見た目的にも大分錆びていて相当きてたんだなぁとは思えたけど、どうしても今このドア一枚隔てた向こう側にいる奴が壊したとしか思えない。まあどうでもいいけど、とガラガラ開くと足を踏み入れる。きょろきょろと辺りを見回しながら歩けば、貯水タンクの裏側に人影を見つけた。
「……寝てるし」
まず第一声、出だしをどうしようかと考えていた俺は、壁に寄り掛かりながらすやすやと眠っているユースタス屋に虚をつかれた気分だった。どうしようかと思いながら歩を進めて、少し距離を近付ける。
そこでふと、ユースタス屋の手元に投げ出された携帯に気が付いた。
(もしかしなくても…これってチャンスか…?)
ごくり、と息を飲むとユースタス屋との距離をさらに縮める。ユースタス屋のすぐ近くまできたら、ゆっくりとしゃがみこんで。そのままユースタス屋の隣に膝をつくと、ゆっくりと、反対側の手元にある携帯へと手を伸ばす。そろそろと指も伸ばして。
――あと、もう少し…。
「寝込み襲うなんて可愛いことしてくれるじゃねェか」
「なっ、起きて…っ?!」
ガシッと急に手を掴まれて驚きに肩がびくりと跳ねた。そのままそっと耳打ちされて目を見開いてユースタス屋を見れば、思った以上に近い距離にいて思わず息を詰める。慌てて距離を取るけれど、掴まれた腕のせいでそんなに距離を取ることも出来ず。
「その努力は認めるが、俺の寝込みを襲おうなんて百年早ェぜ?」
「別に襲おうとなんかしてねぇよ!」
腕を離せと引っ張るが、完全に起きてしまったユースタス屋に壁に押し付けられてしまった。さっきと逆のこの体勢は俺に逃げ場がないため一人冷や汗をかく。でもにやにや笑うユースタス屋を睨み付けることは忘れずにいた。
「じゃあ何しようとしてたんだよ」
これで、とわざとらしく携帯を示すユースタス屋に視線をそらす。そしたら何故かちゃんと見ろよ、とぐいっと顎を掴まれて無理矢理視線を合わせられて。それに眉根を寄せると早く画像消せとユースタス屋を睨み付けた。
「ふぅん、それが人にものを頼む態度か?トラファルガーくん」
「……っ、消して、ください」
「や・だ」
「てめぇっ消されたいのか!」
ぐっと唇を噛み締めて与えられる屈辱に堪えると、俯き様にぼそりと呟いた。なのに、にやにやと笑ったユースタス屋にからかうように耳元で囁かれて、その返答に頭に血が上る。
「大体俺が条件飲むって言ったら消すって言っただろ!」
「『考えてやってもいい』とは言ったけど、消すなんて誰も言ってねェよ」
「…っ!」
ムカつく!!
今ここでユースタス屋に頭突き食らわせて携帯を真っ二つに踏み潰したい気分だ。でも知ってる、俺が力じゃユースタス屋に勝てないってこと。俺だって喧嘩はなかなか強い方だと自負してるけどユースタス屋にはきっと無理、力では。だから余計にムカつく。いいなりになってしまう自分が!
「それに、お前全然恋人っぽくないし」
「寝言は寝て言え」
「よく言うぜ。これ、消してほしいならそれなりに誠意見せろって話」
画面一杯に俺の女装画像を映した携帯を目の前に突きだされて、それにユースタス屋がにやっと笑う。俺はやっぱりそれにイライラしながら睨み付けると、ぶっきらぼうに口を開いた。
「…例えば、なんだよ」
「誠意何だから普通自分で考えるだろ。…まぁ、例えばお前からキスするとか」
少し呆れたユースタス屋が、それでもにやりと笑うと俺の唇をそっとなぞる。誠意ってそう言うことかよと叫び出したい気持ちを堪えて唇に触れる手を叩き落とした。
「…そしたら消すんだろうな」
「だからそりゃお前次第だって」
視線をそらしながら聞けばそっと耳元で囁かれる。何だかひどく曖昧だが、多分やらないことには始まりもしないのだろう。相変わらずユースタス屋はにやにやと笑いながら俺を見つめている。それに顔を上げると一つ息を吸って、決心した。