Gift | ナノ

(学パロでペンキャス+キドロ)

「…っ、俺の気持ちも、知らないくせに…」
「は?」
「も、いいよ!ペンギンのばかっ!」
「おい、ちょ…キャスケット!」

俺は熱くなった目頭をぐいっと拭うとペンギンの静止も聞かずに走り出した。馬鹿馬鹿馬鹿。ペンギンの馬鹿。俺の気持ちも知らないであんなこと言うな。違うのなんて分かってるのに。こんな気持ち、俺だけだって分かってるのに。(だって俺の好きとペンギンのすきは、きっとちがう。)
それでも単純な俺はすぐに期待してしまって。…そんな自分がいやになる。

家に着いてベッドの上でぼんやりしてたら、放り投げた携帯が震えてるのに気がついて慌てて電源を切った。メールも電話もとてもじゃないが出る気になれない。明日学校でペンギンに会うのかと思うと嫌で嫌でたまらなかったが、そうは思っていても夜は明けるもので。朝起きれば当然のごとく赤い目。時間ギリギリまで冷やして、鏡の前で少しまともになった顔を確認する。どうにも我慢できなくてペンギンが迎えに来ないうちにさっさと学校に行ってしまうことにした。学校でもあまり会わないようにしよう。たとえ会ったとして、普通に接すれば大丈夫…うん、大丈夫。
半ば自分に言い聞かせるようにして家を出る。久しぶりの一人だった。



俺の好きな人は、きっと俺じゃない人が好き。



「キャス、早くしないと置いてくぞ」
「あ、待ってくださいよ先輩!」

さっさと先に歩いて行こうとする先輩の後を急いで追うと隣に並んだ。今日はひどく寒い気がする。はぁ、と隣でも寒そうに息を吐く音がした。思わず自分も息を吐く。吐き出された息の白さが冬の寒さを物語っているようで。
ちらり、と隣にいる先輩の横顔を盗み見る。寒そうにマフラーに顔を埋めていた。寒いならコートでもなんでも着てくればいいのに。いつだったか前にそう言って「面倒くさい。」と言われたことを思い出した。だから風邪なんか引くんだよとユースタス先輩に言われて馬鹿は風邪引かないからいいよなと言い合いしてた二人もついでに思い出す。

「…なんだよさっきから」
「え?どうかしました?」
「どうかしました?じゃねぇよ。人の顔ばっかジロジロ見て」
「うぇえ?!俺見てましたか?」

どうやら気づかないうちに先輩のことをじっと見つめてたらしい。間抜けな声をあげてしまい、突き刺さるように呆れた視線が痛かった。すいません、と謝ると別に謝ることじゃないと頭をぐしゃぐしゃにされる。これは先輩の俺に対する癖みたいなもんで、何かにつけて俺の髪型を崩そうとしてくるんだから困ったものだ。先輩曰く頭を撫でてるつもりらしい。ならもっと普通に撫でてほしいんだけどと素直に言ったらなんか大変なことになりそうなのでやめておく。

「なあ、なんで俺なんだ?」
「?…なにがですか?」
「勉強。ペンギンに見てもらえばいいだろ」
「嫌なら断ってくれても良かったんですよ」
「あー、違くて…だってお前いつもペンギンに教えてもらってるだろ?だから」

ペンギン、と言う言葉に体がビクリと反応する。そんな自分に苦笑した。こっちを見て尋ねてくる先輩に今の不自然な動揺がバレてなきゃいいけどと思った。
まさか先輩にそう聞かれるとは思ってもみなくて。あー、とか、うー、とか返事に困って思わず唸った。喧嘩でもしたのか?と言われて思い出したくもない昨日の記憶が蘇る。…まあそんなところです、と答えて軽く俯いた。そ、と呆気ない返事をしたきり、先輩はそれ以上なにも聞いてこなかったので俺もなにも言わなかった。





「おー!俺ってすげぇ!やっぱやればできんじゃんっ!」
「俺が教えてやってるから出来んだろーが」

教科書やらノートやらワークやら、机の上に広げられるだけ広げられたそれはぐちゃぐちゃに散らかっている。先輩に教えてもらったところをひたすら解きながら自分に感動。そしたら先輩にツッこまれた。
やばい出来る、だの、出来て当たり前だろ、だのギャーギャーいいながらも問題を解いていく。次で最後だ。最後のページまでこれた自分を存分に褒めてやりたい。そんなことを思いながら数式を解く。これが終われば晴れて終了となるわけだ。

「ん?んー…これはこーなるから…お!解けた!全部終わりっ!」
「…よく出来たってーか、よくここまでもったな」
「俺だってこのくらい集中すればできますって!」

パタン、と教科書を閉じると片付ける。先輩の教え方は分かりやすいしいいんだけどその代わり見返りが…。前に教えてもらったときはテスト70点以上(普段の俺の点数が赤点ギリギリと知って)と一日限定30個のシュークリームだった。今日は一体なにをせびられるんだか、と身構えていたが予想に反して先輩はなにも言ってこなかった。あれ、おかしいな?と少し首を傾げる。俺が片付け損ねた数学の分厚い参考書(ロクに使ってないから綺麗だ)を暇そうに眺めているだけだった。

…ふいに、先輩の横顔に、ズキリと胸が痛む。ペンギンはこの横顔をいつも、どんな気持ちで眺めているのだろうか。知りたいけど知りたくない。思わずぎゅっと両手で胸元を握り締めた。

「…お前さぁ…」
「?…はい、」
「ペンギンとなんかあったのか?」
「え…だ、だから言ったじゃないっすか!ちょっとした喧嘩を、」
「そうじゃなくて」

そうじゃなくて、とこちらを向いた先輩の目はいつになく真剣だった。ドクン、と思わず心臓が跳ねる。すべて見透かされているような気がして。視線に耐えきれずに目を反らした。

「お前今日もずっと避けてただろ。心配してたぜ?あいつ。…何かされたのか?」
「ぁ、違くて……昨日、ペンギンに…すき、だ…って、言われたんです…」
「……嫌だったのか?」
「そんな…っ!…嬉しかった、けど…きっと、俺の思う…好き、とは違う、だろうから…」
「それはちゃんとペンギンに聞いてみたのか」
「聞いてない、ですけど…でも、」
「なら聞いてみないとわかんねーだろそんなの。行ってこい」
「ぇえ?!ちょ、先輩俺の今の態度見なかったんすか?!」
「見てた見てた。お前ちょっとウジウジしすぎだろ。
……あー、もしもしペンギン?今からお前んちにキャスが行くらしいから。よろしく」
「ならもうちょっと…って!あんたなに勝手に決めつけてくれてるんですか!?」

先程までの重苦しい雰囲気なんて先輩の一言で一瞬にしてなくなってしまった。しかも勝手に電話するとか。俺は絶対いきませんからね!に対してよしじゃあ頑張ってこいという会話の噛み合わなさ。そうこうしてるうちに家から追い出されてしまった。相談する相手を間違えたとかそんな域じゃない。(だってむこうが聞いてきたわけだし。)
言わなきゃよかったかな…と後悔しつつ向かう先は自分の家。だってどうしたって行けるわけないじゃないか。それがたとえ先輩の命令(?)だとしても。

はぁ、とため息を吐く。携帯が震えているのに気づいて見てみれば先輩からのメールだった。内容はいたって簡潔で、「もし行かなかったら明日の部活で俺が稽古をつけてやる。」とのこと。…いや、てかそれって世間一般でいう脅迫ですよね。そう思いながらも思わず回れ右をしてしまう俺は相当先輩に恐怖心を埋め込められてる気がする。適当に返信をして重たい足を持ち上げた。これは先輩があんなこと言うから仕方なく、なんだ。しょうがないこと、しょうがないことと自分に無理矢理言い聞かせながら今一番会いたくない人に会いに行くため歩を進めた。

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