ロー誕2011 | ナノ

出来る限りの努力は、したつもりだ。いや、今だってしている。ローが俺を信じてくれるように。
だが実際のところはよく分からない。ローの心中はローのみが知る。だからと言って諦めたわけでも、諦めるつもりもない。信じてくれるまで、ずっと。あの幼い体に、そう誓ったのだから。




「…早いなぁ」
「なにが?」
「いや、もう初めて会った日から二年も経ったのか、って」

午後の日溜まりの中、ふと目を落としたカレンダーを見つめて、ぽつりと呟いた。
俺がローと初めて会った日は、忘れることのない、ローの誕生日。出会いは普通と違って異質なものだったが、ローと出会えたからよしとしている。

そして明日はローの十二歳の誕生日だ。だからもう、あの日から二年も経つことになる。
二年経ったからと言って、別段何か変わったわけでもない。二年経っても、変わらない毎日を過ごしていた。この屋敷の中で。

「…ね、ユースタス屋」
「ん?」
「おれ、誕生日プレゼントほしい」
「…言っとくが金がねェから何も買えねェぞ」
「そんなん知ってるって」
「なんか欲しいもんでもあるのか?」

不意に言われた言葉に少し驚く。ローからそんなことを言われたのは初めてだったから。去年は、一応聞いてみたが案の定何もいらないと言われたのだ。一緒にいてくれればそれでいいと。
だから驚きはしたが、それ以上に叶えてやりたいという気持ちの方が強かった。俺の出来る限りでなら、何でもしてやりたい。

「こんなこと、ユースタス屋にしか言えないんだけど…」
「遠慮するな、何でもいいぞ」

目を伏せていたローが視線を上げ、俺を捉える。
微かな意志が感じられる藍色の瞳は、二年前よりもずっと大人になっていた。


「…ここから連れ出して」


告げられた言葉に、少し目を見開く。じっとローの瞳を見つめれば、揺るぎのない意志が垣間見え、ふっと笑った。

「…いいのか?」
「いい」
「一度出たら元には戻れねェかもしれねェぞ?」
「戻れなくていい」
「金もねェし、甲斐性もねェ…出てったってうまくやっていけるか…」
「大丈夫」

ユースタス屋のこと、信じてるから。

微笑んでそう呟いたローに、思わず目を見開いた。


「信じてるから…おれのこと、全部あげるから、おれにもユースタス屋…全部ちょうだい?」
「……敵わねェな」

一体、いつの間にこんなに大人になったのだろう。まだまだほんの子供のはずなのに。
こうして知らないうちに成長していくのだと思うと、何だか嬉しいような寂しいような複雑な気分だった。いつまでも可愛いローに変わりはないけれど、「可愛い」だけじゃない。こんな風に大人びた言葉や、笑みだって浮かべるのだ。
二年前と比べて少し大きくなった体を、ぎゅっと抱き締める。信じてるから、もう一度確かめるように呟いたローに、やっと繋がりあえたような気がした。


その日の夜十二時ちょうど。少しの金と、白熊のぬいぐるみと、童話集を持って二人でこっそりと屋敷を脱け出した。
何か苦労するだろうかと思ったが、何の苦労もなくするりと屋敷を脱け出せた。本当に呆気ないと思える最後だった。

きっと、いつでも自由は門の外に口を開けて待っていたのだと思う。そこに飛び込んでいけるかどうか、ローには長い準備期間と連れだってくれる人が必要だったのだろう。一歩外に踏み出してみれば、こんなにも呆気ないのだから。あの大きな屋敷が、ちっぽけなものにすら思えた。

もう二度とここに来ることもないだろう。いや、来ないことを願いたい。
じっと前だけを見つめるローの手を握ると、振り返らずにその場を去った。







ポケットに突っ込んだ手の中で、小さな箱を転がしながら壊れたエレベーターを尻目に階段を上る。三階まで上り、見慣れた部屋番号を見つけると鍵を取り出した。しかしどうやら開いたままらしく、ガチャッと音が聞こえない。
鍵は閉めろって何度も言ったはずなんだけどな。何度言ったって聞かないところは餓鬼の頃と変わっちゃいない。

「ただいま」

また言わなきゃか、と苦笑しつつ玄関に上がると、こちらに向かって駆けてくる足音が聞こえた。

「おかえりっ」
「ぅおっ…おい、ロー、だから急に抱き着くなって…」

現れたローがぎゅっと抱き着いてきて、その勢いのよさに少しよろける。全く、これだって昔と何も変わっていない。注意するように言ってみても、結局は嬉しそうに擦り寄るローにいつも負けてしまうのだ。甘過ぎる、と自覚していても、ローの笑顔を見ると頭を撫でるだけでやめてしまう。

ちゅ、とローの唇に軽くキスを落とし、連れだってリビングに入る。もう夕食は出来ているらしく、シチューのいい香りがした。

「先食べる?」
「あぁ」

部屋着に着替え、尋ねてきたローにこくりと頷く。その前に、とソファに座るとローを呼び寄せた。当たり前のように膝の上に座ってくる姿に少し笑う。長年の癖とは簡単に抜けないらしい。

「俺を先に食べんの?」
「違ェよ」

食べて食べてと言いたげな目で見つめてくるローに苦笑すると、緩く首を振って頬にキスを落とす。夜な、と耳元で囁けば、残念そうな、期待の混じったような目をしたから少し笑った。

「お前絶対忘れてるだろ」
「…?」

不思議そうな顔をしたローに、やっぱりな、と言うと小さな箱を取り出した。興味深げに見つめてくるローに箱を開けると、シンプルなシルバーリングを取り出す。

「それって…」

きらきらとした目で見つめられ、思わず笑う。ローの左手を取ると、薬指にそっと指輪を嵌めた。

「誕生日おめでとう、ロー」

今日で十七歳だろ?と言えば、あ、と小さく声を上げる。そう言えばというような顔をしていて、やはりすっかり忘れていたらしい。最近忙しかったもんなァ、なんて思いながらそっと指輪にキスを落とした。

「どうしよう…すげぇ嬉しい…!」

至極嬉しそうな顔をするローを見つめて、やはり渡してよかったと思う。結ばれた恋人の証みたいだと、ずっとローが指輪に憧れていたのは知っていたから。
顔を綻ばすローに俺も笑うと、その額にキスを落とす。大好き、と昔と何も変わらない顔で笑ったローをぎゅっと抱き締めた。

幸せとは、恐らくこういうことを言うのだろう。




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