死ねばいいのに! | ナノ

最悪だ、と口の中で呟いた。
腰は痛いし声は掠れてまともに出ないし昨日途中で記憶も吹っ飛んだから最後らへん自分がどうなってたのかも分からないしユースタス屋はにやにやしているしで、何だかもう全てが最悪だった。

「なー、朝飯食うか?」
「…いらない」
「あの服は?とっとくか?」
「捨てろ、ばか」

朝起きたらこの状態だった。体も綺麗にしてあって、服もちゃんと着てる。まああんなことをこの俺にしてきたんだから、このぐらいはして当然だけどな。

ユースタス屋は何かと俺に話しかけてきたが、返事をするのも億劫で背を向けた状態でぼそぼそ呟くだけ。声を出して話す度に喉が掠れて眉根を寄せた。
それを知ってか知らずか、それともまともに会話をしない俺に諦めたのか、黙ったユースタス屋がゆっくりと俺の頭を撫でる。何でか心地よく感じるそれに、また瞼が下がっていきそうになった。

「…トラファルガー」
「……なに」
「これ、」
「え…?ぁ、ベポ!」

微睡みに揺れる少しの沈黙を破り、やる、とそれだけ言ったユースタス屋は、背を向けて眠っている俺の目の前に真っ白でふわふわの物体をそっと置いた。それに目を見開いたのは言わずもがなで、結構な大きさのそいつは俺が前からほしいと言っていたクリスマス限定バージョンのベポだった。
大好きなベポが可愛らしいサンタの格好をしている様に目を輝かせると、ひどい厄日だった、なんて考えも吹き飛んで目の前のベポをぎゅっと抱きしめる。そんな俺を見てユースタス屋は笑った。
その様子にふと思う。俺にベポをくれるだなんてどういう風の吹き回しだろうか。

「…まさか盗聴器とか入って」
「いらねェなら返品するぞ」
「誰もいらねぇなんていってねぇ!」
「あ、そ」
「………」

怪しい…また何か企んでいるんだろうか?
なんてベポを抱きしめつつ疑いの目でユースタス屋を見つめていれば、心底呆れたというようにため息を吐かれて眉根を寄せる。
今日、クリスマスだろ?と言ったユースタス屋にそれがどうしたと頷いてから…あ。

「もしかしてクリスマスプレゼント?」
「遅っ」

お前変なところで抜けてるよな、と苦笑したユースタス屋に頭を撫でられて、何故か振り払う気もおきずにベポを抱きしめて俯いた。
何だかよく分からないけれど恥ずかしい、ような…嬉しいような。なんて乙女チック思考の俺、いつもと違って気持ち悪い。
でも俺の頭を撫でるユースタス屋が、気に入ったならよかった、と満足そうに呟くから益々むず痒い気持ちになっていく。せめてありがとうとか、何か言わなければならないのは分かっているのになかなか口が動かない。

そこで気付いたのは俺がユースタス屋に何もやれるものがないってこと。だって用意なんてハナからしてないし、まさかユースタス屋が何かくれるなんて思いもしなかったから。

「…俺、なんにも用意してない、けど」
「いらねェよ別に。もう貰ったしな」
「…は?」
「『うん、俺もすきっ…』とか言いながら抱きついてくるお前」
「はぁあ!?言ってねぇし!」
「言ったって。何だよ、記憶ぶっ飛んじまうほど気持ちよかったのか?」
「っ〜〜!最低!死ね!」

ありえない!俺がそんなこと言うとかありえないし!
先程までの考えはどこえやら、火照る頬を隠すようにシーツを被るとベポを抱きしめてうるさく高鳴る心臓に首を振った。どうせユースタス屋がいつもみたいに有ること無いこと言って、俺をからかっているだけだ。
案の定ユースタス屋の笑い声が頭上から降りそそぎ、ほらやっぱりそうだ、と悪態を吐けば、いきなりシーツ一枚隔てた体をぎゅっと抱きしめられてますます顔が赤くなった。

「分かった分かった、言ってないってことにしてやるから出てこいよ」
「やだっ、離せ!」
「やだね」

ちゅっとシーツの上から耳にキスを落とされてびくりと体が震える。死ね、ともう一度呟くと、だから死ねは傷つくって、とユースタス屋はやっぱりなんでもない風に笑った。
バカスタス!とか頭沸いてんじゃねぇの?とか言ってもユースタス屋は軽く受け流すだけで、それがまた気に食わなくてベポを抱き締めて唸る。唸っていたら不意にユースタス屋の吹き出す音が聞こえて、お前本当かわいーな、と笑われたもんだから余計に出られなくなってしまった。
結局その攻防に根負けした俺がシーツから顔を出すのはそれから十五分後の話。






後日

「…お前それ気に入るのはいいけどよ」
「なんだよ」
「いい加減鬱陶しい」
「あ、だめ!触んなっ」
「(…なんか余計なもんプレゼントしたかもしんね。)」
「ユースタス屋の代わりに抱きしめてると思えば文句ないだろ?」
「……!」
「えっ、なに…ちょ、ユースタス屋てめっ、離せ離れろ!」
「やだ」
「っ!…バカスタス」
「これからお前の暴言=好きに脳内変換するわ」
「なっ…馬鹿は馬鹿で暴言は暴言だっ」
「はいはい。可愛いな」
「〜〜!」




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