同棲中な二人の裏的日常 | ナノ

微睡みの朝、ふと寝返りをうって隣を見れば真っ白なシーツだけが広がっていた。珍しいこともあるもんだなと思いながら欠伸をする。そのままベットで舟を漕いでたら急に寝室のドアが開いたもんで視線だけ向けると困ったような顔をしたトラファルガーがいた。

「ユースタス屋、レンジが爆発した」
「…は?」

寝起きの頭は上手く状況が飲み込めず、かと言って飲み込む気もない。早く起きろとっとと起きろと急かすこいつが鬱陶しくて反対方向に寝返りをうった。

「…何で爆発なんかすんだよ…普通しねェだろ…」
「なんかココア温めてたら爆発した」

正直意味が分からなかった。ココアを暖めただけでレンジは爆発するもんなのか?てかそもそも爆発するもんじゃないだろ…。
カーテンを引く音がして同時に眩しいくらいの朝日が入り込む。腕で目を覆うとトラファルガーの言葉に適当に相槌を打った。

「ユースタス屋…ちゃんと話聞いてるのか?」
「…あ?だから飲みたきゃまた作ればいいじゃねェか」
「だからレンジが壊れたんだっつってんだろ!」

壊れた、そいつは初耳だ。爆発なんて変な例え使うなよ、とそこまで何とか情報を飲み込むと次第に状況が見えてきた。ゆっくりと咀嚼し終えたあとに一抹の不安が過る。もう一度トラファルガーの顔を識別すると一気に頭が覚醒した。

「…まさかとは思うが…台所に入ったのか…?」
「当たり前だろ」

あそこに入らなきゃ何も出来ない、としれっとした顔で言い切ったこいつを見るとベットから飛び起きた。急いでキッチンに向かうとほっと胸を撫で下ろす。どうやら火の海になるという最悪の状況は免れたらしい。安堵の息を吐くと後ろから来たトラファルガーの顔をちらりと見やる。なに意味分かんねぇみたいな顔してんだ、お前のせいだよお前の。

「一人で台所に入るなってあれほど言っただろ」
「ココア飲もうとしただけじゃん」
「それが爆発したとか言って起こしにきたやつは誰だ」

レンジを開けると確かにチョコレート色の液体が広がっていた。瞬間甘い匂いが鼻につく。中央にあるマグカップを引き出すと中身は半分も入っていなかった。

「どうしたらこんなになるのか説明してみろ」
「普通にしただけだけど」
「普通?普通じゃないからこうなるんだろ」

じっと見つめると脹れたようで顔をそらされる。たかだかココアも淹れられないでこの先どうやって生きていくつもりだろうか。料理が壊滅的に駄目なのはつい最近分かったことだがまさかこんなことも疎かだなんて致命的過ぎる。まあでもこの間の燃え盛るフライパンよりはマシか。あの時はまだ何も知らなかったので勝手に作らせたがそれが失敗だった。それ以降ここには一人で入れさせてない。が、まさかそうくるとは思わずため息を吐いた。

調べてみると確かにレンジがイカれてた。でもこれはトラファルガーのせいと言うよりはこのレンジが古くなって使い物にならなくなっだけのような気がする。

「新しいの買いに行くか」
「…ごめん」

相変わらず視線を合わせないようにしたままでぽつりと謝罪の言葉を口にされる。珍しいなと言って反論されるかと思いきや少し眉根を寄せられただけだった。これは本格的にあれだ、珍しいってか素直すぎて若干気持ち悪い。暫し無言の沈黙が流れるがこいつは何も言わないので軽い溜め息を吐くと乱雑に髪を掻きあげた。

「別にてめェのせいじゃねェよ。何もしなくてもそのうちイカれてただろ、古いやつだし」

あまりにもいつもの横暴さがないので慰め紛いの言葉を投げるとついでに額にキスをする。らしからぬ甘い雰囲気に何とも言えない気分だ。ぐっと肩を押されて逃げ出した後ろ姿にすぐ出掛けるから早く支度しろよ、と声をかける。赤くなった耳を見つけると何だか今日は珍しいこと尽くしだと思った。

デパートに着いてすぐにトラファルガーが何か食べたいと言うので遅めの朝食もとい昼食をとることにした。久しぶりにこういうことをやったというか、家から一緒に出て出掛けたのも初めてのような気がする。何せ同棲し始めてから日が浅い。まだまだほんの一部かもしれないが今まで知らなかったことを知ることも出来た訳で。料理が苦手の域を越えてるだとか家事が面白いぐらいに出来ないとか…まあそんなとこだ。

食べ終わり店を出るととりあえず電化製品を見に行った。たくさんの商品が並ぶ中、欲しいのは機能が単純明快で使いやすいものだ。多機能付であんまり複雑なのを買ってもまた壊されかねない。そう言うとむっとした顔を見せられそれに笑う。そこら辺で暇そうにしている店員を呼ぶとどれが一番いいのか訪ねた。要は何だっていいのだ。これが新作でおすすめです、とか言ったやつを適当に買って今日の目的は終了。 あとは思う存分、目の前のこいつに付き合ってやるだけ。
あれが見たいそれが欲しい次はこれでどれがいいか。あっちに来たりそっちに行ったりとあちこち歩き回っては文字通りクタクタになるまで買い物に付き合ってやった。

「…疲れた」
「歳だな、ユースタス屋」

俺は別に平気、とラテを飲みながら元凶が口に出す。歩き疲れた俺は適当なカフェにトラファルガーを引っ張って連れ込んだわけだ。そうでもしないとこいつは永遠に歩き続ける気がした。
コーヒーを口にしながら周りに置かれた紙袋の山を見る。欲しいと思ったものはすぐ自分のものにしなきゃ気がすまない性格は今だ健在らしい。完全に体のいい荷物持ちだな。

「飲み終わったらなら帰るぞ」
「もう行くのか?」
「あんだけ見りゃ十分だろ」

それにまた来たけりゃ何時でも来れるし。そう言って立ち上がるとトラファルガーも付いて並ぶ。

「やっぱユースタス屋と同棲してよかったわ」
「そーかよ」

顔を覗き込むようにして見せたこいつの顔がにやりと笑う。照れるなってと言われれば否定せずにはいられないわけで。ならば仕返しとばかりに俺もお前と同棲出来て良かったぜ?とそっくりそのまま囁く。そうくるとは思っていなかったらしい驚いた顔が徐々に赤くなっていくのを眺めながらくつくつと笑った。


後ろに買ってきた荷物を詰め込むと車に乗り込む。隣にトラファルガーが乗ったのを確認すると発進させた。適当に選んだBGMが緩やかに沈黙の間を流れる。外はすでに日が暮れていて夜になりつつあった。
ふと思い立って隣に座るトラファルガーを見やる。何の気もない、言うなればただの出来心だが、赤信号で止まると顔をこちらに向かせて噛み付くようにキスをした。

「んんっ?!ふ、っく…っっ!」

突然のことと驚いたのか、抵抗のために開いた唇の隙間から舌を滑り込ませる。顎を掴んで逃げないように固定するといいように絡めて遊んでやった。歯列をなぞると弱い裏顎を悪戯にべろりと舐める。びくりと体が震えたのを確認すると唇を離した。
口端からだらしなく垂れた唾液を指で拭うと荒い息をしたままの鋭い目がこちらをきっと睨む。それににやりと笑うと青信号に大通りからは逸れた寂れた通りを選んで車を進めた。

「っ、どこに行く気だよ…?」
「着きゃ分かる」

それだけ素っ気なく言うと車をどんどんと寂れた方へ進ませて行く。ちらりと隣を見ればそれっきり言うのを止めにしたのか俯いたままだ。暗くて表情はいまいち分からないが耳が赤いのですぐに見当がつく。これから起こることを知ってそのままでいられるか、大いに面白いところだとほくそ笑んだ。

Next


[ novel top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -