死ねばいいのに! | ナノ

そもそもここに来たこと自体が間違いだったんだ。それでユースタス屋にからかわれたときに拳でも決めてさっさと引き返せばよかったんだ、きっと。後悔しても遅いけど。


「ベタベタすんな!引っ付くな!」
「あ?恋人だろ?」
「違う!」

にやつく瞳に噛みつくように否定するとその体を押し返す。でもそうすれば腰に回ったユースタス屋の腕にぐいっと引き寄せられて、離れるどころかさらに縮まる距離に触れ合う部分が熱くなっていくような感覚に慌ててその瞳を睨み付けた。
何てったってユースタス屋の脚の間に座らされて、がっちりとホールドされた腰に後ろから抱き締められるこの体勢、俺たちの関係を考えれば騒ぎたくもなるだろ常識的に考えて。
しかも一頻り笑われて訳の分からないこと言われてキスされた後、でもある。

「普通に座らせろ糞が…」
「口が悪ぃなぁ、塞いでやろうか?」
「余計なことすんな馬鹿!」

大体誰のせいだと思ってんだ誰の、と思ったが、無駄な抵抗はもう散々試したし効かないことも実証済みなので暴れるのは止めにした。俺もなかなか疲れている。
ただ相変わらず減らない口は俺を苛々させるのが上手で、たとえ出会いがまともだったとしてもこいつとは上手くやっていけない自信を変わらず与えてくれる。だからって別に嬉しくも何ともないけど。

「つか…いつまでこうしてる気だよ」
「昼休みが終わるまで?別に午後サボってもいいけど」
「授業出るし」
「あっそ、じゃあ終わるまで」

抵抗するのを早々に諦めた俺が考えることは、いつこの体勢から解放してもらえるのかという、それだけ。欲を言えばこいつとの変な関係ともとっとと別れを告げたいんだけど、それはなかなか上手くいかない。
てか昼休み終わるまでってあと何分あんの?十五分とかそのぐらいだろうか。早く終われ。だけどこういうときに限って時計の針は進むのが遅かったりするから理不尽だ。

「つかさー」
「…なんだよ」
「お前本当に来たんだな」
「は…?」
「結構律儀なんだなって」
「帰る」
「いやいや俺が帰すとでも?」
「てめっ…図ったな!」
「そんなつもりはねェんだけどな」

にやにや笑うユースタス屋にはめられた、と思ったのは瞬時のことで、つい先程までの自分を否定すると離せ離せと暴れてやった。でもやっぱり距離を置こうとすればするほど強く抱きしめられて逆効果。

しかも。

「でももし来なかったら…この画像、削除してたかもなー」

なんて笑うユースタス屋に耳を疑った。


「はぁ?!なんでそうなるんだよ!」
「だって詰まんねェじゃん?もし来なかったら。しかもこれで来ないぐらいなら何言っても無駄ってことだろ?」

なぁトラファルガー、そうだろ?

くつりと唇を歪ませて、耳元でそう囁いたユースタス屋にわなわなと震える肩が抑えられない。
つまり俺はわざわざのこのことやってきて、こいつの中での賭けに知らず知らず負けていたってことだ。きっと立ち竦む俺の後姿を見て、ユースタス屋が抱きついてきた時にもう勝負は決まっていたのだろう。俺は一つ、重大なチャンスを逃してしまったのだ。

「〜〜っ!」

悔しい…せっかくのチャンスだったのに…!

ありったけの恨みを込めてユースタス屋を睨み付ければ、そう怒るなって、と面白がるように目尻にキスされた。それを振り払うと、次は絶ッッ対に、来ないからな!と腰に回された手に爪を立てる。
そしたら仕返しとばかり耳朶をいきなり噛まれて、情けないことにびくりと体が震えた。

「いーや、そりゃ出来ねェな」
「っ、…やめ、」
「お前は明日も来る。…バラされたくなかったら、な」

一度来ればこっちのもんだ、と笑うユースタス屋に本気で悔しくなった。俺の馬鹿!
しかも今の状態って結構やば…、

「ユー、スタス屋…っ、はな、せ!」
「お前ってさー、もしかして耳弱い?」
「ぁ、ちが…っ、!」
「嘘吐くなよ」
「ふっ、ぁ…ほんと、やめっ…!」
「やだ」
「っ、っ…!ぁっ…」
「はっ…腰びくびくしてるし」
「っ!」

縁をなぞり、ちゅくちゅくと音を立てて存分に耳を責められる。わざとらしく腰を撫でるユースタス屋にびくりと体が震えた。

「っ、ぁ…もっ…離せ糞野郎!」
「いってェ!何すんだてめェ!」
「そりゃこっちの台詞…!」

そこまで言って俺の耳が拾ったのは昼休み終了を告げるチャイム。どこに当たったかいまいち分からない肘鉄に眉根を寄せるユースタス屋の緩んだ腕からタイミングよく抜け出せたのはラッキーだった。

「トラファルガー!」
「なんだよ死ね!」
「可愛くねー…『また明日』な」
「っ!」

最後に捉えたのはユースタス屋の嫌味ったらしい笑顔。振り切るようにして屋上をあとにした。
触られた(舐められた?)耳が熱い。何だってんだよ畜生。本当に、明日からのことを少し真面目に考えなければいけない。




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