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学パロ。


「……こんな感じ?」

鏡の前でくるくると回るけれど、俺は生憎デートと言うものをしたことがないので今着ている服で大丈夫なのか分からない。悪戯に目が回るばかりだ。取り敢えず、数少ない友人の中の一番ファッションに詳しい一人に見立ててもらった服だから間違いはないだろうと思って深呼吸をする。
今日はユースタス屋との初デートの日である。ユースタス屋はバイトやら家のことやらが忙しいので、休みの日にユースタス屋に会えることがまず珍しい。俺はかなり浮かれていた。今日は一日一緒にいられるし、ずっと二人きりでいられる。普段からユースタス屋は俺と一緒にいる時間を作ってくれていたけれど、それだけじゃ足りないと思うくらいには俺は我儘になっていた。そんな自分が嫌で必死に淋しいのを感じさせないように振る舞っていたけれどユースタス屋にはばれてしまっていたようで、この度わざわざ土曜日にバイトの休みを取ってくれたらしかった。ユースタス屋はそんなこと一言も言わなかったけど、俺だってユースタス屋のことくらいお見通しだから分かる。
未だに鏡の前で全身をチェックしていたが、ふと時計を見ればもう出なければいけない時間になっていて、慌てて財布と携帯を掴んで家を飛び出した。



はふはふと息を切らして待ち合わせ場所に辿り着けば、ユースタス屋はまだ来ていないようだった。ほっと息を吐いて、携帯を開いた。九時五十五分。あと五分で待ち合わせの時間だ。たったの五分を待てばユースタス屋に会えると思うと嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまう。

「なんかいいことあった?」
「……!」

緩む頬を抑えられずにそわそわと携帯を開けたり閉じたりしていたら、突然声を掛けられて肩が揺れた。声の方を見ればユースタス屋がいて、俺は吃りながらも「何にもない」と伝えた。ユースタス屋は眉尻を下げて、悪いな、待たせたって言うから、俺は慌てて首を振った。携帯の時計はぴったり十時を示しているんだから、ユースタス屋はきっちり待ち合わせ時間に来てくれたと言うことだ。

「……っ!」

そこで改めてユースタス屋の全身を見て、俺は固まってしまった。顔に熱が集まるのが嫌でも分かって、俺は拳を作って少しでもと顔を隠す。誰よりも格好良いと思った。ユースタス屋はいつも格好良いけれど、俺は彼の制服姿とスウェット姿しか見たことがなくて、私服を見るのは初めてだった。自分の格好をどうするかに必死で、ユースタス屋の私服にまでは意識が行っていなかったために不意を突かれた気分だ。ファッションに余り関心も知識もない俺でさえセンスがいいと思える服装でユースタス屋は俺の目の前に立っていて、今日は髪の毛を下ろしてワックスで緩く纏めていた。何だか知らない人を目の前にしているみたいで途端に緊張した俺を見て、ユースタス屋はふわりと微笑んだ。あ、やっぱりユースタス屋だ。

「やっぱ気合い入れ過ぎてて引いた?」
「……へ」
「すぐ下の妹がさ、気合い入れ過ぎてて引くとか言うからさ、俺不安で」

お陰でここに来るまでに何回自分の姿を確認したか、と苦笑するユースタス屋を見て、俺はふるふると首を振った。

「かっ、こいい、よ……すごく」

俯きながら、ズボンをぎゅうと握り締めながら、呟くように思ったままを言ったけれど、最後の方は本当に蚊の鳴くような声になってしまったのでちゃんとユースタス屋に伝わったかどうかは分からない。でもユースタス屋はそっか、と嬉しそうに言って俺の頭を撫でてくれたから、伝わったみたいだった。

「じゃあ行くか」
「……うん!」

見た目はどこかのモデルみたいで見慣れないけど中身はやっぱりいつもの優しいユースタス屋で、半歩前を歩く彼に続いて俺も歩いた。



「結構人多いのな」
「ベポの映画なんだから当り前だ!」
「だな」

今は丁度俺の好きな白熊のキャラクターの映画を上映している。見たいと言った覚えはなかったけれど、この間CMを見ることが出来て嬉しかったと学校でユースタス屋に話した時のことを覚えていてくれたらしい。土曜日と言うことと子どもに大人気なことが重なって、俺とユースタス屋は親子連れに混ざって列の中にいた。あと数分で館内に招き入れられることだろう。
でも見たくもない映画なんか見て退屈なんじゃないだろうかとユースタス屋の方をちらりと盗み見れば、ユースタス屋はそんな俺の視線に気付いたようで、ん?と微笑んだ。俺はばっと顔を逸らして、床を見る。ユースタス屋の視線が俺の頭に刺さるのがありありと分かったけれど知らない振りをしてそのまま床を見続けていれば、突然右手を掴まれた。

「手とか繋ぎたかった?」

次の瞬間には耳元で悪戯っぽく囁かれて、俺は顔がかっと熱くなるのが分かった。唇を噛み締めて手を引っ込めようとしたけれど、ユースタス屋は俺の手を解放してはくれなくて、更に強く握られる。文句を言おうとユースタス屋を見上げれば、ユースタス屋は俺の予想に反して優しく微笑んでいて面食らった。絶対意地悪な顔をしてると思ったのに。

「人が一杯だからいいだろ?」

今だけだから、と囁かれて、俺はこくりと頷いてしまった。絡む指が熱く感じて堪らなくて、それでもずっと手を繋いでいたいと思いながら赤い頬を隠すように下を向いていた。



「腹減ったな」
「なんか食べる?」

映画はとてもいいものだった。白熊が可愛くて堪らなくて、俺は終始にこにこしていた気がする。時計を見れば一時過ぎで、ユースタス屋は座りっぱなしで凝り固まった体を解すように伸びをしながら、んー、と少し考える素振りを見せた。

「トラファルガーなに食べたい?」
「…………」

少しだけ考えてみるけれど、すぐには食べたいものが出てこなくて黙ってしまう。ユースタス屋はそんな俺を見てくすりと笑った。

「じゃあ俺が決めていい?」

ユースタス屋は少し屈んで俺に目線を合わせながら言った。未だにいつもと違う髪型に慣れなくてどきりとしてしまう。頬が赤くなっていないかと心配しながらも、出来るだけ平静を装ってこくりと頷いた。

「すぐそこだからさ」

言われて手を掴まれた。こっち、と引っ張られて、俺は視線をうろうろさせながら俯いた。口元が綻ぶのを止められなかった。

「……鉄板焼?」
「そう。俺が前バイトしてたとこ」

本当にすぐ近くで、歩いて五分と掛からないところに店はあった。看板をそのまま読み上げれば、ユースタス屋はそう言いながら扉を開いた。香ばしい匂いと小気味のいい音がした。

「ユースタスじゃねえか」

珍しいな、と声を掛けられていて、ユースタス屋は俺を席へ案内しながら嬉しそうに返事をしていた。メニューを開きながら、何でもない風を装って店の人と話をするユースタス屋を眺めていたけれど、何だか本当に知らない人になったみたいで嫌だった。



昼食を済ましてから後は、俺はどうにももやもやしてしまって駄目だった。ユースタス屋を遠くに感じてしまってしょうがなくて、何か分からないけれど不安感に襲われていた。そんなことばかり考えていたからなのか、気付けば夕方になっていて俺は軽い絶望感を覚える。ユースタス屋がよく行くという服屋とか雑貨屋に行ったけれど、何を見て何を話したか余り記憶がなかった。
俺は家に帰ってもひとりぼっちだから帰るのは何時でも構わないけれど、ユースタス屋はそうは行かない。だけど俺は今日一日ユースタス屋と一緒にいた分、普段より帰りたくないという思いが強くなっていた。だからユースタス屋が、もう六時だな、って言った時に無意識に肩が揺れてしまった。その次にくる「そろそろ帰るか」が聞きたくなくて俯く。

「……ん、どした?」

気付いたら俺は、ユースタス屋の服の裾を掴んでいた。ユースタス屋はそれに気付いたようで、俺を振り返って立ち止まる。俺は途端に申し訳なくなって、握っていた服の裾をぱっと離した。

「な、んでもない……!」

俺は俯いて、なんとかそう伝えたけれど、絶対に不自然だった筈だ。ユースタス屋は完全に体をこちらへ向けて、俺を見ているみたいだけど俺は顔を上げることが出来なかった。

「な、今日うちに泊まんねえ?」
「……え」

ユースタス屋は屈んで、俯く俺の目線に無理矢理入り込んできた。いつも俺を安心させる時に見せる俺の好きな笑みを浮かべて、少し目を細めている。

「……だって」
「寂しいからさ、俺と一緒に寝てよ」

お願い、って言われて、俺は馬鹿じゃねえのって言いながらもこくりと頷いた。ユースタス屋はやった、と嬉しそうに笑った。そのまま指を絡められて、また歩きだす。

「今日、夜何食べたい?」
「…………」
「よし、じゃあスーパー着くまでに決めといて」
「……うん…………ユースタス屋」
「うん?」
「……その……ありがと」
「何が?」
「……色々」
「なんだそれ」

からからと笑いながら、ユースタス屋は繋いだ手を一際強く握ってきて、まるでどう致しまして、って言われたみたいだった。俺も負けじと手に力を込めながら、さり気なく俺の欲しい言葉をくれるユースタス屋がとても好きだと思った。

「……ユースタス屋」
「うん?」
「……だいすき」

夕日のお陰で俺の赤面は隠せたけど、そのせいでユースタス屋が赤面したかどうかも分からなくて何だか複雑な気分だった。でもその代わりユースタス屋は結構間抜けな顔をしていて、俺は込み上げる笑いを堪えることを早々に止めてしまった。ユースタス屋は笑う俺の頭を罰が悪そうにぐしゃぐしゃと掻き混ぜながら、やっぱり笑っていて、俺の中のどこから来たのか分からない寂しさはどこかに消えてしまっていた。ただただ絡む指先の感触が幸せだと思って、ユースタス屋と二人でスーパーまでの道程を夕日に向かって歩いた。



絡む指先まで大好きです






xxxNo.9のカラ様よりいただきました!フリリク企画をなさっていたので図々しくも顔出しました^///^
カラ様の高三×高一学パロキドロの虜なのでその二人でリクさせていただきました!そしたらなんとまあ…こんな素敵な小説が…!ワナワナ
相変わらず高三キッドは格好いいです!そしてローたんは可愛いという最強カップル///
カラ様、素敵な小説有難うございました!><




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