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 欲情ハニーの戯れ

淹れたてのココアを片手に俺は台所にぼーっと突っ立っていた。
目線の先にはソファに座ってテレビを見ているユースタス屋。ちょっと出掛けてついさっき帰ってきたらしい。起きてきた俺に気がついて、寝たかったらまだ寝てればいい、なんて言われたけどもう十一時近く。
どこに行ってきたんだと寝起き独特の声で聞けば、昼飯を買ってきたとテーブルの上にはコンビニの袋が置いてあった。

コーヒーを飲んでるユースタス屋を見ていたら何だか飲みたくなったので、寝ぼけ眼を擦ってココアを作る。そこまでは別に何ともなかったしいつも通り。
お湯を入れて粉を入れてその場でくるくるとかき混ぜる。ふぁ、と欠伸を洩らしつつ手持ち無沙汰にテレビを見ながら。
自然視界に入ってくるユースタス屋。なぜかその姿にドキリと心臓が跳ね上がった。

何故だかは自分でも分からない。ただトクトクと、確実に心臓の刻むリズムが早まっているような気がする。
詰まらなそうにテレビを見つめる横顔がいつもより格好よく見える気がするのは何故だろう。別にいつも格好いいけど、なんて惚気はこの際置いといて。

「いつまでそんなとこに突っ立ってる気だ?」
「…別に」

不意にこちらを振り向いたユースタス屋と目があって大きく心臓が跳ねた。それに視線をそらすとつい素っ気ない返事をしてしまう。

「こっち来いよ」
「命令するな」

なんて言いつつも大人しくユースタス屋の隣へ。
ソファに座る手前、つい先程の自分の考えを意識してしまって少し距離を開けた。その距離がなんだか微妙なものに感じられてしまったのは言うまでもない。
不思議そうにちらりとこちらに視線を寄越したユースタス屋もそう思ったらしく、気付かないふりをしていれば腰に腕を回されてぐいっと引き寄せられた。
その動作があまりに自然で文句も言えず、なくなった距離にただ縮こまる自分がいた。こんなのいつものことなのに顔が赤くなってしまいそうで。ちらりとユースタス屋を見れば俺の異変には気付いていないようだった。

その視線がテレビにあるのを確認して、ユースタス屋を盗み見る。いつもと違って下ろされた赤い髪は休日どこにも出掛けないユースタス屋の特徴だ。
出会ったときより幾分伸びたそれを少し面倒くさそうに耳にかける、間近で見るその仕種にも何故かドキリとしてしまう。

「…俺の顔に何かついてるか?」

不意に視線を外したユースタス屋がこちらを振り向く。気付いていないと思っていたのでバチリと目があってしまい、慌てて目をそらすと何でもないと答えた。
だけどユースタス屋はどこか訝しげな顔をしていて。気にしなくていいから早くテレビでも見てろ、なんて思うけど勿論そんなこと言えるはずがない。今度はこっちがじろじろと見られる番で、何だか息が詰まりそうだった。

「…なんだよ」

堪えきれなくなってぼそりと呟くとユースタス屋を見やる。幾分低くなった声は機嫌が悪いと捉えられたかもしれない。肩を竦めたユースタス屋が視線をテレビに戻したことにホッと息を吐いた。
それと同時にさ迷う視線。テレビは大して面白くないし大人しくユースタス屋を見ていることも出来ないので、やり場のないそれにあちらこちらと視線を投げる。

その過程でついと止まったのはユースタス屋の大きな手だった。
シンプルな黒のハイネックから覗く色素の薄い手はいつもよりさらに白く見える。カーキ色のカーゴパンツの上に手を置いて、ユースタス屋も暇なのか、トントンと一定のリズムを指先が刻んでいた。ココアを口に含んでゆっくりとその様子を見つめる。

俺のよりも少し大きくていつも暖かいその手には長くて綺麗な白い指。見ていると触れたいのに躊躇われるような、触れてほしいけれど恥ずかしいようなむず痒い気持ちに駆られる。
その思いとは裏腹に浮かんでは消える欲求は留まることを知らず、その指でいつもみたいに頭を撫でて頬に触れて抱き締めたあとにキスしてほしい、なんて考えさえ浮かぶ始末。
あの甘い声で名前を囁かれて、ユースタス屋の大きな手で体中を、……って、

(なに考えてんだ俺は!)

慌てて首を振ると羞恥と同時に驚愕が沸き起こる。今日の俺はやっぱりおかしい、と思いながらその考えを振り払うように視線をそらしてココアを見つめた。
いつもならこんなことないのに、ユースタス屋を見つめて勝手にドキドキしてしまっている自分がいる。しかも変なことまで考え出して…一人だったら膝を抱えて唸りたい気分だ。

揺れるチョコレート色を見つめながら自分の考えていたことに熱を持った頬を何とか冷まそうと深く息を吸った。だけど意識してしまえばしまうほど、それは明瞭に感じられてしまって、いつの間にやら下腹部に溜まる重い熱。やっぱり今日の俺は少し、いや大分おかしいような気がする。

「トラファルガー、」
「っ、!熱っ!」
「ばっか、何してんだよお前!」

どうしよう、なんて今の自分の状態にただひたすら焦りを隠していたら、何の脈絡もなしにいきなり名前を呼ばれてびくりと体が跳ねた。その拍子にいっぱいに入っていったココアをスウェットの上に溢してしまう。
慌ててココアをテーブルに置いて拭こうとすれば、それを遮ったユースタス屋が手を伸ばしてきて、何故か脱がそうとしてくるもんだから今度はそっちに慌てて手を押し退けた。

「ちょ、なにっ」
「脱いで洗濯しなきゃだろ」
「そんなのあっちで脱いでくるから、やめ、」
「いいからいいから」

何がいいのか全く分からないまま呆気なく脱がされてしまい、ソファの下に放り投げられる。
幸い少し大きめなサイズを買っていたので、上だけでも腿の少し上ぐらいまでならまだ見えない。反応し始めたそこを隠すのに苦はなかった。ただこの状態は今の俺にとって非常によろしくないし、このままだと完全にユースタス屋にバレてしまう。
とりあえずそれを洗濯機に放り込んで、そのあとトイレにでも行って、と脳内でシュミレーションしつつスウェットが上がってこないように端をぎゅっと握り締めていた、ら。

「…トラファルガー、ちょっと」
「っ、ぁ、やめ…!」

何を思ったかその手をやんわりと掴まれて大袈裟に体が揺れる。やばいと思って伸びてくるユースタス屋の腕に身を捩るも、腰に回された腕が離さないというように掴んでいて。
離せと言う前に呆気なく握っていた腕を払われて、下着越しから確かめるように触れられてびくんと体が震えた。バレた、どうしよう、焦燥と同時に頬が一気に赤くなる。

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