main | ナノ

 愛したあの子はとっても甘い×××味

(飼い主×牛)
(搾乳プレイにつき注意。)


詰まらない、と思った。
犬や猫、兎と言ったような世間一般で飼われている愛玩動物は一通り試した。飼いもした。だがそれもすぐに飽きてしまって、最早興味がない。
犬は忠実すぎるところが、猫は気紛れなところが、兎は構わなければいけないところが、それぞれ飽きを催す原因となった。やはり俺には何かを飼うなんてのは向いていないのだろうか。大人しく原点回帰でもして人間を飼うのが、結局一番なのかもしれない。

そう思っていた矢先、商談相手の俗悪なデブからある店を紹介された。どうやらその店では世間一般の、表ルートでは取り扱えないような愛玩動物を扱っているらしい。店自体も会員制で、その店の会員に紹介された人だけが入れる資格を持つようだ。

「ユースタス社長にはいつもお世話になっておりますので…」
「…はぁ」
「どうぞ、今後もご贔屓に」
「いえ、こちらこそ」

脂ぎった顔に満面の笑みを浮かべ、へこへこ頭を下げる男を尻目に手渡されたカードを見やる。店の名前と住所、電話番号だけが書かれた簡素なカード。

「この店では一体何が取り扱われているんですか?」
「やはりそれは、行ってからのお楽しみでしょう」

にやにや笑うデブに、勿体振ってんじゃねェよクソがと思ったが愛想笑いで止めてやる。聞いてもいないのにその店の愛玩動物は性能がよくてどうのと語り出すデブの話を聞き流しながら、それでもそっとカードをポケットにしまった。


最後に兎を飼って飽きて壊してしまってからはもう何も飼わないと決めていた。しかし好奇心と退屈が合わさると恐ろしいもので、あのデブからの紹介だと思うと癪だったが渡されたカードに書いてある店へ通う足取りは軽かった。確か今日は二十時から会合があったはずだが別に出席しなくても然程問題ないだろう。目の前の興味が最優先事項だった。

その店は一見するとただのバーだった。ビルとビルの隙間に立つその狭い店は幾人かの客で賑わっている。この客も俺と同じ目的なのか、それともただ酒を飲みに来ているだけなのか。
俺はカウンターに腰掛けると、注文を取ろうとしたバーテンダーに差し出すようにしてカードを示した。

「ストロベリー・マティーニをひとつ」

冗談みたいな甘ったるい言葉を呟くと、バーテンダーはすぐに察知したらしい。かしこまりましたと口端をつり上げる。お席にご案内します、と誘導する姿に従って俺もそのあとに続いた。

奥の扉を開けるとそこには地下へ続く階段があり、バーテンダーのあとに続いて下りると微かな機械音が聞こえてくる。それに耳をそばだてていたらどうやら終点に到着したらしい。そこにはあの小さな店からは想像も出来ないような地下が広がっていた。

「さてお客様。本日はどれがお目当てでしょうか」
「いや…紹介された奴からはそこへ行ってからの楽しみだと言われて、詳しいことは何も聞いていないんだ。失礼だが、ここでは何を取り扱っているんだ?」
「左様でございましたか。ご紹介が遅れてしまい申し訳ありません。ここでは、本来表で取引することが出来ない『牛』をベースにした愛玩動物を取り扱っております」
「牛…?」

確かに牛がベースにされたものは今まで一度も聞いたことがないし見たこともない。ただ裏商品として、表では買えないようなものとして扱われている愛玩動物の種類が牛ということに少し拍子抜けした。牛なら別段何の問題もないように思えるのだが。
それを知ってか知らずか、バーテンダーの顔から客に物を売り付けるビジネスマンの顔に変わった男が、まずはごゆっくりご覧になってくださいと言う。それに促されて俺は商品が並んでいる通路へと足を踏み出した。

培養液で浸されたカプセルの中にいるということは、犬猫だろうが牛だろうが代わりないらしい。揺らぐ体は相変わらず何も纏わず、犬なら犬耳と尻尾というように、牛にも小さな角と尻尾が生えていた。やはりここまでは種類が違うだけであとは同じだ。裏でひっそりと取引される意味が分からない。
ただ一般的な愛玩動物と見て違うと分かることは既製品の多さだった。

合法的に買える愛玩動物というのは、基本的に飼い主のオーダーメイドである。執着のない者や玩具代わりに出来ればあとは興味のない者など、そういった一部の人間だけが量産された既製品を飼うのが常だ。だから店頭には普通カプセルが五、六個。大きなところでも二十はないだろう。だがここにはズラリと並ぶカプセル、既製品の山。

「『牛』は既製品しか売ってないのか?」
「基本的にはそうなります。ただ既製品と言っても、表の物とは違って量産していませんので一つ一つがわが社のオリジナルとなっています。その点では我々人間と同じですね。もちろんオーダーメイドも取り扱っておりますが、少々お値段がお高くなってしまいます」

それでもよければ、と話を続けようとする男を遮る。俺はいつでも量産された既製品を購入していた方だし、オーダーメイドなんて面倒でやってられない。特に気にしないと言えば、それならお好みが見つかるといいのですがと男は笑う。
正直言って冷やかし程度の見物だったので、そのときはまだ買おうというような明確な目的を持っていなかった。どうせ買ったとしてもすぐ飽きて壊してしまうだろうし。そう考えると買うだけ無駄だ。そう思っていた。

ただ一つ、あるカプセルを見つけるまでは。


「お客様、お目が高いですね。これはつい最近できた新作ですよ」

隣で饒舌に喋る男は好きなようにさせ、俺はそのカプセルをじっと見つめた。正確にはそのカプセルに入っている、男。愛玩動物は老若男女さまざまな物が存在したが、カプセルに入っている男は少年から青年への路を辿ろうとしている、年の頃で言えば十七、八歳になったかならないかくらいであった。
痩せ身の体は身長のせいでさらに細く見え、浅黒い肌に蛇のように這う刺青。藍色の髪に、同じく縁取られた長い睫。閉じている瞼を開けば、そこにはやはり海色をした瞳があるのだろうか。ガラス玉のように綺麗な瞳が。

「お客様…?」

怪訝そうな声色で呼び掛ける男にハッと我に帰る。相変わらず笑みを顔に張り付ける男に目の前のカプセルを指差した。

「これを売ってくれないか」
「もちろんでございます。今日お持ち帰りになられますか?」
「あぁ、包装も頼む」
「かしこまりました」

無意識のうちに俺の口はそう呟いていた。飼わないと決めていたのに、つい手を伸ばしたくなるような魅力がこの男にはあった。今まではその日のうちに持ち帰ることも、包装(いわゆる服のことだ)だってさせたことがなかったというのに。

ゆらりと培養液が揺れ、徐々に引いて消えていく。完全に培養液が引いたところでカプセルが音を立てて開き、ゆっくりと男が目を開ける。
俺を映し出した瞳は、それは綺麗な海の色をしていた。



その日から俺はその男を飼っている。男は製造番号がE-600だったのでそこからとってローと名付けた。
ローは他の愛玩動物と違って初めから性格も好みもはっきりしていた。あのデブが言っていた性能がいいとは多分このことだろう。見た目なんてどこも競って綺麗な物を造っているから、消費者が見るのはもっと細かい部分だ。オーダーメイドなら普通性格もオーダーメイドになるが、それが自分の要望通りになっているかどうか。予め性格が設定されている既製品に至ってはバグがないかどうか。そんなところが視野に入れられる。

その点ローは完璧、というか最早きっちりとした一人の人間だった。オーダーメイドで性格も自分の好みに設定できるとは言っても、その基盤となる部分は「優等生」とか「良い子」とか言われるようなもので、既製品に至ってはその度合いがさらに高くなる。だがローは違う。そんな一般大衆化されたものではなくて、失えば変わりはないと思えるような、俺と何も変わらない人間のように思えた。確かに角と尻尾は生えているのだが。

今までは飼ってすぐ壊れようが使えなくなろうが全く関係なかった。だがローに関して言えばそんな風には思えない、といったところが正直な話。物として大事にするのではなく、「ロー」として大事にしたい。昔の自分からは想像出来ないようなそんな甘ったるいことも考えるようになった。



今日もくだらない取引先との会話や形ばかりの会合に疲れた体を引き摺って自室へ向かう。疲れた体はすぐにでも休息を欲していて、扉を開けて少し歩けば見えるベッドに寝転ぶその姿に口許が緩んだ。

「ロー、ただいま」
「………おかえり」

たっぷり間をおいてから答えたローの視線は未だ本の中。熱中するとすぐこれだ、と思いながら、気に入りだと入っていたメープルクッキーの缶を然も当然のようにしてベッドに置き、ボロボロ溢れるのも気にせず手探りで取っては口に運ぶローにため息を吐いた。

「はい、終了」
「あ!ちょうどいいとこだったのに!」
「それより俺が先」

これはまた後で、とローから奪い取った本をサイドテーブルに置くと膨れた頬をつついて催促する。少し不機嫌そうに睨まれたが、すぐに近寄ってきたローをぎゅっと抱き締めた。何度も唇に降るバードキスを受け止めながら、腰に回した腕に力を込めた。

「んっ…ユースタス屋、おかえりなさい」

さっきの態度はどこへやら、ふにゃと笑ったローは俺に抱き着き、擦り寄ってくるのだからどうしようもなく可愛い。俺が仕事をしている間、ローはここで留守番していなければならないから帰ってくると必ずこうして甘えてくるのだ。もちろん俺は留守番していたときの寂しさを埋めるようにローの好きなように甘やかしてやっている。

まるで猫のように擦り寄る頭を撫でる。クッキーが溢れている部分から離れ、ローを抱えてベッドに寝転がった。

「ユースタス屋、するのか?」
「しねェよ。疲れたからちょっと休憩」

後ろからローを抱き締めて首筋に顔を埋めるとぼそぼそ呟く。それが擽ったいのか、肩を竦めるローに悪戯に首筋をれろりと舐める。びくりと肩を揺らしたその反応に満足し、俺は癒しを求めるためにローに抱き着いたまま、暫しの安息を堪能した。




どうやら俺は昨日、そのまま寝てしまったらしい。ふと目を覚ますと窓から日の光が入ってきていることに気付いて頭を掻いた。
しかし幸いなことに今日は休みだ。前から今日はずっとローに付き合ってやろうと決めていたのだ。ここ一週間くらいまともに構ってやれなかったし。何でもないふりして実はすげェ寂しがり屋だしな、あいつ。
なんて考えていたら、ふと昨日抱いて寝たはずのローが隣にいないことに気付く。

「…ロー?」

名前を呼んでも返事がない。俺より先に起きているなんてひどく珍しいことだ。
一体どうしたのかと首を傾げ、ベッドから起き上がろうとしたそのとき扉が開く。どこかそわそわと落ち着かない様子で入ってきたローは俺が起きているのを確認するなりぎゅっと抱き着いてきた。

「どした?」
「…ん、ん…なんでもない」

どうやらローはシャワーを浴びていたらしく、ふわりとシャンプーの香りが鼻を掠める。
何でもないと言っているわりには何でもないようには見えず、とりあえずシャワー浴びてくるからここで待ってろと言うとローはこくりと頷き大人しくベッドに座る。その頭を一撫でするとさっとシャワーを浴びに向かった。

戻ってみるとローはクッションを抱えたままベッドに蹲っていた。ロー、と名前を呼べば顔を上げ、座れば抱き着く。今日はいつにもまして甘えただと思うが、その表情が浮かないものだから何かあったのかと心配してしまう。もしかして具合でも悪いのだろうか。

「ロー?どうした本当に」
「…なんでもない」
「嘘吐け」

咎めるようにじっとローの顔を覗き込むと、ふいっと目をそらされる。それに再度窘めるように名前を呼べばローは俯いてしまった。

「何かあっても言わなきゃ分かんねェよ。言ってみ?」

俯いたローの頭を撫で、出来るだけ優しく囁く。教えてくれ、と頬を撫でるとローは何故か顔を赤く染めた。

「なんか…ここ、が…ジンジンするんだ」
「ここって…胸?」

胸元に手を置いたローに尋ねると、何が恥ずかしいのか知らないがこくりと真っ赤な顔で頷かれる。恥ずかしがるローは可愛いが、それが何かの病気だったら大変だ。見してみろと言えばローは俯きながらもするすると服を捲り上げた。

「本当だ…何か腫れてるな」

現れ出たのはいつも通りの真っ平らな胸、ではなく、どことなく腫れているような膨らんでいるような胸だった。一目瞭然と言うわけではないが、見慣れたローの体だ。腫れはほんの少しだったが見てすぐに分かった。もしかすると本当に何かの病気だったりするのだろうか、とその光景に一抹の不安が過る。
だがその膨らみに直に触ってみることで、その不安はすぐ解消されることとなった。

「ふっ、ァ!んんッ、ゃ、揉むなぁ…!」
「…何、感じてんの?」
「ちがっ…!ひゃ、あッ」

片手に収まる程の小さな膨らみを軽く揉めばローはまるで情事中のような声を出し、びくびくと体を揺らす。その態度でこれが何かしらの悪性の病気ではないらしいことはすぐに分かったが、どうにもこの態度は別の問題を生み出しそうだった。

「なぁ、いつ気付いたんだ?これ」
「っ、昨日の夜から…なんか、変で、それで…」
「朝起きて見たら腫れてたと」

こくりと頷いたローに手を離すと腫れた胸を再度見やる。そこでふと、赤く色付いた乳首の先に僅かに白い液体のようなものがついていることに気がついた。

「何だこれ…」
「あっ、ゃだやだ…!」
「こら、暴れんなって」

触ろうとすればローが嫌々と逃げるように身を捩るので、腰を掴んで引き寄せると乳首に触れる。手についたそれはやはり白色の液体で、首を傾げた。
何だろうかと確かめようにもこんな雫程度のものでは何も分からない。嫌がるローを宥めると乳首をきゅっと抓った。

「んぁあッ!」

途端にローの体がびくりと震え、ぴゅくっと指にかかる先程と同じ白い液体。何が何だか分からないというように混乱しているローを尻目にそれをまじまじと見つめた。俺の予測が正しければこれはおそらく。

「なっ、ばか!なに舐めて…!」
「やっぱり。これ、ミルクだな」
「は…?みる…?」
「お前よく寝る前にホットミルク飲むだろ?あれ」
「そ、んなの知ってる!違くて、なんで、それがっ…」
「何でだろうな」

理由は本当に分からない。買ったときに何も言われなかったし、ローですらも何も知らないらしく大分戸惑っているようだ。
考えても分からないことは直接聞くに限る。机の引き出しに仕舞っていたカードを取り出し、不安そうなローの額に宥めるようにキスを落とすと、ローを買った店に電話をかけて原因を聞くことにした。

Next


[ novel top ]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -