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Your present is me!



俺だって別に何も考えていなかった訳じゃない。
期間で言えば大分前から考えていた。だけどどうにもしっくりこなくて、考えれば考えるほど自分の選ぼうとするプレゼントは平凡で詰まらない物じゃないかとすら思えてきてしまう。

今日は一月十日。気づけばユースタス屋の誕生日だった。

まず朝目を覚ましてその事実に絶句する。
いつの間にこんなに時間が経ったのだろうか。つい先日まではまだ一週間ある、何とかなるだろうと確かに考えていたはずなのに。
そして次に覚えるのは焦り。こんなことならさっさと買っておけばよかったんだ、と携帯に表示されている電子的な日付に後悔した。
こういうときだけ時間は足早に過ぎ去っていく。

だけどまだ時間はある。ユースタス屋は短期出張なので三日前からいない。多分今日の夕方あたりに帰ってくるだろう。
それまでの僅かな間が俺に残された時間だった。


ユースタス屋は一体何がほしいんだろう。そもそもほしいのなんてあるのだろうか。あーあ、本人に聞いてみたら一番楽なんだろうけどな。でもそれは何となく嫌だ。
どうしようか、なんて考えながらベッドからもぞもぞと起き上がる。さっきも言った通り並み一通りには考えたのだ。だけどそれに納得がいかないというか、気に入らないというか。
…とりあえず学校に行く支度しなきゃだな。その間に考えよう。



まあ知ってたんだけど授業なんて上の空で、来るだけ無駄だったかなと思いながらたいして面白くもない授業に参加する。
こんなことに時間を使うならサボってユースタス屋のプレゼント買いに行けばよかったかなあ、なんて思いながらぼんやりと窓の外を見つめた。季節はすっかり冬だ。

「じゃあこの問題を…トラファルガー」
「常にf(x)≧0だから[1]が成立し、求めるkの値は4」
「…正解だ」

ぼんやりしてるからって別に話を聞いてない訳じゃないんだからむやみやたらに当てないでほしい。数学教師の歯軋りまで聞こえそうな声での正解を聞きながらため息を吐いた。


結局そんな感じで全ての授業が終わり、その間何かいいアイディアが思いつくことはなかった。どうしようかと思案に明け暮れていた俺は、そこでふと妙案を思いついた。

一人で考えようとするから駄目なんじゃないか?と。

今更、と自分でも思う。だけど何故か一人で考えるという前提に立っていた俺は、この手段をすっかり忘れていたのだ。
自分で考えてもイマイチなら他人に聞いてみればいい。最初からここに気づけばよかったな、と思いながら授業終了のチャイムが鳴ると同時に立ち上がる。善は急げだ。

とりあえずペンギンに聞いてみることにした。聞く相手なんて限られてるし、どうせあいつは暇だろう。

「ペンギン、このあと暇だろ?」
「まあ暇だけど…」
「ちょっと買い物に付き合ってほしいんだ」
「珍し。いいけどさ」

ちょっとびっくりしたようにこちらを見つめるペンギン。まあ俺は何か用がない限りいつもすぐ帰るからな。
付き合ってくれると二つ返事で了承してくれたペンギンに有り難く思いながらさっさと学校を後にした。



「で、何がほしいんだ?」
「それを迷ってたとこ」
「は?決まってないのか?」
「んー、まぁ」

首を傾げたペンギンにユースタス屋の誕生日プレゼントを買いに来たから、と言えば納得したような顔をされる。

「誕生日いつ?」
「今日」
「そりゃまた急な…何がいいとかは考えてあんの?」
「なんにも。考えたんだけどいいのが一つも思いつかなかった」
「それで気付いたら今日、って感じか」
「そんな感じ」
「ローこういうの苦手そうだもんな。貰うのと断るのだけは得意だけど自分からやったことないので分かりません、みたいな」
「うるせぇ」

だが確かにそうなのでうまく反論できない。だって何をやれば喜ぶとかイマイチ分かんねぇんだもん。
ムッと唇を尖らせれば隣でペンギンが面白そうに笑う。へぇ、ローがプレゼントねえ…なんてにやにや笑っているもんだからムカついて睨み付けてやった。

「…なんかいいのないのかよ」
「んなこと言われても…無難なのは?」
「例えば?」
「マグカップとか?誕生日付のやつ売ってるし」
「なんか微妙…」
「えー…じゃあ…万年筆とか?」
「なにその意味分かんねぇチョイス」
「や、仕事で使うかなーと」
「…使うのか?」
「分かんないけど」

難しいなあ、と隣で唸るペンギンは一応それなりに考えてくれているみたいだった。
マグカップなんかは俺も思いつく範囲だったけど万年筆は出てこなかった。やっぱり他人に聞くと新しい発見があるなと思いながら、これはどうだとか何がいいんじゃないかとか話を進めていく。
でもやっぱりどれも微妙に思えてしまって。それにペンギンはため息。

「結構だしたけど?」
「全部微妙だった」
「じゃあ今ローがほしいのあげるとかどう?自分のほしいものは他人もほしいだったかそんなん言うじゃん」
「特にねぇよ…あ、でも広辞苑がほしい」
「なんでそんなのほしいんだよ…大体そんなのユースタスに渡したって凶器以外の何に使えと?」
「まあ…じゃあピアスとか」
「ああ、それでいいじゃん」
「でもユースタス屋、穴開いてないんだよな」

昔は右に三個、左に二個開いてたらしいけど全然しなくなって終いに塞がっていったらしい。
じゃあ開けてやれば?とペンギンは言ったけどそこまでする気はない。それに俺はピアスしてない今のユースタス屋の方が好き。ピアスをしていたユースタス屋は俺の知らないユースタス屋だから。

「本当ばっさり斬ってくれるな…ユースタスがほしいものとか知らないのか?」
「ユースタス屋はそんなこと言わないからな…あーでもこの間たこ焼き器がほしいって言ってた」
「なんか微妙…」
「真似すんな」

俺を馬鹿にするのはこの口か?とぐいっと横に引っ張ってやれば痛い痛いとペンギンが手を叩く。
このままだと何も決まんないまま日が暮れるぞ!と言われて渋々手を離した。
それにしたって決まらなすぎる。誕生日プレゼントってこんなに難しいものだったのだろうか。俺にくれてた人たちはみんなこんな苦労して選んでいたのだろうか。

だからこそ有り難いのかもしれないが、何だかだんだん考えるのも疲れてきてしまった。最早ケーキとおめでとうだけでいいんじゃないかとさえ思えてくる。
だけど自分の誕生日を結構盛大?に祝って貰った手前そうもいかない。それに…俺だってユースタス屋の喜ぶ顔が見たいのだ。

「…あ、」
「なんか思いついたのか?」
「ユースタスの好きなものあげれば?」
「よくどっかのバンドの曲聴いてるけど…俺聴かないから知らない」
「いやいやそういうんじゃなくて、もっと簡単でさ…経費は百円以内ですけど愛はこもってますみたいな」
「はぁ?」

これもしかしてナイスアイディアなんじゃないか?といきなり目を輝かせ始めたペンギンに思わず不審の目を向ける。いろいろと考えすぎて頭が煮詰まったんじゃないだろうか。
だけど、そうと決まれば早速買いに行こう、と本来ならばあるまじきテンションで俺の腕を掴み歩き出すペンギンに不審の目というよりも心配の目を向けた。こいつ大丈夫だろうか。そもそも俺はその経費は百円でなんちゃらというプレゼントが想像出来ないんだが。

だがペンギンはそんな俺の気持ちを知る由もない。近くにあった雑貨屋に立ち寄り何故か手芸コーナーの前でぴたりと止まった。目の前にはラッピング用のリボンが並んでいる。その光景に首を傾げたのは言うまでもない。

「何色にする?」
「いや何色にする?って…買ってどうすんだよ」
「プレゼントに巻くリボンに決まってるじゃん」

ほら早く選んでさ、ケーキも買いに行きたいんだろ?とどことなく面白おかしそうに言うペンギンに急かされてますます眉間に皺が寄る。だけど確かにケーキも買いたいし、そのためには時間が惜しい。ぐだぐだと考えていた時間が長すぎて気付けばタイムリミットは刻一刻と迫っていた。

「…じゃあ赤で」
「えーその普通の赤?こっちのレース入りのやつとかいいじゃん」
「じゃあお前が買えば?」
「…ローって急に冷たくなるよな」

しみじみと呟いたペンギンを無視して袋に入ったそれを手にとりレジに向かう。
選んだのはただのシンプルな赤色。真ん中には端から端まで白色で英文が刻まれていた。無地っていうのもなんか寂しいし、でも一番シンプルなのはこれしかなかったから。
しかしこれを巻く肝心のプレゼントを買っていないのだが、きっとこれが終われば買いに行くのだろう。そう思いたい。
ああいうときのペンギンは何かとうざいし面倒だし、どうせ役に立つなら素直に買っておくに限る。

「百円以内ってか三十円以内だな…安っ」
「んで、プレゼントは?」
「いや、先にケーキだな」

何故か俺の問いはあっさりと流されてしまい、買うとこ決まってる?と言ったペンギンに仕方なくケーキを買いに向かった。
どこで買うかは決めていた。甘いものが苦手なユースタス屋が、ここのケーキなら食えると俺に教えてくれたところ。ここからだと歩いてすぐ。そこに行くと小さめのホールケーキを買った。どうせ俺とユースタス屋しか食べないし。

「で?ケーキは買ったけど?」

店から出るとまたふらっと歩き出したペンギンに今日の主役を促した。だけどペンギンが向かっている方向は明らかに家に帰る道で。何なんだ一体、とか思いながらその腕を掴もうとすれば、唐突に指をさされて眉根を寄せた。

「プレゼント」
「は?」
「プレゼントだってば、ローが」
「はぁ?!」

ペンギンはたまに訳の分からないことをする。くらりと歪みそうになる視界に目眩を覚えたのは言うまでもないだろう。

「ちょ、待て、じゃあこのリボンは?」
「これはこうやって…」

俺の手からリボンを取ったペンギンが袋から取り出すと首に回す。そのまま器用に蝶々結びをして、笑顔。

「…ほら、プレゼントの完成だ」

殺意が沸いた。

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