Gift | ナノ

(同棲パロ)

甘やかすのが楽しい。
隣に座れば腕は自然に肩へと回り、ゆるやかな腕の動きにしたがってこつんと感じるかすかな重み。寄りかかるように肩に寄せられた小振りな頭。何となしに手で髪を梳けば目を細められる。それがゴロゴロと喉をならし気持ちいいと鳴くねこのようで。見ていて飽きないその姿。額にキスを落とせばジロリと鋭い目付きが飛ぶときもあるが、見れば分かる、赤い耳が隠しきれずに覗いている。可愛い照れ隠しだと思う。機嫌がいいときはキスをし返してくれるときもある。何も言わずにうとうとしているときもある、柔かく笑っているときも。

何か飲みたいと言えば台所に立つ。それぐらい自分でしろよと文句を言いながらも、結局言うことを聞いてしまうのはトラファルガーも重々承知だ。トラファルガーのお気に入りのコップに氷を二つ。ホットならマグカップに注いで。ほら、と渡せばありがとうと笑うから仕方ない。一度お湯が沸くのをじっと眺めていたらトラファルガーが拗ねたことがあった。いつまでそこにいるんだ、ばか。脹れた声がソファから聞こえた。見れば寝転がって雑誌を読んでいる。さっきまでの俺のスペースは消えていた。苦笑いでソファの下に座ると頭を撫でる。雑誌に埋められた顔は不機嫌を装っているけれど、その表情が徐々に柔らかくなっていることに気づくのは俺だけでいい。不機嫌なふりをしても分かっている。けれど何も言わずにご機嫌を取る。そうすればトラファルガーは可愛い顔を見せてくれるから。

休みの日はトラファルガーに付き合って出かけることもあるけど、家でごろごろすることもある。トラファルガーは面倒くさがり屋であまり外には出ない。家でDVDを見るのが好きだ。レンタル屋に行って二人で選ぶが、大体見たいのはトラファルガーが決める。SFや感動系なんかが好きらしい。たまにホラーやグロテスクなものを借りるが俺は好かない。分かっていてやっているのだろう。だからそういうときは、家に帰ってDVDをセットしても俺は観ない。そこに座っているが画面をあまり見ずに、トラファルガーの方ばかり見ている。小振りな頭、うなじ、耳の形を確かめるように触れてピアスを弄れば振り向きもせずに鬱陶しそうに振り払われる。いたずらにキスを落とせばピクリと体が揺れる。抱き締めた腕で体を弄ると腕を叩かれ、ムッとした顔が漸く後ろを振り返った。文句を言う唇にキスをし、冗談の応酬。呆れた顔は大抵画面に戻るが、つまらないから手の動きを再開したりして。嫌だと言われる前に服の中に滑り込ませ、首筋に顔を埋める。びくびくと揺れる体を楽しみながら弄れば、饒舌な舌は次第に静かになっていき、抑えたような声が口端から洩れ始める。大抵はそのまま続けるが、いたずらに行為を中断して手を離すと涙を溜めた瞳がじろりと俺を睨みつけてくる。主人公の軽快な悲鳴をバックに、悔しそうな顔をして「触って、」と呟くトラファルガーはひどく可愛かった。最近は一泡吹かせてやろうと意趣返しも諦めたのか、めったにホラーも借りなくなってしまって俺としては残念極まりないが。

平日は遅くなることもあるが、大抵は決まった時間に帰る。たまに仕事柄、出張へ行くときがある。頻繁ではないが、全く行かないわけでもない。ときおり訪れるそれは大体が三日ほどで、長くても一週間。その間はトラファルガーに全く会えないから俺にとっては苦痛だ。仕事だから仕方ないと言えば仕方ないのだが、それでもトラファルガーは寂しい顔一つせず送り出す。たまには早く帰って来て、なんて甘えられたいもんだ。本当は寂しいくせに、トラファルガーは決してそれを表に出さない。三日ならまだしも、一週間のときは絶対に連絡なんて寄越そうとしなかった。たまに送られてくるメールに返信しても、電話はかかってこない。こっちからかけると複雑な声が電話越しに聞こえる。聞きたくない、でも話がしたい、二つの想いに声はいつも不機嫌そうだ。その声を聞くと俺は思わず笑ってしまいそうになる。自分で言っていたから、声を聞きたくなると会いたくなるから嫌だって。言った後に悔しそうにしていた。こんなこと言いたくなかったのに。その顔がひどく可愛かったのを覚えている。だから電話で会いたいなんて言ったもんならトラファルガーはバカ!なんて怒るから可愛い。宥めながら本当のことだからと言えば、喉に詰まったような声が聞こえて、微かに俺も会いたいなんて言うんだ。その言葉を聞くと仕事も放り出してすぐにでも帰りたい気持ちになる。けれどそれを堪えて仕事を終わらせて、出張から帰って即行で帰宅するとトラファルガーは決まって何でもない顔で出迎えた。会いたいなんて言った言葉をまるで忘れてしまったかのような顔をして、それでもその背を捕まえて後ろから抱き締めれば赤い耳がよく見える。会えなかった分を埋めるように抱き締めれば、おずおずと腕を握り返されて。キスすれば珍しく積極的に絡む舌。熱い息をもらし、目を伏せて、「さびしかった、」なんて言われてしまえば。先程の態度もただの強がりに思えてしまうほど。可愛い、かわいい。

甘やかすのが好きだ。笑っている顔が可愛い。拗ねている顔も、怒った顔も全部。大抵の我儘は受け入れてしまうから駄目なのかもしれない。敵わない、トラファルガーには。それでもその嬉しそうな顔が見れるなら、何だっていいとさえ思えてしまう。



「ユースタス屋?…ユースタス屋!」
「…、あ?悪ぃ、ぼーっとしてた」
「眠いのか?」
「え?」
「なんか眠そうな顔してる」

不意にトラファルガーに呼ばれてぱちりとスイッチが入ったように視界が明るくなった。瞬きを二、三度すれば乾いた目が少し潤む。どうにもぼうっと考え事をするあまり自分の体が疎かになっていたらしい。乾いた目が痛む。

「…そうだな、少し」

嘘は吐いていない。昨日今日と根を詰めた仕事をしていて気が張っていた。いつもより少し遅めに帰って来ていたから、確かに今は少し眠い。何もしていなかったせいで眠気が襲ってきているだけかもしれないが。
テレビを見ていたトラファルガーは、そっか、と呟く。その横顔をぼんやりと見つめた。このまま何もせずに呆けているなら早く寝てしまうのもいいかもしれない。そう思った時、ぽんっと軽い音がした。

「…使っても、いい」

何のことかわからなかった。幾分はっきりした頭でトラファルガーを見るも、それ以上は何も言ってくれない。嫌ならいいと、少し拗ねたような横顔を眺めて、それから腿の上に置かれた手に目が行った。ぽんっと鳴った軽い音を思い起こし、素直じゃないその口ぶりに思わず笑った。

「じゃあ使わせていただこうかな」

わざとかしこまった口調で笑うと、ごろりと寝転がってその腿に頭を乗せる。トラファルガーは何も言わない。にやける口元をそのままに目を瞑ると、頭の横に置かれた手がピクリと震える。ふわりと空気が動き、そのまま頭に感じる体温。さらりと髪を梳く手つきは、いつも俺がトラファルガーにしているのと同じもので。
甘やかすのが好きだ。けど、たまには甘やかされるのもいいかもしれない。




456789hitでリクしてくださった月丘様に捧げます。大変遅くなってしまいすみません…!
リクは激甘は同棲パロor初心ローとのことで、今回は同棲パロにさせていただきました。激甘…自分なりに模索してみたのですが…どうにも激甘ではないような…;;
すみません!こんなのしか書けませんでしたがよければどうぞ!><
リクエスト有難うございました!




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