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 素直になれないと二枚舌

ひどく愉しそうなユースタス屋に、俺は頭の中で様々な仕返しを考える。百通りの仕返しを思いついて、それを全て実行したとしても恐らく俺の気持ちは晴れないだろう。それほど今の状況は屈辱的で不本意だ。だからさっきのユースタス屋の言葉に流されるな俺!目の前のユースタス屋を睨み付けながらひたすらその思いと格闘していた。

「っ、あ、んん…ふ、ゃめ、」
「あ?好きなんだろ?」

だが体の方はそうもいかない。自分で認めたもんな、と笑うユースタス屋は撫で回すのを止めて、今度はきゅっと乳首を抓んだ。悔しいかな、慣れた体には快楽が染み付き、弄られれば甘い痺れが背筋を伝う。クリクリと弄ばれ、耳に舌が這う度に自分の意思とは別に体が揺れる。今変なこと聞かれたら、それこそ「やめないで」とか「もっとして」とか物凄く余計なことを口走ってしまいそうだ。それじゃユースタス屋を喜ばせるだけだから、必死に唇を噛み締める。まるで意味のないことは重々承知していたが。

「なァ、口と指ならどっちがいい?」
「ッッ、ゃ、…く、ち…っん、ぁ!」
「へェ、口の方が指よりいいのか、初耳だな」
「もっ、お前だま、れ…しねっ」
「照れない照れない。…素直お前、可愛いぜ?」

暴言はいただけねェけどな、と笑うユースタス屋。照れてなんかねぇよ、とも、可愛いとか目おかしんじゃねぇか、とも言いたい。言いたいけれど今口を開けたら駄目な気がする。喘ぎ声以上の何かが洩れ出てしまう気がする。

「じゃあトラファルガーが大好きな口で奉仕させてもらおうか」
「てめっ、ぁっ、んぁ、あ!」

小馬鹿にしたような笑みについカッとなったが、ぬらりと揺れるユースタス屋の舌が尖った乳首に吸い付いてきてそれどころじゃなくなる。聞き捨てならない言葉と可笑しそうな瞳にギリッと縛られた手に力が篭る。何という屈辱的な状況。普段よりも執拗にそこを舌で嬲るユースタス屋に悪態の一つでも吐いてやりたいのに、洩れ出る言葉は全部甘いもんだから頭がおかしくなりそうだ。やめろと首を振る度に、一つまた一つユースタス屋に浮かぶ愉悦の色が濃くなるのは知っていたが甘受など出来そうにない。まして享受など馬鹿げてる!こんな状況下で楽しめるほど俺はマゾヒストでもビッチでもない。それを分かってユースタス屋は。そうさ、こいつだって所詮はプライドの高い奴を地に這いつくばらせるのが好きなサディストだ。S極とS極が上手い具合にくっつくときはお互い折り合いをつけているときだけであって、化けの皮が剥がれている今この状況で惹かれ合うわけがない。抵抗した分だけユースタス屋を喜ばせるだけだとは知っているが、無抵抗でいろだなんて、ましてや楽しめなんて馬鹿かお前はと。俺が折れる義理は一切ないわけだから、ユースタス屋もそろそろそ
の舌しまって仕事に戻れって、

「何だ、余裕そうだなァ…?」
「ふぁっ、しゃべ、なっ…ぁ、あ!」

ギラリとユースタス屋の目が獰猛な色を映し出す。気を紛らせようととりとめもないことを浮かべていたのが仇になったか。口調は相変わらずだが目付きは不満そうで、嫌な予感がひしひしと伝わってくる。
見なくとも分かる、勃ち上がった乳首をユースタス屋は何度もなぞり、時折強く噛んだり引っ張ったりしながらも直接的な刺激に比べればやはり物足りない。常に微弱な電流を長し続けられるかのような感覚に目を強く瞑って唇を噛み締めた。今余計なこと聞かれたら、本当、ヤバい。だけどそういうときに限ってユースタス屋は目敏いから憎らしい。

「もうそろそろ…ここだけじゃ足りなくなってきたんじゃねェの?」
「…っ、ん…く、ぁ…」
「なァ、どうしてほしい?」

ほら、な。愉しそうにニヤニヤ笑うユースタス屋の憎らしいの何のって。

「ここも、もう触ってほしいだろ?」

甘いユースタス屋の声が囁く。
一度箍が外れてしまえばもう止められない。ユースタス屋だって知っている。まだだ、まだ俺は理性を手放したくない。思考を保っていたいユースタス屋を睨み付けていたい。けれどそれとは正反対に俺の口は動く。本心を晒けだそうとする。
頭の片隅でもう駄目だなと思いながら、気付けば俺ははっきりと呟いていた。

「もっ…さわっ、て…!」

いつもなら何重にも隠しとおせる言葉だった。それが呆気なくユースタス屋の前に跪く。一度口に出せば頭はそれしか考えられない。焦らすようにジーンズ越しに撫でるユースタス屋に押しつけるように腰が浮く。触って、もう一度繰り返すとユースタス屋は満足そうにジッパーを下ろした。

「いいこだな、ロー」

ギラギラと欲を持った目付きで見つめられ、下着ごと床に投げ出される。緩い刺激を与え続けられ勃ちあがった性器はユースタス屋の愛撫を求めて震えていた。その光景が霞がかった頭にストップをかける。我ながら馬鹿なことをと遅れて羞恥に襲われたが、それもユースタス屋によって刺激を与えられれば吹き飛ぶようなものだった。

「ひっ、ぁあ!ん、ぁ、あっ、!」
「もうぐっちゃぐちゃじゃねェか…やらしいな」

気持ちいいかと聞かれて素直に頷く自分が嫌だった。これ以上変なことを聞かれては堪らないと、目の前にあったユースタス屋の唇にかぶりつく。ユースタス屋は俺の思惑など知らず、目を細めてキスを受け止めた。絡み合う舌の合間から時折くぐもった声が洩れる。息苦しいが腹は変えられない。このままユースタス屋がイくまでずっとキスしてられればいい。尻にユースタス屋の指が這い、撫で回されて中に指が入ってきたときは本気でそう思った。その方が俺にとっていいのは明確だ。

「ふぁ、っ、あっ、あ、〜〜!」
「っと、まだイくなよ?」
「……っっ、ぁ、や…な、で…!」

だがユースタス屋は俺がイきそうになると呆気なく唇を離し、代わりに愉しそうに唇を歪めた。この口は駄目だ、正直に物を言いすぎる。俺は塞き止められたことが不満で、なんでいやだはなしてと次々に言葉を紡いだ。そんな俺をユースタス屋はやっぱり満足そうに見つめて、だらだらと先走りを流す性器から手を離すと中に入れた指で浅いところをゆるゆると刺激する。時折奥まで入る指が前立腺を引っ掻くがそれも一瞬で、恥を忘れた俺が腰を揺らしても強い快感は一向にやってこない。そんな俺を見て愉しそうに笑うユースタス屋。終いに目尻に涙が浮かぶ。その状況にただ開閉するだけだった口が、俺の哀願を裏切った。

「ゆ、すた…も、…き、た …」
「あ?ちゃんと言ってくんなきゃ分かンねェよ」
「っふ、ぃきた…から、も…っねが、いか、せて…!」

俺自身を裏切った口は今の欲望を簡単に言葉にした。ユースタス屋はこくりと息を飲んで、俺の顔を無理矢理上げさせる。目尻にあたる唇がゆっくり涙を舐めとる。「いいなァ…お前本当可愛いなァ」と呟いたユースタス屋に腰を抱えられると、突然入ってきた熱い塊に目を見開いた。

「んっぁああ!」

仰け反った背筋をユースタス屋が支える。突然の行為に頭は真っ白になり、ただ脚が力なくびくびく揺れる。腹にかかった温かい感触に自分が射精したと理解するよりも早くユースタス屋に奥を突かれて一瞬息が出来なくなった。

「一回してみたかったんだよな…トコロテン」
「ひっぁあ、ゃあ、まっ…んぁ、アッ!ゃっ、やら、!」

腹に出された白濁に指を絡め笑うユースタス屋に最早理解する力も奪われ、ガツガツと腰を揺すられれば何も言葉が紡げない。少し待ってくれたらそれだけでいいのに、まるで時間を惜しむようにただ俺を追い詰める。

「ぁっ、ああっ!や、そこ、ゃあっ!」
「嫌?好きじゃなくて?」
「ふぁ、あっ…だっ、てぇ…あたま、おかし、なっちゃ、ッッ!」
「でも気持ちいいだろ?」
「っ、ぁ、〜〜ッ、きもち…んぁ!ゃあ、また、いっ――!!」
「っ、あー、やべェ…超いい」

味を占めたように呟いたユースタス屋に何度も奥を突かれ、二度目の絶頂を迎えたときに軽く意識が飛んだが呆気なくに引き戻される。一度目も二度目も絶頂を迎えたまま刺激され続けて本当に頭がおかしくなりそうだった。余計なことなんか考えている暇もなくて、ただユースタス屋についていくのに必死。いつの間にか腕の拘束もユースタス屋が外していて、飛びそうな意識の中で強く縋りついていた。

「やぁ、きっど、っ!あ、まって、まっ、〜〜!」
「っ、何お前、もしかして連続イキ?」
「ぁ、ぁあ、ッ!ゃら、もっ…ひぁ、ああっ!」
「ハハッ、やらしー顔」

涙でぐちゃぐちゃになった顔を掴まれ、ユースタス屋にキスされる。舌を絡める余裕なんてないからされるがまま。逃げられないようにしっかりと腰を掴まれ、何度も前立腺めがけて強く突き上げられる。キスで塞がれた唇からはくぐもった声が洩れ、やまない刺激に窒息死してしまいそうだった。

「ん、ふっ…ぁ、はぁっ…ゃ、もぉ、むりぃ…ぁあ!」
「まだこれからだろ」

なァ、ロー、と不意にユースタス屋が耳元で囁く。甘過ぎるその声にびくりと肩が揺れた。聞いてはいけない、咄嗟にそう思ったのに逃れられない。両手で塞ぐこともできるのに、できない。

「ロー、俺のこと、」
「やっ、!ゆう、なっ…ゃだ、!」
「好き?」
「…っ、っ……!!」

囁かれた言葉。慌てて唇を押さえようとした手はユースタス屋に掴まれて、止められない口が開く。言えよ、と追い討ちをかけてきたユースタス屋に抵抗出来るわけがない。

「っ、ぁ…すき、…きっど、好き…ッ!」

不可抗力だ、だって俺は。頭の中でぐるぐる回る言い訳とは裏腹に、ユースタス屋は目を細めて嬉しそうに笑った。もっと、と囁かれた言葉に頭の中で言い訳を繰り返しながら好きだと呟く。何回伝えてもとまらない。
終わらない好きにユースタス屋の抱き締める腕の力が強くなる。何度目かのあと、唇を塞がれた。気絶しそうなほど濃厚で優しいキス。離れた唇が耳に触れる。

「俺も好きだ、ロー」

体に強い電流が走ったみたいだった。囁かれた瞬間頭が真っ白になって、気がつけば何度目かの絶頂に達していた。ガクガクと体が震え、視界が涙で滲む。力の入らない腕を無理矢理動かして、手でユースタス屋の口を覆った。ふるふると力なく首を振る。いわないで、と呟くとべろりと掌を舐められて呆気なく剥がされる。

「不公平だろ?俺にも言わせろよ」
「やっ、」
「好きだ、ロー…愛してる」
「ッ!〜〜!!」

鼓膜を通って脳を犯すような甘い声に体が震える。先程何度も俺が呟いたようにして、何度も囁くユースタス屋。耳を舌で嬲られながら好きだと囁かれて、頭がおかしくなりそう。
だから今度は俺がユースタス屋の頭を引き寄せてキスをした。もうこれ以上何も言われなくていいように、力の入らない手でユースタス屋の頭を抱き締める。上からも下からも刺激を与えられ、酸欠状態の体はそこからもう意識を保っていなかった。




頭も体もぐちゃぐちゃになるまで犯された俺は、気がつくと仮眠室のベッドで横たわっていた。起き上がろうとして下半身が全く言うことを聞かないことに気づく。上半身だけ起こしてぼーっとしていたら、不意に扉が開いて入ってきたユースタス屋にミネラルウォーターを差し出された。

「…出てけよ」
「機嫌悪ぃな」
「ったり前だろ…」
「自業自得のくせに」

ボトルを引き寄せると乾いて焼ける喉を潤す。じっとこちらを見つめるユースタス屋に居心地が悪くなって睨み付けたがユースタス屋は動かない。俺がボトルから口を離すと漸く受け取るために動いた。

「帰るなら送ってやるよ」
「歩けない俺は車までどうしろと?」
「…お姫サマ抱っことか」
「恥さらしか。死ね」

歩けるようになるまでもう少し寝ていると、それだけ伝えてユースタス屋に背を向けた。だが一向に出ていく気配はなくて、何をしたいのか分からない。

「…早く仕事戻れよ」
「まァいいじゃねェか。…しかしあの薬、大成功だったな。もう切れちまったのか?」
「残念ながらな」
「本当になァ…可愛かったぜ、素直なお前は」

どことなく満足そうな響きをもったユースタス屋の声が静かな仮眠室に響く。まぁそうだろうよ、俺だってユースタス屋が素直だったら可愛いと思う。分かってるけどムカつく。

「…悪かったな、普段から可愛くなくて」

好きだと言ったときのユースタス屋があまりにも嬉しそうで、呆れたような怒ったような顔しかしないユースタス屋が薬を飲んだ俺にだらしなく頬を緩めるからいけない。いつもは可愛いなんて言わない、嬉しそうにしないくせに。
そう、だからついうっかり、拗ねたように呟いてしまったのだ。誤った、と思ったときにはもう遅く、誤魔化すように寝ると言ったけどユースタス屋が出ていく気配はない。あぁ俺の馬鹿、肩を掴まれ仰向けにされて、ニヤニヤ笑ったユースタス屋にそう思った。

「そういうところ、超可愛い」
「はぁっ!?目おかしんじゃ…!」
「お前だからそう思うんだよ」

お前だから、いつも。そう言ったユースタス屋に頬がじんわりと熱くなって、何かもう自分が格好悪くて馬鹿らしくてどうしようかと思う。ムカついたからユースタス屋の頭無理矢理引き寄せてキスしてやった。

「…誕生日おめでと、ユースタス屋」
「プレゼントは?」
「お家に帰ってからですー」

本当はちゃんとプレゼントだって用意してあるし、一番におめでとうって言うつもりだった。これ以上は悔しいからもう言わないけど、ユースタス屋の幸せそうな間抜け面が見られたからよしとしてやろう。





ローたんは望めばもっと高い地位につけますが、そうすると薬作ったり実験したり出来なくなるので室長に甘んじてます。ペンシャチが先輩と呼ぶのは学生時代の名残。
なので肩書きで見るとキッドの方がローより上。という蛇足。
キッドお誕生おめでとう!




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