんだユースタスの奴」
「さあな」
「キラーもだろ。いきなり帰ろう、とか…」

二人の背中を不思議そうに見送るペンギンに肩を竦める。その提案者が俺だということにはきっと気付かないのだろう。
だから素知らぬふりをすれば話の矛先がすぐにこちらに向かう。何でいきなり…と語るペンギンは不意に何かに気付いたようでふつりと口を閉ざしてしまった。

「…ペンギン?」
「もしかして…つまんなかった?」

ペンギンは俺よりも背が低いので俯かれるともう表情は窺えない。黙ってしまったペンギンの名を呼べば、恐る恐るといったように紡がれた言葉に目を見開いた。

「無理矢理誘ったのにつまんないとか…最悪だよな」
「違う」
「ん、いいから、帰ろ」
「ペンギン」

帰ろうと言って顔を上げたペンギンはどう考えても無理して笑っているようで、その笑顔にぎゅっと胸が締め付けられる。こんな誤解をされたまま帰してたまるかと背を向けて行ってしまおうとするその腕を強く掴んで引き寄せた。

「ここが外なのが惜しいな…」
「…?」
「抱き締めたい」
「なっ…」

顔を伏せてしまうペンギンの頬に手を当ててゆっくりこちらを向かせるとそっと囁く。不安に揺れていた瞳が今度は驚きに見開かれ、続いて照れたように頬が赤く染まった。可愛い、とその姿にだらしなく頬を緩ませながら頬を撫でていた手で安心させるようにペンギンの頭をそっと撫でた。

「こうして出掛けるのも久々だろ?だから二人きりを期待してたんだ」
「…ぁ、そっか…。そうだよな、ごめん…」
「ペンギン?」

苦笑交じりに理由を言えば、ふっと申し訳なさそうに目を伏せてしまったペンギンに首を傾げる。うろうろと視線を彷徨わせるその様子にやっぱりこんなところで聞くのは野暮か、と思い黙ってしまったペンギンの腕を引いた。ちょ、キラー?と困惑したような声が後ろから追いかけてきて、それを尻目にすぐ傍にあった公園の中へと入る。誰もいない、がらんとして少し寂しいそこは誰にも邪魔されずに話せるうってつけの場所だった。

「なんで…?」
「気兼ねなく話せるかな、と」

近くにあったベンチに腰掛けるとペンギンが首を傾げる。あまり人通りはなかったとはいえ通りのど真ん中だったのだ。肩を竦めて言えばペンギンは小さく笑った。可愛いな、なんて。見つめて思うのはそんなことばかりだ。そんな俺の思考回路に気付くはずもなく、ペンギンはゆっくりと口を開いた。

「あのな…最近キラーとどこにも行ってなかっただろ?」
「そういえばそうかもな…」
「それをローに言ったらな、たまにはデートに誘ってみたらどうだ?とか言われて…でも、」
「でも?」
「…なんか恥ずかしくて…だから俺がローも一緒に、って誘っちゃったんだ」

そしたらキラーのことデートに誘えるから、喜んでくれるかなって、思ったんだけど…失敗したな。

恥ずかしさを隠すためか、苦笑混じりに呟くペンギンにどくどくと心臓が激しく脈打つ。どうしようもなくて今すぐここで抱きしめてキスしたいような気持ちに駆られたが、生憎と場所は変わってもそれはできない訳で。その代わりにベンチに投げ出された右手をぎゅっと握り締めた。

「…やばいな」
「…?」
「ペンギンがそんなこと思ってたなんて知らなくて…やばい、今凄く幸せだ」
「っ…ばか、大袈裟だっ」

今俺の顔、物凄くだらしないだろうなと思いながらぎゅっとその右手を握る。このぐらいならいいだろうと照れてしまってふいっと横を向いたその頬に軽くキスを落とした。途端、耳まで赤くなってしまうペンギンの可愛さといったら。

「誘ってくれてありがとう…でも今度は二人で行こうな」
「…ん」

そっと囁くと小さく頷いたペンギンに頬を緩ませる。珍しくもまともな回答をしてくれたトラファルガーに有難く思いながら、暗闇なのをいいことに繋いだ手をそのままにしておけば、ペンギンがぎゅっと強く握り返してくれた。




「もーいきなりなんだよユースタス屋!急に家に帰るとか言い出してさ」

あのあと何なんだどうしたんだと聞いてくるトラファルガーにロクに返事もせず結局そのまま家に連れ帰ってきてしまったのだ。しかも本当に帰ってきちまったし!と不機嫌丸出しな様子でクッションを抱えたままのトラファルガーに唸られて、ご機嫌取りのためにだしたココアも手付かずのまま。

「へーへー悪うございました」
「その態度がむかつく!」
「何だよどっか行きたいとこあったのか?」
「別に…そういう訳じゃねぇけど…」

不意に黙ってしまったトラファルガーは眉間に皺を寄せてクッションを握り締める。その様子に壁に寄りかかってコーヒーを飲んでいた俺は頬を掻くと、トラファルガーの隣に座ってその頭を撫でた。

「…ユースタス屋のばーか」
「そんなにペンギンといたかったのかよ」
「ペンは関係ねぇだろバカスタス!」

何が地雷だったのか知らないが、ペンギンの名前を出した途端トラファルガーにキレられる。それで、お前なんてもう知らねぇ!と啖呵を切られてしまえばこっちだってイラッとくるというものだ。そもそも俺はお前と二人きりがよかったのにおまけがついてきたのがいけねェんだろうがと思えば思うほどイライラは増すわけで。何だこいつ。あーやべェ、イライラしてきた。
心中で舌打ちすると、思わず俺だっててめェのことなんざ、と言ってしまいそうになる。それをぐっと堪えたのは視界に入ったトラファルガーの横顔が、紛れもなく、少し寂しそうだったから。

「せっかく…久しぶりに出かけたのに…」
「…とか言ってお前ずっとペンギンと喋ってたじゃねェか」
「あれはいんだよ!あのあとペンとキラー屋二人っきりにする予定だったから。なのに…」

ぎゅっとクッションを握り締めたトラファルガーにそう呟かれて、でもここで流されるものかとぼそりと呟く。そうすればそこで言葉を切ったトラファルガーに恨めしそうに見つめられてふっと視線をそらした。トラファルガーの言い方からしてみれば、きっと何か計画があったんだろうがそんなの俺が知る由もない。大体こっちだって久しぶりにデートしたんだから、それでいらんおまけが二人もついてきたらキレるだろ。そういう風に思ってたんなら先に言っとけよ、とか思う訳で。
それでクッション顔を埋めてしまったトラファルガーにそんなこと言える訳もなく、結局は惚れた弱みで折れるのはいつも俺。

「…分かった、悪かったよ。そうとは知らなかったから、さ。…俺はお前と二人っきりがよかったの」

ごめんな、せっかくだったのに帰ってきちまって、と出来るだけ優しくその頭を撫でればおずおずと言ったようにトラファルガーが顔を上げる。その頬に優しくキスすればぎゅっとトラファルガーが抱きついていて。それを抱きしめながらポンポンとあやすようにその背を撫でた。

「ん、ん…俺も、先に言っとけばよかったんだよな…ごめん…」
「いいよ、もう怒ってないだろ?」
「…ん」

こくりと頷いたトラファルガーが可愛くて、その顔中にキスを落とす。額の上に、伏せられた瞼に、赤く染まった頬に…その度擽ったそうに小さく身を捩ってくすくす笑うトラファルガーにつられて俺も笑う。最後に啄むように唇にキスをして、その細身の体をぎゅっと抱きしめた。
今度は二人きりで、そう言えばトラファルガーは返事の代わりに、ちゅっと頬にキスを落とした。






企画に参加してくださったクラム様に捧げます!
キドロ+キラペンとのことでシチュは好き勝手書かせて頂きました、が…キラペン難しい…!私の中でのキラペンが全く定まっていないので今回はとてもペンギンが乙女になってしまいました…スミマセン。
とにかくキッドはローが大好きだからがっつく、キラーはペンギンが大好きだから優しく優しく、という対極な二人をイメージして書きましたが…どうでしょう。
こんなので宜しければどうぞ!リク有難うございました!





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