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「誰がこんなのやるかっつーの!」
「でも喜んではくれると思う。まあハズレはないな!」
「ハズレはないな!じゃねぇよ!どうすんだよもうユースタス屋帰ってくるじゃん!」
「まあ落ち着けって。ローがそれやれば問題ないだろ?」
「問題があるすぎてどっからツッこんだらいいか分かんねぇぐらいだ…」

満面の笑みを称えるペンギンにはきっともう何を言っても無駄だろう。まったくお前は馬鹿かと言いたい。
シュルリとリボンを解くと無造作にポケットに突っ込んだ。家に着くまであともう少ししかない。ユースタス屋はもうすぐ帰ってくるだろうし、また買いに戻ったらきっと遅くなってしまう。何せ何がいいのか決めてないわけだし。
要はペンギンに頼んだ俺が馬鹿だったということだ。

「最悪…」
「一番最高に愛のこもったプレゼントじゃん!なにか不満か?」
「当たり前だろ!愛がありゃなんでもいいのかよ」
「まあ…結局ローが心を込めて渡せば魚肉ソーセージとかでも喜ばれるとは思うよ」
「俺はいくら愛が込められてたって魚肉ソーセージ貰っても嬉しかねぇよ」

「…何こんなとこで騒いでんだお前ら」
「?!」

笑いながら肩を竦めたペンギンを睨み付けていれば、不意に聞き覚えのある声が後ろから響いて勢いよく振り返った。そこには案の定、というか、ユースタス屋がいて。間に合わなかった、という文字が脳内に流れ出す。
そんな俺にお構いなしにペンギンは肩を叩くと「じゃあ頑張れよ」なんて余計な一言を囁いてユースタス屋に軽く会釈して帰ってしまった。

「中入らないのか?」
「…入る」

エントランスにぼけっと立っていた俺は慌ててユースタス屋のあとをついて歩く。その間もどうしようかとぐるぐる考えていて、でもとりあえずケーキ渡しておめでとうは言わなきゃ、なんてうまく働かない脳内で思った。

ガチャリと鍵の開く音がして、気付けば家の中。リビングに入っていったユースタス屋を慌てて追いかけた。

「ユースタス屋!」
「ん?」
「…お誕生日おめでとう、ございます」
「ああ…有難うございます」

俺が少し畏まって言うと、そう言えばそうだな、みたいな顔をしてユースタス屋は笑った。
案外呆気ない。

「ケーキ一応買ってきたんだけど…」
「お、有難うな」

冷蔵庫入れといて、と言ったユースタス屋にケーキをしまう。
…やっぱりケーキとおめでとうだけでよかったんじゃないだろうか。でもああ見えてプレゼントを期待していたりして、な。用意してないから応えられないけど。

夕飯も凝ろうと思ってたのにユースタス屋と同じときに帰ってきてしまったから何にも用意していない。ケーキをしまうときに開けた冷蔵庫の中身からすると今日の夕飯はオムライスとサラダといったところか。
何だか途端に申し訳なくなってくる。俺ってこんなに計画性なかったっけ。

「ごめん、今すぐ夕飯作るから」
「ん、風呂入ってくるな」

軽く頷くと、風呂場に向かうユースタス屋を尻目に卵を溶く。黄身と白身がぐちゃぐちゃになっていくのを見ながら淡白すぎる誕生日に驚いた。
俺のときはもっとこう…とりあえずすごかったのに対してこれは一体どういうことだろうか。もしユースタス屋が何か期待していたとしたら、きっと今がっかりしていることだろう。それともハナからそんな期待なんてなかったかもしれない。
プレゼントもないし、喜ぶ顔とか見れないかも。

はぁ、と思わずため息。上の空で作っていたせいか、ケチャップを大量投入してしまっていた。



「ユースタス屋、なんか書いてやろうか?」
「あーじゃあ大好きって書いて」
「自分で書け」

慎重に皿に移し変えているときにあがったらしいユースタス屋が後ろからぎゅっと抱きついてきた。三日ぶりのそれに少しだけドキドキしたけど、雰囲気は相変わらずで。
「バカスタス」と書かれたオムライスに満足していれば、じゃあ貸してとケチャップを奪われて俺の分を引き寄せられる。
どことなく歪に「あいしてる」と書かれて思わず頬が赤くなった。馬鹿じゃん、と照れ隠しに小さく呟くとユースタス屋が笑う。テーブルに運ばれたそれを見て、食べるのが惜しいと思ってしまったのは内緒だ。

食べている間はこの三日間の話をした。といっても別段いつも通りで特に変わったことはない。ただ寂しかったか?とにやにやしながら言ったユースタス屋に気楽だったと答えたけどやっぱり…うん。絶対調子乗るから言わないけど。


「なー、ケーキ食べる?」
「食う。皿出すから切り分けて」
「ん。蝋燭さしてやろうか?それとも歌う?」
「今更どっちもいらねェよ」

夕飯を食べ終わり、少ししてからケーキを出した。皿を出したユースタス屋にケーキを切り分けつつ小馬鹿にしたように聞けば顔を顰められて。
それをからかうように、ユースタス屋苺だぞー、とケーキの上にあった苺をユースタス屋のところにおいてやれば馬鹿にすんなと少し睨まれた。

「この"Happy Birthday"って書かれてるチョコは?」
「いらねェから乗っけんな」
「いいじゃんいいじゃん、おめでとうキッド君?」
「てめェこれ絶対わざとだろ…」

ケーキを頼むときに名前を聞かれて、あーじゃあキッドで、と言ったら何を思ったか出されたプレートには「キッド君」と書かれていて。思わず吹き出したのは言うまでもない。

「いいじゃん。食べよ」

笑いながらも促すとユースタス屋は渋々席についた。


「…何だこれ」
「あっ、それ…」

リビングのテーブルに無造作に置いてあった赤いそれ。ペンギンが馬鹿言ってたリボン。
椅子に座るとユースタス屋はそれを掴んで不思議そうな顔で、リボンか?と言った。ケーキの箱についてたんだ、と言えばそれできっと納得しただろう。
だけど俺の頭の中は先程行われたペンギンとのやりとりがぐるぐると回っていて、その中でもあの一言が反響したみたいに頭に響いていた。

『一番最高に愛のこもったプレゼントじゃん!』


「…トラファルガー?」

不意に黙ってしまった俺にユースタス屋は首を傾げる。どうかしたのかと、その手をするりと落ちていくリボンを掴んだ。

「誕生日、プレゼント…」
「…このリボンが?」
「や、違くて…プレゼント、考えたんだけど全然いいのが思いつかなかったんだ。さっきまで選んでたんだけど、間に合わなくて」

思わず俯くと、別にいいのに、と然程気にしていないようにユースタス屋は言った。でもそれじゃなんか嫌だと言えば困ったような顔をされる。
プレゼントなんてなくてもと、苦笑するユースタス屋を遮ると、ぎゅっとリボンを握り締めた。

「だから、その…プレゼントが俺じゃ、駄目か…?」

ペンギンがした通り、自分の首にリボンを巻くと俯きながら呟いた。恥ずかしいし馬鹿らしいしきっと生きている中で一生に一度しかやらないだろう。だけどユースタス屋に喜んでもらいたい、なんて。
ちらりと見つめたユースタス屋は驚いたように目を見開いていて、やっぱりこんなんじゃ駄目かな、なんてリボンに手をかけた。そしたらその手をぎゅっと握られて。

「お前はもう俺のものだと思ってたけどな…違うのか?」
「へ?」

いや違わないけど、と思いながら目を丸くした。だってまさかそんな返しがくるとは思わなくて、からかっているんじゃないかと思わず見つめたユースタス屋の瞳は馬鹿らしいほど真剣だった。
思わず何も言えずに数秒過ごす。その時間が限りなく長く思えてしまって、この場合は想定してなかったぞ、とやっと回りだした頭で考えていれば不意に手を離さて。
間抜けな顔、と切れ切れに伝えられた言葉に見ればユースタス屋は笑っていた。

「っ、ユースタス屋!」
「はっ、悪い…別にそういうつもりじゃ…っ」

なかったんだけど、笑うユースタス屋を勢いよく睨みつけた。からかわれた怒りと羞恥に頬が赤くなっていく。俺が恥を忍んで言った一生に一度の俺のセリフを何だと思ってんだこいつは。

「じゃあいらない?」

ムッと頬を膨らませて視線をそらして呟けば、悪かったから拗ねるなよと身を乗り出したユースタス屋に宥めるようにちゅっと頬にキスされる。
一番嬉しいプレゼントだ、と笑いながら囁いたユースタス屋に今度は違う意味で頬が赤くなった。

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