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 恋の始まりは唐突に

(家庭教師×生徒時代)


「ローくん、そろそろ真面目に勉強してくんねェとせんせーキレるよ」
「だって暑くてやる気しなーい…」
「クーラーがんがん効かせたこの部屋のどこが暑いって?」

ぐでーっとだらしなく机の上に頬を押し付ける教え子にため息がこんにちは。今日も今日とてこいつは真面目にやる気配が皆無です。そろそろ俺だって本気でキレるぞ。

「ほら、ぐでっとしてないでとっととやれ」
「んやー」

ふるふると首を振ったトラファルガーに無理矢理シャーペンを握らせると嫌々ながらに握り締めた。だけど握り締めただけで、数式を書くのかと思いきやノートを黒く塗り潰して芯の無駄遣いをしてやがる。はぁ、とそれに二度目のため息。

夏が嫌いなのか、暑さに弱いらしく、少し暑くなってからはずっとこの調子だった。俺は暑さは平気な方だがこいつはとことん駄目らしく、まだそんなに暑くもないころ部屋に入ったときクーラーが目一杯効いてたのに絶句した。そんなことばっかやってるから中と外での寒暖差にやられるんだと親切丁寧な俺の助言はアイスを食いながら頷いたトラファルガーに流された。

「大体お前ちゃんと飯食ってんのか?」
「当たり前だ」
「昨日の夕飯は?」
「コーンスープ」
「…食ってねェじゃねェか」

カリカリと、それでもやっとxとyを書き出したトラファルガーに地味に将来が心配になる。頭がよくても餓死したら元も子もないだろうに、こいつの親は一体何考えてんだろうか。大体コーンスープってお前。そのぐらいの歳って食べ盛りじゃないのか?

「お前なぁ、ちゃんと食わねェと夏バテになんぞ」
「なってねぇもん」
「軽くなりかけてんじゃ…うわ、細っ」
「せんせーのえっち」

試しに触れた腰があまりにも薄っぺらくてビビる。大丈夫かこいつ。絶対喧嘩とか出来なそうだな。簡単に折れそうだし。なんて考えてたらにやっとトラファルガーに笑われて即行で手を離した。

「もっと触ってくれてもユースタス屋はタダなのに」
「何だそりゃ」
「本当は一分一万円」

こいつ絶対将来ろくでもねェ奴になる。だるそうに言ったトラファルガーに密かにそう思いながらノートに並ぶ文字列を眺めた。



「そいえばさ、」
「あ?」
「いつになったら俺と付き合ってくれんの?」
「は?」

だってこの間この問題全問正解だったら付き合ってくれるって言ったじゃん、と話だしたトラファルガーに顔を顰めた。ああ、トラファルガーの天才さ加減を知らなかった馬鹿な俺が思わずのっちまったあの話な。あのときは適当に逃げたけども。まだ覚えてやがったのかあの話。

「そもそも俺、餓鬼に興味ないから。無理」
「そんなこと言ってると俺が大人になったとき後悔するぞ!」
「へェ、ならさせてみろよ」

あ、しまった。
売り言葉に買い言葉の要領でつい口車に乗ってしまった自分が憎らしい。案の定トラファルガーが出さなくていいやる気を出してしまったじゃないか。

「なぁーユースタス屋の大人ってあとどのぐらい?一年後?」
「な訳あるか」
「じゃあいつ?」
「あぁ?……知らね」

どうでもいいのでものすごく投げ遣りに答えるとトラファルガーがどんどんムッとした表情になっていく。なんで、教えろよ、と揺すられる俺。あーもう面倒くせェな。

「分かった。じゃあお前が高校生になって俺のことがまだ好きだったら付き合ってやるよ」
「本当だな?!」
「おー。だから勉強しろ」

キラキラと目を輝かせたトラファルガーに一瞬言ってはならないことを口にしてしまったのではないかと思ったが、引くに引けず軽く流すと勉強を促す。でもま、その頃にはもうこんな話は笑い話になってるだろう。餓鬼は何でもすぐ騒ぎ立てるけどそれと同じくらいすぐ飽きるからな。なんて暢気に考えながら嬉々として問題を解く姿をぼんやりと見つめた。







ピンポーン
ピンポンピンポンピンポンピンポーン

「んな鳴らさなくてもいま、」
「ハロー、ユースタス屋。高校生になったローくんがお前の嫁になりにきてやったぞ」
「………」
「あれ?ユースタス屋大丈夫?俺の壮絶な美麗さにクラクラした?それとも更年期?」
「…お前もう黙れ」




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