ロー誕2010 | ナノ

AM 7:00

カーテンの隙間から差し込む朝日で目が覚めた。ふわっと欠伸をすると煩く鳴り出すであろう目覚まし時計に先手を打って止めておく。うつらうつらする脳味噌を覚醒させようと目を擦るとまだ身動きがとれないことに気付いた。ユースタス屋がまだ眠っているから。ちなみにこの寝顔を見れるのは俺の特権だ。ふわりとした赤い髪は、実は触れれば柔らかいことを知っている。

「…ん」
「あ、起きた?」

ユースタス屋の髪を弄りつつ寝顔を観察していたら、不意にユースタス屋が身じろいだ。ゆっくりと開かれる瞼、その奥の赤い瞳が眠たげに俺を映す。
いつものユースタス屋ならそのまま眠りの世界に引き篭もってしまうのだけれど、珍しいこともあるもんで、すっと伸ばされた腕が頬に触れると額に優しくキスされた。

「誕生日おめでとう」
「…あ、りがと」

ふわっと優しい笑みを向けられて、突如きた不意打ちに少なからずうろたえる俺。覚えてたんだ、と言えば、苦笑しながら当たり前だろと返された。だって昨日は全然普通だったし、その前も、その前の日だってユースタス屋は俺の誕生日に触れなかったから。(つうか俺も普通に忘れてたけどさ。)

そんな俺の心情などお構いなしというように、顔中に優しいキスの雨を降らされる。朝、ユースタス屋の寝起きは悪いので(俺も悪いけど)こんな風にされると何か気恥ずかしい。むず痒くなるような気持ちを抱えながら、でも嬉しいものは嬉しい訳で。

「ん、ユースタス屋、そろそろ起きないと…」
「遅刻する?」
「ん…」
「休め学校」
「…は?」
「俺も休む」

こんなこと滅多にない訳だから名残惜しいけど、でもそろそろ支度しなきゃやばい。そう考えてゆっくりと肩を押し返すけど、なかなか離れようとしないユースタス屋の髪を宥めるように撫でた。そしたら顔を覗き込まれて、投下された我儘発言に思わず動きを止めてしまう。

「そんな簡単に休んでいいのかよ…」
「お前のためなら許される」

呆気なく休むと宣言したユースタス屋に呆れながらも離さないというように抱きしめられれば悪い気はしない。むしろこれこそ誕生日の特権なのかもしれないと思いながら、まあいいか、とそのままユースタス屋に抱きしめられてベッドの中で微眠むことに決めた。



AM 9:00

ベッドの中で他愛もない話をしながら、時折降ってくるユースタス屋のキスを頬や額に受け止める。そのあと起きて遅めの朝食を用意した。どうでもいいけど今日のユースタス屋、すごく優しい。いつもこんぐらい優しかったら、まあ、あれなんだけど…とか思いながら朝食を用意する姿を見つめた。

あ、でも待って。これは恥ずかしい。

「っ、ユースタス屋、自分で食べれるから」
「いいから、口開けろって」

いつも向かい合わせに座って食べるのに、いざ食べようとなったときにユースタス屋に腕を引かれて、何故かユースタス屋の隣に座らされて。何かと思えば、スクランブルエッグを乗せたスプーンが口元まで運ばれる「はい、あーん」っていうあれだった。
もちろん俺は恥ずかしい訳ですがユースタス屋が聞き入れてくれないので仕方なく口を開けると待ってましたとばかりにスプーンが乗り込んできて、スクランブルエッグだけを残して立ち去っていった。もぐもぐ咀嚼している間もユースタス屋がじっと見つめてきて恥ずかしくてふいっと視線をそらす。こんなんじゃ落ち着いて食べられもしない、とこくりと飲み込めばすぐさま第二弾が待ち構えていて熱る顔を必死で抑えながら口を開いた。

「…こんなことして楽しい?」
「楽しい」

気付けば自分の朝食そっちのけで俺にひたすら食わせる体勢に入ったユースタス屋に視線をそらしつつ聞けば即行で返される。さいですか、と思いながら一口大に千切られたクロワッサンを口に含んだ。…何かここまでくると「はい、あーん」の原型もないような…これじゃあまるで、

「…餌付けしてるみてェ」
「自分で食べる」

ぼそりと呟いたユースタス屋にクロワッサンをひったくるとかぶりと噛み付いた。怒んなよ、と苦笑したユースタス屋にもぐもぐと口を動かす。そしたら不意にぺろりと口端を舐められて。

「な、っ」
「ついてたぞ」

ふ、と笑ったユースタス屋に慌てて目をそらした。どうしよう、ひどく顔が熱い。ぱたぱたと手で風を送って熱を冷ましたいけれど、ユースタス屋が見てるからひたすら目の前のクロワッサンに集中した。してたのに。

「やっぱ可愛いな、お前」

笑いながら俺の頭を撫でるユースタス屋に赤い顔がさらに赤くなる。優しくて、あの意地悪じゃないふわりとした笑顔を向けられるのは嬉しいけれど、それと同じくして恥ずかしいことばかりしてくるユースタス屋に心臓が張り裂けそうになる。だけどユースタス屋は特に意識せずに普通にやっているものだから、よくよく考えれば、意地悪でも優しいときでもこうしてこっちが恥ずかしくなるような甘ったるいことをするのは素なんじゃないかと思えてきた。とんだ王子様キャラだと思ったが、これはユースタス屋が俺よりずっと(といっても八歳だけど)年上だからなのかもしれない。そう考えるとちょっとだけ年の差を見せ付けられて餓鬼扱いされてる気分になった。複雑である。



AM 11:00

食べてる間中ずっと俺を見つめてくるユースタス屋に全く食べた気がしなかった。今はやっと火照る熱も収まって、ユースタス屋にどこか出かけるか?と言われて考え中。別に行きたいところがある訳でもなく、ユースタス屋に聞けばお前の好きにしろと言われたので何も思いつかない。
やっぱりこうやって優しいのも、俺の好きにさせてくれるのも誕生日効果なのだろうか。ソファに座るユースタス屋に聞けば、ちゅっと頬にキスされた。

「俺はいつでも優しいだろ」
「…えー」

どうだかなぁ、と言ったあと、お互い見詰め合って笑いあった。やっぱりユースタス屋は誕生日だから特別らしい。別に俺はどのユースタス屋でも好きだけど。でも優しくされて嬉しくない訳がない。だからぎゅっと抱きつくと強く抱き返されて嬉しくなった。顔中にまたキスをされて擽ったくなって笑う。優しくされるのもキスが好きなのも全部ユースタス屋にはお見通しらしい。

「で、どうする?家にいるか?」
「んー…」

離れていったユースタス屋を名残惜しく思いながら、瞳をじっと覗き込まれて暫し考える。そこでふと、この間ペンギンと話題になった(というより俺が一方的に話題にした)映画がすでにDVD化されていることに気付き、借りに行こうとユースタス屋の腕を引っ張った。学校休んでよかった、とか思いながら車の助手席に乗り込むと携帯を開く。案の定ペンギンからメールがきていて、それに適当に返信すると赤信号で止まったユースタス屋の手が俺の頬を優しくなぞって。顔をあげたらそのまま長いキスをされた。結局後ろにいた車のクラクションに急かされるまで唇を離さなかったユースタス屋に、ちゃんと運転しろ、と照れ隠しに顔をそらすと、はいはい、と頭を撫でられる。こんなユースタス屋はずるいし反則だ。また熱が引くまでじっとしてなきゃじゃないか。




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