Gift | ナノ

(二年後長髪キッド設定)


きゅっとシャワーのコックを捻る。もう今では湯船に湯を張って、ゆっくりと湯に浸かるようなことは滅多になかった。能力者は水に弱い。雪がちらつく冬の露天風呂が好きだった俺には残念な話だ。たまに湯に浸かることはあるが、あの力が抜ける感覚は好きじゃないから、やはり湯に浸かることは少ないと言っていい。
風呂場から出るとタオルで適当に体を拭く。濡れた髪はそのままに、タオルを頭に引っ掛けるとズボンだけ穿いた。乱暴に頭を拭きながら脱衣所から出ると、見知った男が人のベッドで勝手に寛ぎながら当たり前のように「よぉ、」と言った。

「んで堂々と人の船に入ってんだよ…」
「今更だろ。それに、すんなり入れてくれたのはてめェんとこの白熊だぞ」

酒瓶を傾け、こくりと喉を鳴らすユースタス屋の姿にこの船の警備を怪しく思う。なんて、確かに今更なんだけどな。こいつが勝手に入ってくるのなんて初めてなわけでも、ましてや一度や二度の話でもない。それはまたこいつの船での俺も然り。しかしこうもするりと入ってこれるようになったとは、最初の頃の警戒がまるで嘘のようだ。慣れというものは果たして恐ろしい。

「ベッドの上で酒飲んでんじゃねーよ、汚れたらどうすんだ」
「んだよ、てめェもやってることだろ」
「俺はいんだよ。俺の部屋だからな」
「俺の部屋でもやってんだろ!」
「そうだったか?俺だからいいだろ別に」
「ったく…横暴なところはちっとも変っちゃいねェな」
「そりゃお互い様で」

ベッドに乗り上げると滴る雫を拭いながら軽口の応酬。たかだか二年経っただけで性格が変わるわけがない。呆れたようなユースタス屋を尻目にベッドヘッドに寄りかかるとユースタス屋の背中を眺める。
性格は変わっていない。それはユースタス屋も俺もおんなじだ。じゃあ見た目は?俺は変わらない、全くと言っていいほど。けれどユースタス屋は違った。

初めて見たときは、そりゃあ腸が煮えくり返りそうになった。ユースタス屋の左腕、顔の傷。許可なく自分のお気に入りの人形を傷つけられていい気持ちになるやつはいないだろ。それと同じことだった。けれどそれはユースタス屋の問題で、そもそもユースタス屋をそんなに傷つけた奴がまともに生きているはずがない。冷たい金属に触れながら、それでも惨たらしくユースタス屋の手によって逝ったどこぞの馬鹿を思うと愉快な気にもなった。全く気分が晴れたというわけではないが、仕方のない話。今はなんとか折り合いをつけている。出来ることなら、ユースタス屋を傷つけた男をこの手で切り刻んでやりたかったのだけど。

「んだよ…くすぐってェな」
「いいからじっとしてろ」

その次に目についたのは長い髪。聞けば二年の間、ほとんど切らずに伸ばしっぱなしにしていたらしい。背中を流れる赤い髪を掬えば、さらさらと掌からこぼれていく。綺麗な赤い髪。短かったときとは違った印象を見せてくる。大人びた雰囲気に拍車がかかったというか、落ち着いてみえるようになったというか。
ユースタス屋は変わったことが多すぎて、最初会ったときは戸惑った。しかし蓋を開ければなんてことはない、二年前となにも変わらないユースタス屋がそこにいた。それに安心している自分が嫌だった。ユースタス屋に心底惚れきってしまっている自分が。でも、「会いたかった」と抱き締められて囁かれて、そんな気持ちもすぐどこかへ行ってしまったのだけれど。

「お前、髪いじるの好きだよな」
「ユースタス屋の髪だけはな」

ユースタス屋以外の髪なんてどうでもいいし、触りたいとも思わない。それは髪以外にも当てはまる話。

「可愛いこといってくれるじゃねェか」

にやりと笑ったユースタス屋の手が頬に触れる。そのままついっと頬を撫でられて、ゆっくりとベッドの上に押し倒された。肩をなだれ落ち、シーツに触れる赤い髪。正直言って髪の長いユースタス屋にはまだ慣れない。トクトクと速まる心臓の音。見惚れる赤。

「これ、好き」
「あ?」
「この体勢。ユースタス屋に閉じ込められてるみたいだから」

何度見ても慣れない赤い髪。鼓動を高めるその姿。悔しいから、赤い髪を一房掬うとちゅっと口付けた。外界を遮断して、俺の視界いっぱいをユースタス屋で埋め尽くしてしまう赤いカーテン。それはユースタス屋だけの世界に閉じ込められているようで。

「…ンな可愛いことばっか言ってっと容赦しねェぞ」

低く唸るように呟いたユースタス屋に、くすくす笑うと首に腕を回す。残さず食べてくれるなら、とそっと耳元で囁くとゆっくりと目を閉じた。





大変遅くなりましたが514000hitにてキリリクしてくださった蛍様に捧げます!長髪キッドにドキドキしているローという設定だったのですが…全然ドキドキしてなくてすみません…(;;)
原作沿いのキドロは格好良すぎて難しいです…。こんなのですみません><
リクエスト有難うございました!




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