死ねばいいのに! | ナノ

「…目、閉じろ馬鹿」
「閉じたらお前見れねェ」
「いいから!」
「はいはい」

こんなの、俺だって自棄になる。声を荒げて不満そうに呟くユースタス屋を睨み付けた。それに、じっとこちらを見つめていた赤い瞳がゆっくりと隠れていく。
伏せられた睫毛は意外と長く、うっすらと赤色をしていてどうやらこの色は元々のものらしい。肌も男のくせに白くて何だか赤がよく生える。こうして見れば女が何かと騒ぐのも分からなくはない。わりと綺麗な顔だな、なんて…。

(って、なに思ってんだよ俺!)

無意識のうちに考えていた内容に驚いて、思いを振り払うように首を振った。男相手に綺麗だなんて有り得ないし、ましてユースタス屋相手にはもっと有り得ない。今の思いは事故だ、事故。忘れようとか思いながら唇に目を落とした。
紅く色付く唇はどことなく人工的な色をしていて。俺の薄い唇とは違う肉厚なそれは、触れればとても柔らかそうで……ってやっぱ何考えてんだよ俺!何でこんなマジマジとユースタス屋の観察ばっかしてんだ俺!
ぱしりと頬を叩くと余計なことは抜きにしてユースタス屋と向かい合った。何故だか知らないがだんだんと近付いていく顔にドキドキする。ただの緊張だ、と自分に言い聞かせながら、あと少しで触れてしまいそうな距離にそっと目を瞑ろうとして。



「お前おっそ」
「っ、目開けんな馬鹿!」

少しイライラしたような口調で、ぱちりとユースタス屋が目を開く。喋れば触れてしまいそうな距離で見つめられて思わず頬が赤くなった。なに男相手に照れてんだよとか思いながら慌てて距離を取ると、その顔を見られないように俯いた。

「…もしかしてこういうことするの初めて…?」
「んな訳ねぇだろ!」
「だよなー」

そんな俺に訝しむように眉根を寄せたユースタス屋の降ってきた言葉に即行で否定すれば、何故か残念そうな声色で返される。全部初めてだったらすげェよかったのに、やっぱそう上手くいかないないよなぁとかぶつぶつと訳の分からないことを呟くユースタス屋に今度は俺が眉根を寄せた。

「なに一人で言って…」
「あ、悪ぃ。ほら」
「だから目、」
「わぁったって」

キスを促すユースタス屋に目を閉じろと指摘すれば、すっとまた赤い瞳が隠れていく。こんなの一瞬だ、一瞬、と何も考えなくていいようにそれだけを自分に言い聞かせてぎゅっと目を瞑ると。
そっと唇を重ねた。



「……え、終わり?」
「当たり前だ」
「いやいやいや。今のキスって言わねェだろこれ。ただ掠っただけだろ」
「うるせぇ」

唇を離すと、こちらを見詰めたユースタス屋がぱちりと瞬きをした。
一瞬、一瞬だ、とばかり考えていたら触れた瞬間に、今ユースタス屋とキスしてるとか考える暇もなく反射で唇を離してしまった。ユースタス屋はそれがお気に召さなかったらしい。
もちろん掠った程度のものとはいえキスはキスだ。俺は自分の役目を果たしたと、ふいっとそっぽを向いた。

「幼稚園児じゃあるまいし」
「キスはキスだ」
「あのなぁ…」

呆れたような声色で話すユースタス屋。はぁ、とあからさまにため息を吐いていてムカつく。だけど気を取り直したように俺の方を向くと、ぐいっと顎を掴まれて視線を合わせられた。そのにやにやとした表情には悪い予感しかしない訳で。距離をとろうとして、背中に感じるひんやりとした冷たい感覚に思い出す。そういえば俺、逃げ場無かったんだ。

「まぁいいけど。なんなら俺が教えてやるぜ?」
「ちょ、まっ…!んんぅ!」

ぺろりと唇を舐めたユースタス屋にゾクリと背筋に寒気が走る。案の定俺の予期した通り最悪な台詞を吐かれて抵抗する前に呆気なく唇を塞がれた。

「んぅ、ん…んーっ!」

またかよ!と思いながら必死に唇を結んだ。それにユースタス屋の舌が入り込もうと唇を割り開くようになぞる。それでも負けずに唇を閉じていたら、だんだんとユースタス屋がイライラしてきたのが雰囲気でこっちにも伝わってきた。だがしかしここで負けたら俺は終わりだ。だから歯を食いしばって、ぐいぐいと肩を押して抵抗する訳で、だけどやっぱり…息が苦しい。
やば、今なら酸欠で死ねるって。

「ふぁ…んんっ、ん!」

負けた。結局我慢できなかった。だって息苦しくてしょうがない。何でユースタス屋平気なんだよとか思いながら我慢できずに酸素を取り込むため唇をうっすら開いた。でも入り込んできたのは酸素じゃなくてユースタス屋の舌で。ちゅく、と舌を絡め取られてびくりと肩が震える。舌を引っ込めようとしてもユースタス屋の舌がついてきてどこにも逃げられない。静かなそこに響く水音も恥ずかしくて嫌だ。だけど、肩を押し返せばそれよりも強い力で引き寄せられて、より深く絡めとられてしまう。
つうか俺、結局息苦しいじゃん。馬鹿か。

「ん、ぁ…ふ、くるし…」
「口で息しようとするからだろ。鼻でしろ」
「だって、んぅ…」

呼吸のために少し離れた唇に訴えかけるように呟けば、するりと頬を撫でられて宥めるように目尻にキスされた。呼吸の仕方なんて俺だって分かってるっつーの。でもユースタス屋にキスされると訳分かんなくなって頭が真っ白になるから。なのにまた唇を塞がれてキスされて。
この間のキスで分かっちゃったのかな。俺、上顎なぞられんの本当に弱い。それを知ってか知らずか何度も何度もなぞられてじわりと目尻に涙が浮かぶ。いつの間にか押し返していた手も縋るようにユースタス屋の制服をぎゅっと握っていた。なぞっていた舌が俺の舌に絡みつくと強めに舌を吸われて…あ、それホントやばい。だって、ホントにだめなんだって。ユースタス屋、キス上手すぎる。

「ん、はぁ…ぁ…」

ちゅ、っとリップ音を立ててやっと離された唇に荒く息を吐く。あのまんまキスしてたらやばかったかも。本当に気持ちよくなっちゃいそうで。
ユースタス屋、知ってるのかな。俺がユースタス屋のキスに弱いこと。…絶対バレないでほしい。


「な、舌出して」
「ん、ゃ…」
「いいから」

すっと頬を撫でられて、横向きに視線をずらしていた顔を正面に向かされる。話すには近すぎる距離でそっと囁かれて、じっとこちらを見つめる赤い瞳に逃げるように目を伏せた。
そのユースタス屋の言葉に何がしたいのか分からなくて、緩く首を振ると有無を言わさぬ口調で呟かれる。それに結局はゆっくりと唇を開くと舌を出した。

「そう、そのままな…」
「っ、!?ゃ、ゆー…っ!」
「おい、大人しくしてろって」

びっくりした。思わず驚きに目を見開く。だって、出した俺の舌にユースタス屋の舌が絡み付いてきたから。
肉厚なその赤い舌が俺の舌と絡まる様は卑猥で、思わず退こうとすれば顎を掴まれて逃げられないよう固定される。騒ぐな、というような鋭い目線が飛んできて、びくりと肩を揺らすとぎゅっと目を瞑った。でもそしたらまた目を開けろってユースタス屋に怒られて。…いつの間にかユースタス屋のいいなりになっている自分がいた。

「ふ、ぁ…ゃ、ん…っ」

薄く目を開くと、まずぬらぬらと別の生き物のように動くユースタス屋の舌が視界に入り込んできて、思わず顔が赤くなる。それにちゅくちゅく音を立てて吸ったり柔く噛まれたりして弄ばれる俺の舌。ただでさえ気持ちいいユースタス屋のキスを、俺の口内で絡め取られる舌を、見ることが出来ないはずのその光景を目前に晒されて頭の中が真っ白になった。ゾクゾクと背筋を駆け上がるその感触に何も考えられなくなって、何だか泣きそうになる。

「…っ、ぁ」
「はっ…エロい顔」

最後に舌を強めに吸って離れていったユースタス屋に名残惜しそうな声が洩れてしまい、慌てて視線をそらした。そしたらぼそりと呟かれて、その呟きにさらに顔が赤くなる。そのまま耳に唇を寄せられて、柔く耳朶を噛まれ、輪郭をなぞるように舌を這わされて、ぎゅっとユースタス屋の制服を握りしめた。

「…明日から、」
「っ、ぁ…?」
「明日から昼になったらここ来いよ、待ってるから。…いいな?」
「ん、ぅ…?ん…」

中にまで入り込んできた舌に舐められてびくびく腰が震える。濡れた水音が直に聞こえるのがひどく恥ずかしくて、耳元で低く囁くユースタス屋の声に思考回路がどろどろに溶けていく。それに何も分からなくなって考えられなくなって、顔中に降り注ぐユースタス屋のキスに訳も分からず何度も何度も首を縦に振った。




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