恍惚と屈辱の話 | ナノ

いつもなら挨拶代わりともいえるようなお馴染みのその挑発は鼻で笑って躱すはず。それに二つ返事で乗ったのは、体よく酒を飲んでいたのを邪魔されたからか、あるいは互いに一人きりだったからかもしれない。
邪魔する者がいなけりゃ話は早い訳で、気に入らないなら捩じ伏せればいい。今までだってそうしてきた。

かくして俺が能力を使ってトラファルガーを吹っ飛ばそうとしたのに早々時間はかからなかった。それをあいつの能力で躱されてしまったのが少々惜しいが、これで終わっても詰まらないからちょうどいいのかもしれない。
お互いクルーがいるときにはそれこそ常に牽制しあっていたが、今ならそれを考える必要もない。二億の首は格下といえども正直言って興味がある。それに先程まで飲んでいた酒がちょうどよく麻薬のような痺れをもたらしていて、そこらの賞金首より何倍も手応えのありそうなこいつとの殺り合いは楽しめそうな気がしてゾクゾクした。

奴にまでそれが伝わっているかどうかは不明だがお互い手を出すのは早かった。
あっという間に酒場は滅茶苦茶に破壊され、辛うじて店としての対面を保っていられる程。店にいた奴らは知らないうちに逃げ出していたらしく、今ここにいるのは俺とトラファルガーだけだった。

そのトラファルガーも今じゃ笑える。俺も傷ついてはいるが、トラファルガーはそれ以上だ。
もちろん期待を裏切られた訳じゃない。少しばかり俺の方が強かっただけだ。

犬のように荒い呼吸をしながら長刀を床について足元も朧気に立ち上がり、それでも睨み付ける瞳だけはギラギラと光を宿して俺を射る。
やはり顔だけは傷付けなくてよかったと、その表情を見てふと場違いなことを思った。服に隠れて見えない部位はきっと大変なことになっているだろうが、トラファルガーの顔は綺麗なままだ。
強いて言えば鼻血を出させてしまったことが惜しいが鼻を折るよりマシだろう、なんて。頬が腫れている訳でも額から血が出ている訳でもないのだ。

二億の首を少なからず気にかける理由は見つけようと思えばたくさんあった。
態度が気に食わないとか見ていて苛々するだとか、はたまたあまりに不健康に細くて抱き締めたら折れそうだ、とか。
取って付けたような理由はいくらもあるが、とりあえず全ての大前提として俺はこいつの顔が好きだった。
特に横顔が綺麗だと思う。黙っていればそれなりの値で一日買ってやらないでもないと思うほど、顔だけはムカつくほどに好みだった。

「っぅ…、はっ…」
「まだ立つのか。しぶといのはいいが後が辛いぜ?」
「っ黙れ…!"ROO、…っ!」
「遅ェんだよ」

能力を発動させるモーションが傷付く前よりも遅い。俺がこいつの範囲内に入るよりも俺がトラファルガーを地面に叩きつける方が早かった。
当たり前だ、肋の一本ぐらいは折っただろうし、何より今の今までで分かるだろう。こいつは俺に劣る。

所詮この程度。頭の中にそのセリフが浮かび、床に這いつくばるトラファルガーを見つめる。それでもやはり俺を睨み付ける姿は実にいい眺めだと思い、お返しに蹴りを腹に二発くれてやった。唇から血を吐き出す様子を見つめながら、内臓が損傷したかもな、と明日の天気ぐらいどうでもよく思う。
ただ死なれたら面白くない。今ここで、せめて俺が去るまでは生きていてもらわないと暇潰しとしても意味がない。
それにはそろそろ肉体的に打撃を与えるのはやめた方がいいかもしれない。死ぬ間際まで甚振って去る手もあるがどうにもそういう気分じゃなかった。

それなら…、とそこまで考えて自分の思考回路に思わず自嘲の笑みを洩らした。だが悪くない。俺も依然楽しめるし、こいつ相手になら何故か簡単に勃ちそうな気がした。
男相手なんて真っ平ごめんだがこいつは別だと言い切れる何かが俺の中にあった。もしかして出会ったあの最初のときから密かに犯したいと思っていたのかもしれない。あの人を食ったような笑みを引き剥がしてやりたいとも。そしてそれはあながち嘘でもないと思う。

「今からすることを黙って受け入れろ、っつっても多分無理だよなぁ…」
「ぅ…っ、なに、す…」
「だからせめて暴れんなよ、トラファルガー」
「!?なっ…離せ!」
「大人しくしてろって」

痛みに眉根を寄せてこちらを見つめるトラファルガーにくつりと笑うと、店の中から磁力で適当に集めた物をトラファルガーの両手で纏めて簡易手錠の出来上がりだ。ただ俺が作ったものだ、簡易といえども威力は保証する。
案の定トラファルガーは必死に手を動かすが無駄で、じたばた動かれても面倒なのでさらにその手錠を暖炉の鉄柵に磁力で固定してやった。これでもう逃げられない。

未だ手錠と格闘するトラファルガーは放っておいて、奴のパーカーを首元まで捲り上げる。さすがにそこまでいくと自分がこれから何をされるか分かってきたらしい。ガチャガチャと今まで激しかった音が止み、その代わり驚愕に見開かれた瞳が俺を捉えた。
これから殴り殺しにでもされると思っていたのだろうか。その考えが当たらなくて、こいつにとっては非常に残念な話だ。

「お、前…!」
「残念だがそのまさかだ」
「っ!嫌だ、離せ!!」
「暴れんなよ、面倒臭ェ」

これから起こる出来事を想像してか掠れたような声をあげて目を見開いたのも束の間、何とか身を捩って逃げ出そうとするトラファルガーに面倒臭くて眉根を寄せた。一、二発殴って黙らせるという手もあったが殴って吐かれでもしたらそれこそ萎える。
だからその代わりに痣や打撲傷なんかでまみれた体を見つめて、血が滲む傷口を抉り開くように爪を立てた。

「っっ、ぁ、あ゛!」
「はは、いい声だなトラファルガー」
「ぅぐ、クソッ、はな、せ…っ!」

トラファルガーの細い腰をがっちり掴み、脇腹に走る傷口を爪先で抉る。生臭い臭いがさらに濃くなり、指が血で染まっていく。
痛みに歪んだ顔とその声に何故か背筋が震える。俺も大概数寄者だなと思いながら、自分のアブノーマルな思考回路に自嘲した。
それでも指先は止まらず、傷口からは止まったはずの血が静かに流れていく。トラファルガーの肌が血で染まっていく様にいいようのない興奮を感じて体はすっかり熱を持っていた。これじゃあ変態と罵られても否定はできないだろう。

すっと何の前触れもなく指を離すと、今度は血だらけのそれをトラファルガーの唇へと運んだ。薄い唇は痛みに堪えるようにきつく閉じられていて、そっとなぞると首を振ってはね除けられる。
咥えさせてやりたいが噛み千切られでもしたら洒落にならないから止めておこう。この愉しみはまたあとにとっておけばいい、と無理矢理トラファルガーの口内に指を入れた。

「んぐ、んっ、」
「っ噛むなよおい…人がせっかく慣らしてやろうとしてんのに」

予期してはいたがやはり突っ込んだ瞬間、指先に鈍い痛みが走り顔を顰めた。それを振りきるように乱暴に指を口内で掻き回す。

「次噛んだら全部歯抜いてやる。フェラするのにちょうどいいだろ?」

そしたら俺の船で飼ってやるよ、そう言って嘲笑うとトラファルガーは呻きながらも少しだけ大人しくなった。ただ舐めろと言って言うことを聞く奴ではないことは重々承知済みなので、あえて時間だけ無駄に手間取るようなことはしない。

そろそろいいだろうと指を引き抜くと、唾液と血の入り交じった薄ピンク色が唇と指を繋ぐ。
指が抜け出た途端、トラファルガーはまるで見せ付けるかのように激しく咳き込んだ。口の中は自分の血の味で糞不味いだろうし、何より喉奥まで突っ込んだからな。
唾液と血に塗れた指を、次にはトラファルガーのズボンへと手を掛けた。もちろんこいつが目を見開いたのは言うまでもなく、それまで一心に射殺すように睨み付けていた瞳に急に焦りの色が浮かぶ。

「ゃめ、っ…!」
「悪いようにはしねェよ」

お前が暴れなきゃな、と言ってゆっくりとジッパーを下ろしていくと、トラファルガーはこの世の終わりのような顔をしていてそれがまた面白かった。悪いがまだまだ終わらない、これからだ、なんて。
ズボンを脱がすと下着も無理矢理脱がしてそこら辺に放っておく。すらりと伸びるトラファルガーの足は細く、余分な肉はついていない。だが適度に筋肉がついていて、その肌触りを確かめるようにするりと腿を撫でた。これもまた悪くないと、そう考える俺は悪趣味なのかもしれない。

「…失礼な奴だな、顔に出てるぞ」
「出してんだよ気色悪ぃ…!離せ!」

するすると撫でる手を止めずにいれば、トラファルガーの顔が憎悪と嫌悪に歪んでいく。その様子にわざとらしく肩を竦めると、瞬時に蹴りが飛んできてその足首を捉えた。
そのままギリッと力を込めればトラファルガーの顔が今度は苦痛で歪む。大人しくしてろ、と忠告するように再度囁くと膝裏を掴んでそのまま胸元まで寄せた。
途端頬に朱色が走り、屈辱からか唇を噛み締めるその姿が先程とは打って変わって新鮮で背筋が震えた。俺が求めていたのはきっとこういう表情だったのだと思う。

「いいなその顔…もっと見せろよ」
「っ触る、な!」

だが頬に触れて無理矢理こちらを向かせようとすればその表情はすぐに消えて、あとは俺を睨み付けるトラファルガーだけ。もちろんその強気な態度がいつまで続くか考えると、それはそれで面白いもんでもあるが。
まるで小動物が相手を威嚇するように必死で睨みつけるトラファルガーにくつりと笑って手を離すと、これから先の事を連想させるように徐に尻を撫でた。そのまま奥まったそこへと指を移動させるとトラファルガーの体が大袈裟にびくりと跳ねて、相変わらず睨み付ける瞳の裏には焦燥が見え隠れしていた。

「い、れたら、殺す…!」
「それが出来なくて残念だ」
「や、めっ…!い、ぁあ!」

円を描くようにくるくる撫でるとその瞳に笑いかけ、耳元でそっと囁くとズプリと指を奥に入れる。指に感じる確かな圧迫感と、痛みに眉根を寄せて喉を反らしたトラファルガーに自然と唇が弧を描いた。

「ぅ、ぐ、あっ、」
「色気のねェ声」
「ふざけっ、抜け、よ…!」
「まさか。これからだろ?」

初めて受け入れる異物はやはりきついのだろう、じわりと目尻に浮かんだ涙を舐めとるオプションまでつけてやったのにトラファルガーはじたばたと暴れだした。
わざわざ慣らさなくてもいいもの、親切丁寧に慣らしてやってこの態度だ。気持ちよくしてやるっつってんのに恩を仇で返す気らしい。
無論これは事実上の強姦なのでこいつが暴れるのは当たり前だが知ったこっちゃない。適度な抵抗はいい興奮材料だが度が過ぎると面倒だ。
それにいくら俺が我慢強いとは言っても、抜け抜けとうるさいトラファルガーにはそれしか言えないのかと飽きもくる。終いにはとにかく蹴りを決めようと脚を動かしてくるもんだから、その足首折ってやろうかと思わずこめかみがピクリと動いた。

こいつみたいな能力があったらきっと楽だっただろうな、なんて思いながらどうにかしようと辺りを巡らし、そこでふと横に落ちていたナイフに目を落とす。
そのナイフを掴んで一瞬トラファルガーの腿にぶっ刺すことも考えたがヤッてる最中に出血多量死なんてさすがに気が引ける。ネクロフィリアでもねェし、なんとか逃げようと必死に動くトラファルガーの脚を掴むと無理矢理開かせてその間に体を割り込み、閉じられないようにするだけでやめておいた。一番いいのは開脚の状態で固定することだが、この場でそれは高望み過ぎるか。
だがそれだけでもトラファルガーは動きにくくなったのか、先程よりも少し動きが鈍る。その間も出し入れを繰り返し、とりあえずトラファルガーの中を慣らした。

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