Gift | ナノ

結局何にもいいアイディアは思い浮かばなかったな、とローは玄関のドアに手をかけた。鍵はかかっていない。ただいま、と声を出せば、おかえりなさいと返事が来た。キッドの声ではない柔らかなそれはリビングから響き、頭を悩ませた元凶は玄関マットに座って「ワフ、」と声を上げた。揺れる尻尾を一瞥すると、ぷいっとあからさまに視線をそらして靴を脱ぐ。前足を上げ腰の辺りでじゃれつくキッドを無視するとリビングへと入った。
この家で雇われている家政婦、お手伝いさんはローが帰ってくる少し前にこの家にやってきて、掃除をしたり夕飯の支度をしたりする。ローがまだ小学生だった頃は両親のいない時や帰宅の遅い時に限り、ローが眠るまでこの家で子守をしていた。しかし中学生になった今では両親がいようがいまいが夕飯を作ったあとは帰えるだけだ。もう眠る姿を見守ってもらわなければいけないほど子供ではない。

キッチンで夕飯の支度をする彼女を尻目に通学バッグの中から教科書とノートを取り出す。今日出た宿題は数学だけだ。両親がいると自分の部屋でやりなさいと怒られるから普段はリビングではしないのだが、今はそう怒る人はここにはいない。指定のページを開くと練習問題と銘打たれたそれを手早く解いていく。キッドは後ろ足で立ち上がると椅子に座ったローの太腿を軽く引っ掻いたが、鬱陶しそうに脚を揺らされると諦めたようにその足元で丸くなった。
簡単に問題を解き終わり、テーブルの上に散らばった教科書たちをしまうとお玉をもった彼女がローの背中に声を掛ける。「お風呂が沸いてますよ」、それに返事をするとローは二階に上がった。自室のベッドにバッグを放り投げ、代わりにパジャマと下着を小脇に挟む。キッドはうろうろとローの足元にくっついていたがローはただ一言「ジャマ」と声を掛けただけだった。

脱衣所で服を脱ぐその足元にもキッドはいた。ローはそれも無視して脱いだ服を洗濯機の中に放り込むと風呂場のドアを開ける。閉めるよりも先にするりと中に入り込んできたキッドにはさすがに無視できなかったらしい。

「今日は一緒に入らない」

眉を吊り上げたローが半開きのドアを指し示す。暗に出て行けと言われてもキッドはそこを動かなかった。尻尾を下げてこちらを見つめるキッドに溜息を吐くと風呂場のドアを閉める。もう出て行けとは言わないが、その代わりそれ以上のことも言わないことにした。
普段なら楽しい一時であるはずの入浴時も今日は全く楽しくない。うまいアイディアは思い浮かばなくとも簡単に許すからつけあがるんだという結果は導き出せたので、今日はキッドに冷たく当たることに決めていたのだ。スポンジにボディソープを垂らしながら、ローは向けられる視線に見向きもしない。これに懲りて少しは反省するんだな、と握り締め泡立てていたら不意に後ろから抱き締められた。腹に回る白い腕にひくりとこめかみが揺れる。名前を呼ぼうとして口を閉ざした。いちいち構うからつけあがるのだ、無視だムシ。そう決め込んで肌にスポンジを滑らせると回された腕に力が篭る。

「ロー…ごめんって。今朝のことまだ怒ってるのか?」

怒ってるからこの態度なんだろ、とローは胸の内で返す。返事もせずに体を順々に泡で塗れさせていけば、焦れたキッドがくるりとローの体を反転させた。大の男が幼気な少年の体を動かすことなど簡単だ。計らずともキッドと向かい合ってしまい、視線をそらすよりも先に頬を包まれる。

「俺のこと、嫌いになった…?」
「っ、!」

だからその顔やめろよ、ずるい。眉根を下げて不安げに顔を覗き込むキッドにきゅっと唇を結ぶ。ロー、と吐息交じりの声で名前を呼ばれて頬に触れる手を無理矢理振りほどいた。

「次おんなじようなことやったら…許さないからな!」

赤くなった顔が知られないよう斜め下を向いたが悪足掻きでしかないだろう。答えになっていない答えを受けても視界の隅でパタパタと揺れる尻尾が憎らしかった。結局無視しきることなどできず、またやってしまったと後悔したがやっぱりその顔が悪いのだと開き直る。キッドがその顔でいる以上もう勝てる気がしない。その顔で甘えたような声を出す以上、いつだって負けてしまう自信があった。
ローのそんな葛藤も露知らず、もう許されたとお気楽なキッドはその頬にキスを落とすと手に持ったスポンジを奪い取る。きょとんと漸くこちらを見たローに笑みを深くすると後ろ向きに自分の脚の上に座らせた。

「じゃあ仲直りの証に俺が体洗ってやるよ」
「よっ、余計なことしなくていい!返せ!」
「やだ」

何を言い出すかと思えば碌なことではない。奪い返そうとするもあっさりと拒否され、スポンジを握った手がローの肌を撫でる。ゆっくりと円を描くように胸を撫でられて思わずびくりと肩が揺れた。キッドはその反応を尻目にぴちゃりと耳に舌を這わす。

「キッド、やめっ…!」
「ただ洗ってるだけだろ?」

洗ってるだけ、その言葉を強調するとローの頬が赤く染まった。その言葉と裏腹に淫靡な手つきは性感を高める動きをしていることは誰の目から見ても明らかで。それでも文句を言えば倍になって返ってくる言葉に巧みに操られ、決して勝てないことを知っていた。きゅっと唇を噛み締め、ただひたすら早く終わることを願う。キッドはそんな姿がおもしろくないのかスポンジを横に置くと泡塗れの手でぬるりとローの胸を撫でた。

「なっ…ばか、ひっ、ぁ!」

予想もしなかった突然の動きに目を見開く。ぬるぬるとした手で乳首を捏ねられ引っ掻かれローは洩れそうになる甘ったるい声を押さえようと必死に唇を噛み締めた。こんなの体洗いでもなんでもないじゃないか、と言いたげに睨みつけるもキッドはにやりと笑うだけで何も言わない。さすがに堪えきれず文句を言おうと口を開けば、ギュッと乳首を抓られて思わず甘い声が洩れた。

「んっ、ん…ぬるぬる、やだ…!」
「だーから洗ってるだけだって」
「ふざけっ…あっ、ぁん!」

それでもまだ洗っているだけというスタンスを貫こうとするキッドは愉しそうな声色で呟く。くちゅくちゅと耳に舌を入れられ乳首を弄られてローは両手で口を押えるともじもじと脚をくねらせた。風呂場は声が響く。口を開けばすぐにでも甘い声が洩れてしまいそうでそれを抑えつけるのに必死だった。何せまだこの家には一人きりではない、彼女が、お手伝いさんがいるのだ。聞こえないとは思うが下手なことはしたくない。そんなローの考えていることが手に取るようにわかって、涙目で睨みあげる瞳にキッドはくつりと笑う。かわいいなァと囁いて、泡塗れの中赤く腫れたそこに爪を立てるとローの腰がびくんと震えた。

「ああ、そうだ…こっちも綺麗にしてやらなきゃな?」
「っ、や、そこ、いいから…!はなっ、ぁあ!」

ふと思い出したように、わざとらしく言葉を紡いだキッドがローの両膝を掴むと左右に思いきり割り開く。すでに頭を擡げている幼い性器に悪い笑みを浮かべるとその真上からぎゅっとスポンジを握り締めた。ぼたぼたとたくさんの泡がローの下腹部を汚す。泡だらけになった性器を扱いてやるとローは押さえた口の隙間から声を洩らした。

「あっあっ、きっど、やっ…ん、んんっ!」
「洗ってるだけなのにやらしいなァ、ローは…」

滑りの良い泡立ちとキッドの激しい動きにローは逃げるように腰を動かしたが回された腕が離さない。もう片方の手で乳首を弄り耳を舐め嬲るように囁いてやればローは背筋を反らしてとろとろと先走りを溢れさせる。それも泡にまみれてしまってよく分からないのだが。耳元で何か羞恥を煽るような言葉を囁きながら、乳首を弄っていた手を腰のラインに沿って下ろすと奥の窄まりへと触れる。びくりと大きく体が震え、これからも続くこの出来事にローは嫌がるように首を振ったが構わずくるくると周囲を撫でた。

「あっはぁ、きっど、まって…あっ、あと、で…ね?ふ、たりの、ときに…!」
「やだ、待てない」
「ひっ、このばかいっ、あぁぁ!」

懇願するように見つめられた瞳に伸ばされた腕がキッドの興奮を宥めさせるように髪を梳く。二人きりの時にと喘ぐ唇に嫌だとキスを落とすと、遠慮もなくずぶずぶと指を押し入れた。背を反らすローの首筋にもキスを落としながら性器と同じように指も動かす。慣れたそこはすんなりと指を咥えこみ、何度か前立腺を刺激してやればローは爪先を震わせながら手の中に射精した。

「ふっ、ぁ、あ…」
「あーあ、せっかくキレイに洗ってたのに汚しちゃったな…まあ流すから関係ないか」

中から指を引き抜くとくたりと背を預けるローの体をシャワーで流す。肩からゆっくりと当てていき泡を洗い流してゆく。きゅっとシャワーのコックを捻るとローを抱き上げて湯船に浸かった。

「このばかいぬっ…あがるまで待てないのか!」
「ん、ごめんな?ロー」

荒い息をようやく落ち着かせたローがばちゃばちゃとお湯を散らしながら詰る。素直に謝罪を紡ぐキッドは額にキスを落とすが言葉だけで反省の色は見られない。尻にぐりぐりと押し付けられる熱がいい証拠だ。気づいたのか、ローはびくりと肩を揺らし顔を赤く染めた。文句を言われるよりも先にぐいっと尻を掴み左右に割り開くと解した穴にその切っ先を押し当てる。

「やっぱり我慢できないから、もう挿れちゃうな」
「や、まっ、〜〜!!」

先程の謝罪は一体なんだったんだと言いたくなるくらい意味がない。目を見開いて抵抗するようにキッドの肩を叩いたが、熱の塊が中を押し広げ入ってくる、それと同時に熱いお湯が腹を満たしローは声にならない悲鳴を上げた。どうにもこの犬には我慢が足りない。叱ろうとするより先に、逃げようとするより先にローを快楽の淵へと引きずり込んで何も考えなくさせようとする。

「っ、あぁ、あ!ひぅ、あ、つぃ、い…!」

キッドの肩に顔を埋め、ばしゃばしゃと揺さぶられるローはとめどない熱を感じて首を振った。腹の中が熱くて熱くてしょうがない。キッドが動くたびに中に入ってくるお湯に苦しさすら感じる。しかしそのことを伝えようにも休むことない律動が言葉を紡ぐ邪魔をする。零れ落ちる意味のない喘ぎ声にローはただただぎゅっとキッドに強くしがみついた。

「ふっ、あぁ、きっどぉ…もっ、いくっ…!」
「っ、俺も…」

響く声も最早厭わず追いつめられるがままに昇り詰めていく。息をつめたローが身を強張らせ力を入れた、その時だった。



「ローくん、まだあがらないのですか?」

脱衣所のドアが開き、風呂場に向かってかけられた声に思わず動きが止まる。あまりに風呂に長く入っていたから逆上せたのではと心配になったのだろう。不安げに掛けられた声にローはぎゅっとキッドにしがみつく。驚きのあまり口から心臓が飛び出るかと思った。それでも黙っていればそれだけ不信に思われてしまう。何か、何か言わなければ。しかし唇は形作るだけで言葉はでない。何でもいいから早く言わなきゃ、そう思って口を開いた瞬間強く腰を引き寄せられて驚きに喉を反らした。

「ひっ、あ!」
「…ローくん?」
「っ、な、なんでも、ない…!」
「どうかしたんですか…?」
「だいじょ、ぶっ…も、あがる、から…っ!」

ローは慌ててキッドを睨みつけたがそれどころではない。にやりと笑ったキッドに律動を開始されて泣きそうになった。ドアのすぐ向こうには人がいるのに、もしこのドアが開けられてしまったら…ぎゅうっと強くなった締め付けにキッドが眉根を寄せて笑う。「えっちだな、ローは。見られるところ想像したのか?」と耳元で囁いてやるとローはぼろぼろと涙を零した。

「…ご飯はもう出来てますから、冷めないうちにあがってくださいね」

その言葉に答える気力はもうなかった。キッドの肩に噛みつき、必死になって声を押さえる。その度何度も前立腺を強く突かれて頭がおかしくなりそうだった。
ぱたん、とドアの閉まる音がする。と同時にキッドはローの顔をあげさせた。

「ひっ、あぁ、あ!」
「すっげェえろい顔…そんなに興奮したのか?」
「ちがっ、あぁあ!やっ、きっど、んあぁ!」
「違わないだろ、えろい声出しやがって…」

風呂場に響く甘ったるい声にいやだと首を振って抑えることなどもう出来ず、ただ力なくキッドに縋り付く。「かわいい、ロー」、耳に触れ囁かれた言葉と力強く回された腕に抑え付けられ押しつけられる熱にぎゅっと強く背中に爪を立てた。

「んっぁあ、あっ、も、だめっ…!ひっ、く、ぃくっ…〜〜っ!」
「っ、く、ぁ…!」

激しさをます動きにローが耳元で限界を訴える。その声ごと飲み込むように唇を塞ぐと同時にびくんと腰が波打った。とろりと湯船に浮かぶ白濁と真っ赤な顔で震える身体に目を細める。キッドは抱きしめていた腕に力を入れると奥深くまで押しつけた熱をローの中に吐き出した。

「っ、は…ロー?」

ぎゅうぎゅうと残滓まで搾り取ろうとするその中の動きに眉根を寄せると、これ以上無理をさせないようにゆっくりと中から熱を引き抜く。ぐったりと体を預けるローはまるで反応がなく、軽く肩を揺さぶるととろりと蕩けた瞳がこちらを見つめた。

「大丈夫…逆上せたか?」
「ふぁ…きっど…」

心配そうにぴくぴくと耳を揺らすキッドに向けられるぼんやりとした視線。文句の一つも言ってこない唇に、相当体力を消耗させてしまったことを知る。急いで風呂から上がるとタオルで巻いた体を抱き上げた。




ぼんやりとした意識がはっきりと浮上し、定めなく左右を見回したところでローはがばりと起き上がった。急に動いたせいか眩暈がする。頭に手をやると濡れたタオルが置いてあった。

「気分はどうだ?」

どうやら自分はリビングのソファに寝かされていたらしい。問われた質問には答えず、覗き込んできた耳をおもいっきり引っ張った。

「ちょ、痛い痛いいたい!」
「いろいろ言いたいことがあるんだけど…とりあえずバレたらどーすんだって言ってるだろ!!」
「大丈夫だって、あの人夕飯作ったら帰るし…風呂場でも結局バレなかったし。気持ち良かったろ?」
「っ〜〜、そういうことじゃない、このバカ犬!!」

終わり良ければすべて良しのこの犬のせいでこっちは毎日身が持たない、とローは耳を引っ張ったまま眉を釣り上げる。果たしてこの犬は反省という言葉を知っているのだろうか。ぷくりと膨れた頬に指を突き刺し「かわいい」と言っているあたり知らないのだろう。

「あ、でも無理させちまってごめんな?お湯に浸かってヤッたの初めてだったからなー、逆上せたんだろ?とろとろになってて可愛かったけど」
「っしね、バカ犬!触るなバカ犬!!」

ソファに置いてあったクッションを取るとキッドの顔面向かって投げつける。それを軽々キャッチすると、キッドは何怒ってんだよと不思議そうに首を傾げた。どうしたんだと覗いたそのローの顔が真っ赤で涙目で、それに理由もなく尻尾が揺れる。可愛いと言ってしまったらまた怒られるのだろうか、分かっていてもそう言わざるを得なかった。

「ちょっとは反省しろばかいぬ!許してほしいなら……」

そう言って言われた言葉があまりにも簡単で。屈辱的でないどころか、喜んでとローの手をとってキスをするとキッドはワンと鳴いたのだった。







お誕生日プレゼントにカラさんに捧げます!前作と比べて何だか二人とも扱いがいい加減というか、うん…お互いがお互いに慣れたんでしょう(笑)
こんなお調子乗りわんこと生意気しょたでよかったら貰ってやってください!




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