main | ナノ

 脳内キミ模様、明日も君だけ

(現パロ)


自分でも女みたいなことをして馬鹿みたいだとは思っている。勝手に見たくせに何だかなぁと落ち込むのも自分勝手というか。
それでも気になっていたのは仕方がない。電話もメールもないときにふと思い出したようにして携帯を開き、少し弄って画面をじっと見つめ、それからまた何でもないように携帯を元に戻すトラファルガーがずっと気になっていた。それも俺がいないときにやっているのだから余計に気になってしまう。風呂上りとか、トイレから戻ってきたあとだとか、コンビニから帰ってきたときだとか、トラファルガーは常に携帯を見つめていて、でも俺を視界に入れるとすぐに閉じて隠していた。ああ、また見てたんだな、ってその態度でいつも思うのだがうまく聞き出せない。
大体うまく聞き出せたならトラファルガーが風呂に入ってる間にこっそり見てしまおうとか考えない。

あんなにじっと携帯を見ていて、でも俺が来るとすぐ閉じてしまうもんだから何か見られたくないものが入っていてロックでもかかってるんじゃないだろうかと思ってた。でも予想に反してロック入力画面は出てこず、トラファルガーがお気に入りだというシロクマのキャラクターがこちらを向いて笑っていた。
身構えていた分少し拍子抜けした。あるいは、ロックされていたら見れないんだからと何とか自分を適当に宥めすかして折り合いもつけられただろう。見たいけど見たくないようなものがそこにはあって、何かそれを自分の力以外のもので塞き止めるものがあったらそれに託けて見ないフリができると思ってた。
でも実際にはそういった障害が何もないし、ボタン一つで普段見れないトラファルガーのプライベートな部分が簡単に見れる。一度開いてしまえば後戻りは出来ず、迷う心を押し殺して一番最初に開いたのはメール画面だった。

特に理由はないが、自分の恋人の携帯を勝手に弄って見る部分なんてメールだと相場は決まっている。俺も逆らわずにメールボタンを押して、真っ先に目に飛び込んできたのは受信フォルダとその下にある「1」とだけ銘打たれたフォルダだった。
ビンゴ、と思えば思うほど気分は急降下していったが押さないわけにはいかなかった。トラファルガーはまだ風呂から上がる様子がないと、それだけ確認してそのフォルダを開いてみる。

一言で言えば、メール。俺以外の、知らない相手から届いていたメールだった。
日付を遡れば俺とトラファルガーが出会う以前のものからあった。ただ一番最新のでも俺とトラファルガーが付き合う三ヶ月前ぐらいのものだったから…計算すると一年も前のメールになる。そういったメールがご丁寧にもフォルダ分けをされて保護されていた。
その時点で気分は底辺だったが内容を見たらもっと最悪なことになった。
保護されていたメールの持ち主は今までトラファルガーと付き合っていた奴だろう。「好き」とか「愛してる」とか「ずっと一緒にいようね」とかそんな短く陳腐なものからスクロールがものすごい長くて見る気も失せる愛の告白まで。トラファルガーは自分で今までにも男と一、二度付き合ったことがあると言っていたから恐らくこの保護メールのうちにその男からのメールもあるのだろう。案外クソ長いメールがそうかもしれない。
その割には俺のメールは一件も保護されていなかった。確かにメールで好きだの何だの送ったことはないが、それでもこれは一体どういうことだ。俺を差し置いて過去トラファルガーを独占してきた奴らはこんなところでまだトラファルガーの一部を独占しているのかと思うと腸が煮えくり返るほどイラついて、全部一気に消してやりたいぐらいだった。

ガチャリと風呂場の扉が開く音がして、俺は何でもないように携帯をテーブルの上に戻す。それからさっきまで読んでいた雑誌を開いた。



その次の日、トラファルガーの家に泊まって戻ってきた夜にメールを送った。「好きだ」どんなメールの文面にするか迷ったけれど一番無難そうな奴にした。それでトラファルガーがそのメールをどうするか確かめたかった。
案の定返信は可愛くない答えしか書いてなくて、でも返信なんてどうでもよかったもんだから適当にメールを続けた後に「明日またお前んち行ってもいいか?」とそれだけ打って承諾のメールを受け取るとそこで終わりにした。
これで明日、俺のメールがあの「1」の中に入っていたら、何となく、他のメールに対して突き詰めるのはやめようと思った。そういう習慣というか、好きになった相手に対する一種の安定剤みたいなもんなんかなぁと思うと、じっとメール画面を見つめていただろうトラファルガーの行動は何も寄越さない俺に対するサインだったのかと思ってしまう。
それならそれで別にいい。メールなんかに頼らなくてもいいように面と向かって死ぬほど愛してるって言ってやる。眠気が襲ってきた頭でそんな馬鹿なことばかり考えていた。

次の日、約束通りにトラファルガーの家に行って、またトラファルガーが風呂に入っているときにメールを開いた。きっと保護されているだろうと確信があったために「1」の一番最初のメールがこの間見たときと同じ日付で変わっていないことにひどく衝撃を受けた。
急いで受信フォルダを開いて、さらに衝撃。メールが一通も入ってなかった。つまり、消去。俺の昨日のメールも、それより前のメールも、他の奴らのどうでもいいようなメールと同じく消去されていた。
違いが分からない。「ローくんずっと好きだよ!そばにいてね」と目が痛くなるぐらいデコレーションされた頭の悪いようなメールはよくて俺のは駄目なのか。
頭も痛くなってきたし腹もムカムカしてきた。眉間を揉みながら今までの出来事を整理する。整理したが何一つ解決しない。分かったことは今付き合っている俺よりも過去の遺物である保護メールのほうがトラファルガーの中で優位な立場にあるということだけだ。

見なきゃよかったと後悔しても今更だった。突き詰めたい気持ちも八割だが、何勝手に見てんだよと言われてしまえばそれで俺はお終いだ。何とも言えないジレンマにのた打ち回っていると不意にふわりとしたシャンプーの匂いが鼻を掠めた。

「なにしてんの?」
「ト、ラファル、ガー…」

後から聞こえた声にギクリと肩を揺らす。夢中になりすぎてトラファルガーが上がったことにも気づけなかったらしい。濡れた髪を拭きながら、自分の携帯を持って固まっている俺に不思議そうな顔を向けた。

「いや、あの…これはだな…」

しどろもどろになりながら頭をフル回転させる俺とは裏腹に、トラファルガーは何でもないように俺の隣に座ると何でもないように開かれた画面を見つめて「あ、」と声を上げた。

「見た?」
「…何を?」
「これ、メール」

聞くまでもないだろう。トラファルガーの携帯を持って、さらにその画面を開いているのに見てないと答えられる方がおかしいと思う。それでも、あーとかうーとか唸るだけではっきり言えない俺は何なんだろう。
ちらりと見たトラファルガーの顔は別段いつもと変わりない。でもいつもと変わりないように見せているだけで、内心は何を勝手にと怒っているのだろうか。怒ってくれるならそれはそれで俺も話を切り出しやすいのに、トラファルガーはそう聞いたきり一向に何も言わずにただテレビをじっと見ていた。

「まあ…見た」

そう言った後に自分でも何かもっと言い答え方があったろうと思った。だけどトラファルガーは「そっか」と言っただけでやっぱり何も言わないもんだから怒りとか驚きとか焦りとか先程の感情は全部一気に吹っ飛んでただどうすればいいか分からず困惑した。

「…怒んねェの?」
「なにを?」
「メール勝手に見んな…とか」
「別に見られて困るようなもんないし」

どうやらこの保護メールたちはトラファルガーの中で「見られても困らないもの」リストに入っているらしい。意味が分からない。

「あのさ…ちょっと聞いてもいい、ですか」
「は?」
「何でこのメール保護してあって俺のは削除されてんの?」

もう意味が分からないもんだからごちゃごちゃと考えるのはやめにして率直にそう言った。ただ言葉にすると想像の倍以上女々しく感じられて自分でも何を言ってるんだと思わずにいられない。それでも言ってしまった言葉を取り返すことなどできず、何て言われるのかまったく見当もつかないのでただ黙っていればトラファルガーはテレビから視線を移してじっと俺を見つめた。それに訳もなく緊張してトラファルガーと目を合わせることも出来ずに視線をそらしてただ答えを待った。
トラファルガーは最初、言葉を選ぶような思案顔をしていたが、途中からひどく真剣な顔つきになった。俺はその表情の変化が何を意味するのかやっぱり分からず、ともすればマイナス思考へと突進していきそうになるのを何とか堪えて黙っていた。

「馬鹿みたいだからなぁ…」

ぼそりと呟いた言葉は答えではなく独り言。真剣な顔つきから何か迷うような顔つきへと再度変化したトラファルガーの表情を、百面相みたいだとどこか場違いなことを考えながら見つめた。

「んーと、さ」
「…うん」
「なんか…ユースタス屋のメール、嫌いなんだよ」
「…は?」
「いや、違くて…なんつうか……まあ保護メールに意味はないから。あの顔でこのメールかよとか思うとウケるからおもしろくて保護してただけだし。……はい」
「はいって、え、何?…あ、消したのかメール」
「ん、惰性で消さなかっただけだから」

いともあっさりと全消去されたメールとフォルダごと消えてなくなった携帯を渡してトラファルガーは頷いた。本当にどうでもよかったから、とどこか心配そうな目つきに宥めるように頭を撫でる。まあ、その件はトラファルガーを信じて、解決したということでいいとしよう。問題はさっきの一言だ。

「嫌いって…」
「それは、だから…嫌なんだよ」
「もうしない方がいいってことか?」
「そう言うんじゃなくて…あー!だから、会いたくなるから嫌いなんだよ!」

頬をほんのりと赤く染めたトラファルガーはそれだけ言うと肩に顔を埋めてしまった。言わせんなアホと呟いた声と、赤く染まった耳と、弱々しく服を握る手と、もう何だか全て可愛く見えてしまってどうしようもない。

「昨日のメールもすげぇ困ったんだからな…いきなりあんなの送りつけてきやがって…」
「…会いたくなった?」
「当たり前だろ、バカ。…寝れなかった」
「っ、だめだ、お前、も…超可愛い!」
「う、わっ!?ちょっ、苦しいっての…この馬鹿力!」

ぼそぼそ呟くようにして答えた内容があまりにも可愛いもんだからそれだけで底辺まで落ち込んでいた俺のテンションが天井を突き抜ける。自分でもなんて現金な、とは思うがそれでも文句を言いつつ抱き締め返してくれるトラファルガーが愛しすぎてどうしようかと思った。




「…あ、あともう一つ聞いていい?」
「なに?」
「携帯弄ってたのに俺が来ると隠すのは何で?」
「あぁ、あれはベポ育成ゲームしてんの。でもユースタス屋が隣にいるのにするようなことじゃないから、ユースタス屋がきたらやめてるだけ」
「そうだったのか。(…可愛い可愛い可愛いかわ)」




[ novel top ]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -