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(学パロ)

「発想が中学生以下だな、お前は」

キラーの冷めた瞳ときつい一言に、キッドは眉間に皺を寄せて低く唸った。自覚があるだけに、一番言 われたくない台詞だった。

「だって……つい」
「つい、なんて言葉で済ませると思ってるのか。割と誰とでも気さくに話すお前が、自分にだけ意地悪 してきたら、嫌われていると思うのが普通だ」
「……それは……何つーか特別扱いみてえなもんで、」
「そんなゴミのような特別扱いなんて誰が要るんだ」

俺の言うことが理解出来るならさっさとトラファルガーを探して謝ってこい。
有無を言わせない威圧感で、キラーはキッドににこりと微笑んでやった。キッドは引き攣れた笑みを浮 かべながら、ただ返事だけをしてキラーに背中を向ける。キラーの一喝が大分効いたらしかった。

「……いい加減俺を解放してくれ」

キラーの溜息と共に吐き出された台詞は、放課後の教室に響いて消えた。次いで、ポケットから携帯電 話を取り出し、耳にあてる。

「ああ、そっちに行った。宜しく頼む」



「了解でーす。ん、分かった」

携帯電話を耳から離して、ペンギンはローに視線を戻した。ローは鼻をぐずぐず言わせながら椅子にちょこんと座ってペンギンを待っている。ペンギンは携帯電話を仕舞って、苦笑した。普段はかなり 図々しくてふてぶてしいのに、特定個人のことになるとこれだ、という思いからだった。

「電話……誰?」
「ん?ああ、同じクラスのやつ。気にするなよ。でさ、話戻すけどユースタスは別にローのこと嫌いな 訳じゃないと思うけど」
「……だって、俺にだけ、冷たい、し、意地悪、するっ、う、し」

ローはまたぼろぼろと泣き出して、長めのカッターシャツの袖でぐしぐしと乱暴に拭っている。涙で袖 の色が変わっていた。ペンギンは頬杖をついて深く溜息を吐いた。全く、キッドもローも思考が中学生 以下だといった顔だ。実際、いまどき中学生でももっと上手く意中の相手を落としにかかる。お互い、 今までそれなりに女と遊んできた癖に、女相手に結構非道いことをしてきた癖に、初めての本命が現れ た途端これである。片や好きな子ほど苛めたい餓鬼みたいな男と、片や好きな人のこととなると途端に ネガティブな乙女になる男。最初は面白がって見ていたキラーとペンギンであったが、いつまで経って も進展のない二人に、毎回うじうじと負のオーラを背負って相談に来る二人に、とうとう焦れてあれこ れ口を出すようになっった。キラーはキッドの、ペンギンはローの幼なじみと言うこともあり、二人であ れこれと相談して作戦を立て、キッドとローそれぞれに助言してやったのに、未だに一ミリも進んでい ない。いい加減、キラーもペンギンも万策尽き掛けていた。

「……っと、そろそろ来ちゃうかな。ローごめん、俺腹痛いからちょっとトイレ」
「ん、ん……悪いな、お前が帰ってくるまでに涙止めとくから」

ペンギンはがたりと立ち上がって、そのまま教室から出ていく。廊下に出れば見慣れた赤い頭がこちら へ歩いてくるのが見えて、ペンギンは小さな声であぶね、と呟いた。普段ローに意地悪ばかりする癖 に、ローとペンギンが一緒にいるとキッドはペンギンを睨むので余り同じ空間にいたくないのだ。

「今度こそはなんか進展しないかなー」

ペンギンは呟きながら、腹痛も尿意もないけれど取り敢えずトイレへと足を向けた。ポケットをごそご そやって、携帯電話を取り出す。

「あ、キラー?うん、来た。うん、次駄目だったらどうしようなー」

ペンギンが、さっきまで携帯電話が入っていたポケットに手を突っ込んだところで、彼はばたばたと足 音が後ろから聞こえることに気が付く。振り向いた途端、胸倉を掴まれて、ペンギンは手から携帯電話 を取り落とした。かん、と携帯電話が床に落ちて乾いた音を立てる。

「手前っ、トラファルガーに何しやがった!」
「はあ?!……ってユースタスじゃん!え、ローは?」
「お前がトラファルガーを泣かせやがったんだろうが!」

キッドと全く話が噛み合わなくて、ペンギンの頭上にハテナが踊る。しかし、大体の状況は掴めてい た。彼は大概頭がいいのだ。これは中々に進展のチャンスなんじゃないかと、ペンギンは思った。本当 は、面倒臭そうなので介入するのは口だけにしたかったけれど、こうなってしまった以上仕方がないと 諦めた。丁度よく、ローが焦った顔をしてこちらへと走り寄って来るのが見える。ペンギンは直ぐ様口 を開いた。

「俺は、泣かせてねえよ」
「じゃあ、何でトラファルガーは泣いてんだよ!」
「自分の胸に手をあてて考えてみろよ、ユースタス。ローがいつも、どんな気持ちでいるのか考えたこ とあるのかよ」

え、とキッドが怯むのと、ローが二人のもとに辿り着くのは同時だった。

「ちょ、お前ら何してんだよ……!ユースタス屋、突然どうした?」
「……トラファルガー、お前……」
「ロー、言ってやれよ。ユースタスの所為でお前は泣いてた、って」
「……ペンギン!」

ガン、と大きな音がして、ローの肩が揺れた。ペンギンは涼しい顔をして、自分の胸倉を掴んでいる男 が殴った壁を見ていた。無論、演技である。内心、ペンギンは自分が殴られやしないかと肝を冷やしていた。

「…………俺の、所為なのか」

キッドは絞り出すように声を出して言った。ローは目をうろうろと泳がせて、俯いてしまう。キッドは そのローの反応を見て、まるで泣いてしまうんじゃないかと思う表情を浮かべた。そのままペンギンを 突き飛ばすことで乱暴に解放して、ふらふらとした足取りでローとペンギンから離れていく。ローは何か言いたげに何度も口を開いたが、結局キッドに声をかけることは出来ずに泣きそうな顔をして口を噤んだ。ペンギンはそれを尻餅をついた状態のままで見て、ああもう、と叫んでしまいたかった。相手が 泣いているだけでその原因に激怒出来るのに、相手の悲しい顔を見ただけで泣きそうな顔をする癖に、 どうして好意を口に出来ないのか、相手の好意に気付かないのかと。

「……ロー、追い掛けて」

ペンギンは静かに言った。尻を叩きながら立ち上がるペンギンを、ローはぼんやりとした瞳で見ている。今にも涙が零れ落ちそうなのが容易に見て取れた。

「……ペン、ギ」
「追い掛けろよ!今ここで追い掛けられない程度の思いなら、とっとと捨てちまえ!」

静かな廊下に、ペンギンの声が響く。ペンギンが、ここまで大きな声をローに出したのは初めてのこと だった。いつも静かに、基本的にローに甘く甘く接していた。キッド絡みの話の時は、特に。
ローは、一喝したペンギンを見て目を見開いて、その拍子に涙がぽろりと零れ落ちた。そのまま、はら はらとローの頬を次から次へと涙が伝って、ローは顔をくしゃくしゃにしながらしゃくり上げた。

「……っう、ひ、っく」
「…………」

ペンギンは何も言わない。ここでローが何かアクションを起こさなければ、ローの恋もキッドの恋も終わってしまうのだ。だから、静かに待っていた。ローの決意が整うのを。

「ひっ、うぇえ……ペ、ン」
「ん?」
「い、く……おれ、ユ、スタ、の」
「うん、行ってこいよ。俺はここで待ってるから」ローはごしごしと目を擦って、兎みたいな、でも決意に満ちた目でペンギンに頷いて、キッドが消えてしまった方へ向かって駆け出した。
ペンギンは深い深い溜息を吐いて、落とした携帯電話を拾って壁に凭れる。そのまま、ずるずると滑り 落ちて、携帯電話を耳にあてた。

「……聞いてた?」
『ああ。キッドに何かされなかったか?』
「平気ー。これで俺たちも御役御免かな」
『長かったな』
「本当になー」

ペンギンは、ローが走っていった方を眺めながら優しく微笑んだ。きっと、次にローに会う時は幸せそうに、照れ臭そうに笑っているのだろう。そう思うと、嬉しくて堪らなかった。



「聞いてくれよペンギン!」

昼休みもあと十分ほどで終わろうかという時に、ローは馬鹿みたいに真剣な顔をしてペンギンのもとへやってきた。ペンギンは、ローが教室に入ってきた瞬間に、またか、と思いながら、携帯電話を切って 耳から離してローの方を向いた。

「なに、今度はなに。……言っとくけど、まともなこと話せよ」
「俺が話すことはいつもまともだろ!ユースタス屋が、」
「俺の方がお前のこと好きだ、とか言ってきた?」
「そう!何で分かんの?」
「んー、とあるツテからちょっと」

ペンギンは頬杖をついて、金髪の友人を頭に思い浮かべる。はは、と渇いた笑いが自然に漏れた。

「なあ、俺の方がユースタス屋のこと好きだよな?!お前一緒に来て、ユースタス屋に証明してくれよ!」
「だが断る」

今日も世界は平和だな、次にキラーに電話する時にそう言ってやろうと心に決めて、ペンギンはげんな りと、それでも嬉しそうにローの話を聞いていた。





それでもやっぱり
(君が幸せなら僕も幸せ!)







な、なんと!「xxxNo.9」のカラ様より誕生日プレゼントを頂いてしまいました!(´▽`)
リクしてもいいよ!という有難いお言葉を頂き、へこへこしながらリクさせていただいた結果この素敵小説ですよ…!
不器用なキドロを応援しつつ、何やかんや振り回されているキラペンを応援しつつ(笑)、泣き虫ローたんに悶えながら読んでました^///^
最後には無事カップルになれて私も一安心ですww
カラ様、素敵小説有難うございました!これからもよろしくお願いします(*^^*)




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