Gift | ナノ

(双子キッド×ロー)

バイトに行く途中、花屋に寄った。華美な装飾は施されていないそこはシンプルで、色とりどりの花を店全体で引き立てているようだった。
カラン、と音がして店に入ると様々な花が俺を出迎えてくれる。それを一本ずつじっと眺めては値踏みするように思案した。

「お客様、何かお探しでしょうか?」
「…あ、いえ、特には…」

そんな俺をきっと見かねたのだろう、店員が声を掛けてきた。ふわりとした笑顔で、プレゼントですか?と聞かれたのでつい頷いてしまう。
どんな花にしようか迷っているのだという俺の心境を見透かすように、一生懸命選んでくれたものなら何でも、きっと喜んでくれますよ、なんてありきたりだけれども今の俺には幾分心強い言葉を掛けられて恥ずかしさに苦笑する。ちょっとよく考えてみますと笑った俺に、また何かあったらお気軽にお声掛けてくださいと歌うように言うと笑いながらその人は店の奥に引っ込んだ。

あまり大きくない、小さな店だ。俺以外に客のいないそこは店員がいなくなってしまえば途端に静かになる。
さて、どうしようか。大体にして俺はこういう類のことがめっきり苦手だ。どんな花をやれば喜ぶだとかが全く分からない。そういうのはどちらかと言えば兄貴の専門のような気がして、ふっと思い出されたあの憎たらしい顔に軽く首を振った。やめよう。今はトラファルガーのことだけ考えて然るべきだ。

何かいい花はないかと、もちろんそう考えても何がいいのかなんて全く分からないが、とにかくあいつに似合いそうな花を探した。定番と言えばやはり薔薇の花束なんだろうがそれこそ兄貴を思い出してしまうので絶対に買いたくない。どうしたもんかなと思いながら、そこでふと、目に留まったのが赤やオレンジの濃い色に囲まれた中でその存在を主張する薄ピンク色の花だった。

「アネモネ…」

名札をなぞる。トラファルガーにこの花は似合いそうだと、何だかしっくりきた。直感で、特に意味がないと言ったら嘘になる。あいつの花が綻びる様な笑顔にこの花は似合いそうだと…っていつの間に脳内詩人に転向したんだ俺。これじゃあいつと然程変わりねェじゃねェか。

「すみません、これで花束作って貰えますか?」
「はい、こちらのアネモネで宜しいでしょうか?」

いつの間にか店の奥から戻ってきた店員に気を取り直すように声を掛けると目の前の花を指差す。軽く頷いて、十八時頃に取りに来ますと言えば笑顔でかしこまりましたと返された。
先に金を払っておいて店から出ると入ってきたときと同じように、カランと涼しげな音がなる。有難うございましたーという声を尻目に店を出て、何だか急に恥ずかしくなった。やはり慣れないことはするもんじゃない。




バイトから帰る途中、花屋に寄った。何てことはない、ローの誕生日プレゼントを買うためだ。何故だか知らないが俺がやるもんと愚弟がやるもんは大概被る。全くもって不本意で、いつもそれについて揉め事になってはローに怒られるので余計不本意だ。だが今回ばかりはそうもいかないだろう。あいつ絶対花とか買わねぇだろうし、先を見越した行動だ。

カラン、という音はあまり広くないこの店によく響いた。中に入れば誰もいない、店員さえもいないようだ。だがその奥で物音が聞こえたので、どうやら店の中にはいるらしい。買う時呼ぶか、と思いながら真っ先に足を向けたのが赤、オレンジ、ピンクの花々に囲まれた暖色系のコーナー。ローをイメージして寒色系も悪くないかと思ったが、やはりここは譲れない。
俺が選んだのは薔薇だった。愛の告白。分かりやすくていいだろ?それにローを俺の色で染めるのも悪くない。大概愚弟も同じ色だがそこは目を瞑るに限る。

「すみません、」
「はい、何でしょうか?」
「この薔薇で花束作って貰いたいんですけど」
「かしこまりました…あら、お客様…」

呼び掛ければ慌てたように店の奥から出てきた女が俺に下げていた頭を上げると、俺を見て不思議そうに首を傾げた。

「ええ、と、あの…申し訳ありませんがお客様、先程の花束がまだ完成していなくて…」
「…は?」
「あの、アネモネの花束です…ご注文頂きました」
「…?そんなの注文した覚えはないんですが…」
「えっ?…あ、大変失礼しました!」

みるみるうちに赤くなっていく顔を見つめながら何だか騒がしい店員だなと思った。ぺこりと謝罪するように一礼すると、大きさはどのように致しましょうか、と間違えた恥ずかしさからギクシャクと尋ねてくる。それに適当に答えながら、内心で俺は先程の言葉がかなり気になっていた。まさかな、人違いだよな。…まさかな。

「どのぐらいかかりますか?」
「えっと…十五分もあれば完成するかと…」
「じゃあ十八時に取り来ます」
「かしこまりました」

ぺこりともう一度頭を下げた女に先に金を払うと店を出た。カラン、と入ってきたときと同じ音がして、有難うございましたーという言葉を尻目に時刻を確認すれば三十分を少し過ぎたところ。ちょうど買いたい雑誌があったので向かいの本屋に入るとそこで暫く時間を潰すことにした。







バイトが終わったのであの店に向かうと、昼間と変わりない同じ店員がいた。カラン、と鳴る音に気がついたのか、ふと顔を上げた店員が何故だか俺の顔を見て一人納得したような顔をした。それに少し首を傾げたが店員は特に何も言わず、ご注文の花束出来上がりました、少々お待ちください、とふんわり微笑むと店の奥に消えていった。
戻ってきた店員は何故か俺が頼んだ花束以外にも薔薇の花束を手にしていた。このあと俺の次にまた客が来るんだろうか、なんてぼんやりと思っていたら不意にカラン、と音がして扉が開いた。ちらりと音のする方を振り返れば、

「あ、」
「、げ」
「「何でここにいんだよ」」

綺麗に重なった声に後ろで店員がくすりと笑った。
おいおいマジかよ…ってことはあれか?この薔薇の花束っつうのは…。

「お客様、ご注文の花束出来上がりました」

笑顔で告げる店員に俺も兄貴も思わず渋い顔になる。マジ有り得ねぇとぼそりと呟いたその横顔に、そりゃこっちのセリフだと吐き捨てた。
渋々と受け取る為に隣に並んだ兄貴を軽く睨み付ける。もちろん当の兄貴も負けじと睨み返してきたが店員は特に気付いていないようだ。然程気にしていない様子で、メッセージカードは添えますか?と聞いてくる。それにやっぱり二人同時に頷いてしまってイライラした。

「お相手のお名前はどう致しましょうか?」
「「ローで」」
「…あ、かしこまりました。…では、メッセージはどのように…」
「『I love you.』で」
「ふざけんなクソ兄貴。何がアイラブユーだ」
「どうしようと俺の勝手。しかも事実」
「ああ、そ。じゃあ俺は『I want you.』で」
「てめっ、いつの間にんな柄に合わねぇことするようになったんだよ!」
「合わなくて悪かったな。つか同じ顔に言われる筋合いねェし!」
「性格的な意味でに決まってんだろうが!」
「あ、の…お客様…それでメッセージは…」
「『I love you.』で」
「『I want you.』で」
「……」
「……」
「…えっと、かしこまりました…」

自分の目前でギリギリと睨み合う俺らに店員は困ったような顔をした。それでも依然止めることは出来ないので、早々にメッセージカードを取り出すとさらさらと文字を連ねていく。『I love you.』と書かれたカードを薔薇の花束に、『I want you.』と書かれたカードをアネモネの花束にそれぞれ掲げると、まるで劇物にでも触れるかのようにそっと手渡してきた。それを受け取って、お互いやっぱり腑に落ちない顔をしながらカラン、と店を出ていった。

Next


[ novel top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -