死ねばいいのに! | ナノ

「トラファルガー!起きろって、ちょっとお前に頼みがあるんだよ!」


勉強を終わらせてふと時計を見ると日付が変わっている時間だった。もうこんな時間か、とベッドに入ろうとしたのはいいがその時ちょうど電話がかかってきて。その表示された名前、「ユースタス・キッド」に眉根を寄せたのは言うまでもない。
渋々出てみれば電話口の向こうからユースタス屋の声がする。何のようだと素っ気なく聞いたはずなのに「お前の声が聞きたくなったから」と深夜に相応しい甘ったるい声を吐かれてさらに眉間が険しくなった。俺は眠たい、もう寝るから、という言葉をユースタス屋の言葉を遮って何回も言ったはずなのに曖昧にはぐらかされて時は流れ、結局最後まで切れないで会話の途中で眠ってしまったらしい。いつ寝たのか知らないが、朝起きたら携帯をしっかりと握り締めたまま眠っていたからだ。
寝起きの脳内には意識の切れる間際に囁かれた「トラファルガー、寝たのか?…おやすみ」という似つかわしくないほど優しい口調で言われたその言葉がはっきりと残っていて、そんな自分に朝から恥ずかしくなってベポを抱えて唸っていたら遅刻しそうになった。

というわけで朝からいらない体力を使いさらに寝不足な俺にとって現代文は最高にいい睡眠タイムだった。それを引き摺るように休憩時間も机に俯せていたのだが、いきなりバンッと机を叩かれて大声を出されれば誰だって起きてしまう。
言っておくが俺の寝起きはいい方ではない。

「あ、ローさんやっと起きたんですか?眉間が大変なことになってますけど」
「………」
「ちょ、指逆にっ…痛い痛い!てか無言でそんなことやらないでくださいよ!」
「…うぜー…黙っとけ…」
「ぅっ…ペンギンーー!」
「…はいはい」
「おいトラファルガー!寝るのはうちの話を聞いてからにしろ!」

寝起きの俺の眉間がどうのとシャチが指を近付けてきたのでその指を全力で逆に曲げてやると途端に辺りが騒がしくなる。さっきまで確実に静かだったはずの俺の周りは見違えるほど賑やかで、そのせいでだんだんと脳がはっきりしてきた。
でもペンギンに泣きつくシャチをぼーっと見つめながらもう一度寝ようとすれば激しく肩を揺さぶられる。聞き覚えのある声には嫌な予感しかしない。

「…なんだよ鬱陶しい」
「鬱陶しいとはなんだよ!うちの話も聞かないでお前が寝ようとするからだろ!」

顔を上げた先にはやっぱり、というか。ボニー屋が仁王立ちして立っていて、その様子と本格的に覚め始めた頭にため息を吐いた。俺は一度目が覚めてしまうともう一度眠り直すことができない体質なのだ。

「分かったから騒ぐな。で?」
「あのな、バイトの手伝いしてくれないか?」
「…バイトってあのケーキ屋の?」
「そう。あ、もちろん給料は出すぞ!店長が」

パチンと手を合わせて頼む!と言ったボニー屋に、何で俺に頼むんだとかいきなりどうしたんだとか情報が少ない上に突拍子すぎて話についていけない。


詳しく聞けばこうだった。
一番忙しい時期ともなるクリスマスを前にしてそこのケーキ屋からバイトが三人止めてしまったらしい。三人とも当日シフトが入っていたのだから大変だ。今更シフトをずらしてくれる人もいなく、困っていた店長に「じゃあうちの友達連れてきてもいい?」と日雇いバイトとして友人を頼ろうとしたが敢えなく全滅。それでも自分から店長に申し出た手前、今更やっぱり無理でしたとは言えず、最終手段として俺のところに頼りに来たらしい。

「この通り!」
「この通り、とか言われてもな…俺そういうのしたことないし…だるすぎ」
「う…で、でもお前は午後から来てくれればいいから!二十時には帰れるって店長も言ってたし!」
「はあ…」
「いいんじゃないですか半日ぐらい、ローさん確か金欠だったでしょ?」
「そーなのか?」
「まあな」

俺は一人暮らしなので基本的に仕送りされる金で生きている。クレジットも持っているがあの人名義なので出来れば使いたくはない。だから仕送り分の金がなくなると非常に困るのだ。
いつもはちゃんとそれなりだから困りもしないのだが、ついこの間衝動的に本を大量に買ってしまったのがいけなかった。それからというもの金がやばい。
だからちょうどいいと言えばいいタイミングなんだけれども。いくら自分から言い出したことだからってボニー屋が俺に頭を下げるなんて怪しすぎる。こいつなら他にもあたれる奴はいるだろうし…怪しい。

「シャチは?ペンギンも駄目なのか?」
「前言っただろ。温泉」
「あー忘れてた」

そう言えばこいつらは一泊二日で温泉旅行に連れてかれるんだったか。二歳からの幼馴染みということで、お互い両親の仲が大変いいらしい。
お饅頭買ってきますね!と満面の笑みで言われたのでいらないと素っ気なく答えればまた騒がれる。

「いらないって…ローさん冷たい…ぐす」
「ま、ローは甘いの嫌いだしな。その代わりストラップを買ってくると必ずつけてくれるぞ?」
「ホント?!」
「いや、つけねーよ」
「そんなことより!バイト引き受けてくれんのか?てかうち的に引き受けてもらわないと困る!」
「えー…めんどく」
「特に変わり物が好きだからな、変なご当地ストラップとか」
「え、それ行くところに売ってるかな?!」
「売ってんじゃないか?多分」
「ペンギンお前、変な情報植えつけてんじゃねーよ!マジで買ってくるだろ!」
「買ってきたらつければいいだろ。くくっ」
「んー…どんなのにしよう…」
「笑ってんな!待てよ、シャチそれだったらまだ」
「トラファルガー!どっちなんだよ!」
「分かったからボニー屋はちょっと黙っとけ!」
「じゃあいいんだな?!」
「ああ……って待てよくないよくない!」

投げ遣りにボニー屋の相手をしていたら間違えて肯定的な返事をしてしまった。
もちろん、してしまったときには時すでに遅し状態で、よし!とガッツポーズをかまし嬉しそうに立ち去っていくボニー屋は訂正も耳に入らないと言った様子だ。むしろ受け流していると言った方が正しいな。
じゃあ後でメールするからなぁー!と満面の笑みで手を振ったボニー屋に踏んだり蹴ったりだと肩を落とすと腹いせにペンギンを睨み付けた。

「いいだろ、ちょうど金欠らしいし」
「ペンギンてめぇ…」
「あんまりシャチをいじめるからだ」

一々宥めるのも大変なんだ、と言ったペンギンの逆襲に渋々分かったよと頷いた。




「はぁ?一緒にいれない?」
「ボニー屋のバイト手伝うことになったから、無理」
「一日中?」
「十三時から。二十時には帰れるみたいだけど」
「ふざけてんだろそれ…一日中お前と一緒にいる予定だったのに」
「ふざけてんのはお前だろ」

何が一日中一緒に、だ。
そもそもクリスマスをお前と過ごすなんて約束した覚えはないが?
と言えば、恋人同士なんだから当たり前だろ、と手を握られたので振り払う。残念だったな、その「恋人」と一緒にいれなくて、とユースタス屋の淹れてくれたココアを飲みつつテレビを見ながら返すと不機嫌そうにぎゅっと抱き締められた。

「邪魔。テレビが見えません」
「なあ…じゃあ明日泊まってもいいか?」
「バイトはその日だけだしメインの明後日は暇だから無理すんな。無理しないでください」
「明後日なんてどうでもいいだろ。てかイヴって普通恋人と過ごす日じゃねェの?」
「こだわるなよ」
「嫌だ。YESじゃなかったら犯す」
「てめっ…分かったから引っ付くな!」

何なんだ今日は厄日か?とユースタス屋を引き剥がせば、じゃあバイト終わりに迎えに行くからと頬にキスされる。
でもそこまでして俺と過ごしたいのかと思うと本当にちょっとだけユースタス屋が可愛く思えたのでその頭を気紛れに撫でてやった。


「誘ってる?」
「殴るぞコノヤロウ」




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