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(教師×小学生)
(小スカ有につき注意。)


体育大を卒業していつの間にか流れで教師になった。嫌々だった筈の仕事も気付けば生徒に得意な体育を教える事自体を楽しいと感じた。初めて担任としてクラスを受け持つ事になったが授業中に些細な事から発展した猫パンチの応酬としか言い様の無い子供の喧嘩が始まったり、生意気だったり、とにかく個性が強い問題児ばかりの生徒達にそれなりに頭を悩ませたりもした。それでも一応聞き分けは良いし頻繁に勃発する子供の喧嘩も昼休みになればまた仲良く遊んでいたりするような奴等だ。何より仲間外れ的な卑怯な事はしない自慢の生徒とまでは言わないが、自分のクラスの生徒は十分可愛いとさえ思える。ただ一人を除いて。

殆どの生徒は勉強の授業より体育が好きだと答える中で体育が嫌いな生徒も少なくはない。体が弱くて走り回れない生徒もいれば単純に体を動かす事が嫌だと言う生徒も、苦手だから嫌だと言う生徒もいる。まだ数年間と言えど色んなガキ、もとい生徒達を見て来た が今のクラスに体が弱い訳でも運動神経が悪い訳でも無く、授業以外の休み時間は友達と外で遊んでいる生徒が一 人だけいる。何を考えて体育だけサボ るのかが幾ら考えても理解出来なかった。

そいつは俺が何を聞いても隈のある可愛げの無い目でじっと睨んで来るだけだった。他の教師に聞けばヤツは優等生にしか見えないらしく、俺と他の教師や生徒達に対する態度の違いを数ヶ月間見ていたが気付いた。気付いてしまった。

「気付くのが遅いと思うが?」

「俺…生徒に嫌われた事なんか一度も ねぇのに…」

「えーでも現に今 あの子に嫌われてるじゃないですかー顔が怖いから」

週末の仕事が終わった夜。
教師だろうがサラリーマンだろうが行き着く先は同じだ。家か、居酒屋かだ。偶然にも同じ職場に同じ大学の知り合いが居れば、残業が無い限り必然 的に決まった時間に決まった店に行く。三人でボックス席で一日の愚痴や教頭の悪口を言い合うこの不様な姿は教え子に見られたくないランキングの上位に入る。一応優しくて可愛いと女子生徒(小学生)に評判の保健室の先生が生ビールのジョッキを片手に、最近の子供は転んで血が出ただけで大騒ぎしてると、全部親が悪いんだと大声で喚いてるこの姿を見てもまだ人気が保てるのか。俺はこんなヤツに傷の手当をされたくない。

「体育の成績が1でも他の教科で十分優秀なんだから別に良いじゃないか」

「俺が嫌なんだよ。あのクソガキ…毎日すげぇ顔して睨んで来るんだぞ?」

「だからそれは全部ユースタス先生の顔が怖いのが悪いんですってば。最近の子供は大人びて見えるけどやっぱりまだ小学生なんですからとにかく優しく接してあげなきゃ駄目なんですよ。あ、そう言えばすっごく良いって評判の整形外科知ってるんですけど紹介しましょうか?今なら安く出来るって言ってますし」


保健医の嫌味を含んだ助言を鵜呑みにするつもりは無いが、明日からもう少し考えながらあの可愛くないクソガキに接してみようと思った。




月曜の時間割は生徒に人気がある。
一番最後の六時限目が体育だからだ。逆に金曜の時間割は五時限目が体育でその後が算数だから生徒の殆どは眠そうな顔で黒板とノートを睨み付ける。その中で、例のガキだけは説明をちゃ んと聞いている上に、俺の下手くそな 板書を一生懸命ノートに書き取っているから不思議だった。気付けばチャイムが鳴って生徒達は勝手に給食モードに頭を切り替え、話し声と騒音を立てながら机をくっ付け始めている。昨日のシャチの助言を思い出しながら結局具体的にどうしてやればあいつは俺の事を睨むのを止めてくれるかを考え始めると頭に幾つかの案は浮かぶが。

「…せんせい」

ざわざわがやがや、煩い教室で聞き慣れない声に呼ばれた。見れば俺を悩ます元凶が、給食当番だから白いエプロ ンを付けたままこっちを睨んでいる。不意に俺も睨み返してやりたくなったが、その両手に俺の分らしい給食があるのに気付いた。持って来てくれたらしい。

「ありがとな、トラファルガー」

あいつの助言通りに優しく、礼を言って笑ってやれば睨むのは止んだが酷く胡散臭そうな目で見られる。それでもガチャン、とまるで叩き付けるかの様に給食を教卓に置いて逃げるトラファ ルガーの耳が赤くなっていたのが見えた。叩き付けられた衝撃で五目スープ が零れたのには腹が立つが、あれがもし照れ隠しだとしたら。あいつへの印象は少し変わると思った。だが日直の合図で全員が目の前の給食を貪っている中でまた一人だけ俺をじっと観察するような目付きで見ながらパンを齧っているのが嫌でも見えるとやっぱり駄目だ。可愛くねぇ。

体育は先月から教えている器械運動で、一時間の間で並べられた跳び箱を一人ずつ自分の力にあった段数を飛ぶテストとそれ以上に飛べるようになる 時間に分けて使う。今日でクラス全員のテストが終わる筈だったが、当然今日もトラファルガーはサボっている。いつもなら授業には出るくせに嫌だと言って逃げ回るが今日は授業にすら出ていない。生徒に聞けば腹痛で保健室に行ったらしい。何が嫌なのかが分からない以上、仕方なく溜息を発散する意味も込めて思い切りホイッスルを吹けば煩いと生徒達にキレられた。




帰りの会になっても戻って来なかったトラファルガーを迎えに保健室に向かえばシャチと喋ってやがった。丸い椅子に座って俺には絶対見せない類の顔で何かを必死に説明している。それも俺が来たのを知ると直ぐにまた仏頂面になるから、妙な嫉妬を感じた。たか が保健医のシャチには話せても担任の俺には話せないらしい。

「腹痛治ったんなら自分で帰れるな」


こいつの両親は面談や授業参観にも一度も来れない程に忙しい。家庭訪問すらまともに出来ない。電話して迎えに来れるかなんて聞くだけ無駄で最悪の場合、俺が家まで送っていくしかない。だが、持って来たランドセルを渡せばまた首を振るトラファルガーに米 神がひく付いた。

ランドセルを放り投げてさっさと出ようとすれば、急にジャージの裾を引かれる。振り向いて視線を合わせる様にしゃがんだがトラファルガーは何も言わない。それでも何か言葉を出そうと ぱくぱく動く唇に我慢してるとやっと搾り出された声は大分掠れていた。

「と、跳び箱…教えろ…」

どう考えても命令口調だったが、何となく断れない。誰も使わない筈の体育館を思い出して一時間だけ付き合ってやると言えば既に体育着に着替えられていたせいで丸見えだった膝をもじりと擦り合わせながら小さく頷いたトラファルガーが初めて可愛いと思えた。 ニヤニヤ笑っているシャチを睨み飛ばしながら心の何処かで安堵した。嫌われてないと言う確証は無いが、後ろを付いて歩く歩幅の狭い足音に顔は勝手に緩んでいた。

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