Gift | ナノ

(一般人キッド×芸能人ロー)

何の反応もしない携帯をじっと睨みつける。でも終いにはそんなことをやってる自分が馬鹿らしくなってテーブルの上に置いた。結局気になってるんじゃないか。そんな自分に嫌気がさして顔を顰めた。
一人しかいないわりには用意されたでかいソファの上に横になると目を瞑る。体は疲れて眠気を感じてるのに頭は冴えていて寝ように寝られない。何もすることがないって本当に退屈なんだなとぼんやり思った。

「おい、ロー、こんなところで寝るなよ」
「寝てねぇよ」

がちゃり、と扉が開くと戻ってきたらしいペンギンの声が聞こえた。もう帰るから早く乗れと言われて無理矢理に体を起こす。
外はまだ肌寒くてその温度差に肩を竦めると息を吐いた。白くて冷たい息だ。寒いなと呟いた声が聞こえたのか、そんな薄着でいるからだろとペンギンに窘められた。役者は健康管理をきちんと出来て云々ってのはもうこいつの口癖だな。

「家に着いたら一回寝るか?」
「あー…無理。起きてる」
「俺はちょっと眠ったほうがスッキリすると思いますけどねー」
「…なんだお前、いたのか」

緩く首を振って車に乗り込むと後ろから聞こえた声に振り向く。最初からいましたよ!と脹れた声は無視した。頼むから大声を出すな。頭に響く。
キャスは少し寝たらマシだとか言ったが俺は生憎低血圧で寝起きの機嫌は最悪だしここ最近はロクに寝てないしで今眠ったら最低でも一日は目覚めないような気がするから寝ない。どうせ眠ったって3時間寝れるか寝れないかぐらいだろう。それなら寝ないほうがマシだ。
というような生活を最近は繰り返しているので正直きつい。それもこれもペンギンによって容赦なく入れられたスケジュールのせいだ。仕事が嫌なわけではないがそれなりに休みもほしい。いつもならどんなにハードでもこんなこと思わないのにな。ふとまた無意識に携帯を見つめている自分に気づいて、そんな自分に馬鹿らしさを通り越して呆れてしまう。

「そういやなんでお前ここにいるんだよ」
「ちょっとペンギンの家に」
「もういい。それ以上俺に惚気たら明日はないと思え」
「ちょ、1oも惚気た覚えなんてないんですけど!」

てかまだなにも言ってないじゃないですか!とかうるさい声は聞き流した。ああ腹が立つ。本当に他人の惚気と夢の話ほど聞いていてつまらないものはない。でもいつもの俺なら、とそこまで考えてまた同じことにグルグルと思いをめぐらしていることに気づいた。

はぁ、と誰にも分からないように小さくため息を吐く。本音を言えばさっきからちらちらと脳裏に浮かぶのはあの赤髪の馬鹿のことばっかで。携帯をずっと気にしているのはそいつからの連絡を待っているわけで。そんなら自分からすればいいだろとか思うかもしれないがそこはそこ。別に変な意地を張ってるとかそういうわけじゃない。俺が悪いわけでもないのに自分からするのは癪だってことだ。絶対自分からは連絡しない。あいつが悪い。そう思って一週間経った。俺にしてはなかなか長く持ったほうとも言えるしそうでないとも言える。

車から降りると二人への挨拶もそこそこに自分の部屋へと向かった。こういうときにオートロックは煩わしい。暗証番号を入力するとドアが開く音がした。ドアノブに手をかけて扉を開くと中に入る。寝室に直行するとベッドの上に倒れこんだ。シャワーも浴びたいし服も着替えなければいけない。もう一度ペンギンが迎えに来るまであと何時間くらいあるんだろうか。その前にやることはやっておかなければいけないのにどうにもやれる気がしない。

何気なく気の抜けた視線で部屋を見渡すとベッドの上に投げつけた携帯が光ってるのが目に入る。慌てて起き上がると着信相手も見ずに通話ボタンを押した。

「もしもし?」
『…ああ、俺だ。その、何だ…この間は悪か』
「うん、もういい。とりあえず死ね」
『あ゛ぁ?てめェふざけてんのか?!』
「っ…ふざけてんのはお前だろこのバカスタスが!」

電話越しにユースタス屋の怒鳴り声が聞こえて俺もついかっとなって怒鳴る。久々に聞く声がそれってどうなんだとか脳の片隅で思ったけどそんなことどうだっていい。
別に喧嘩したことに対しても一週間放置されたことに対してもそんなに怒ってるわけじゃない。何せ喧嘩なんていつものことだしなんでしたのか忘れるぐらいどうでもいいことだったからだ。いや放置は流石にムカついたがそれはまた別だ。問題はその翌日にユースタス屋とまったく連絡が取れなくなったことだ。

そのときは珍しく俺が悪いと思ったような気がして、癪だがユースタス屋に電話をかけた。だがいくらかけても通じない。それ自体はどうってことない。俺もユースタス屋も多忙を極める身だから。いくらか入れておけばあとで見てくれるだろうと思ってそのときは気にしなかった。だがいくら待っても来ない。家にでも行けば確実だろうが忙しいから会いに行くことも出来ない。3日経ってもまだ連絡はとれない。5日経ってムカついてきたので考えるのを止めた。7日経った今日はちょうどドラマの撮影で、多忙に身を極めた男が恋人とすれ違いの生活を送るシーンをやった。タイミングが悪いというかなんというか。

確かに俺もユースタス屋も忙しくてそんなに頻繁に会うことは無理だ。ここ最近は本当に時間がなくてこの間だって漸く時間を合わせて会えたぐらいだ。それなのにいつも通りに喧嘩。そう、それで確か俺が「いつもこんなんばっかじゃ疲れる」とか何とか言ったんだっけ。無理矢理に時間を作るのもまったく会えない時間を過ごすのも。感情に身を任せただけの言葉で、口からでまかせと言ってもいい。でもそれを聞いて黙り込んでしまったユースタス屋の、あの嫌な沈黙。そのあとに紡がれた言葉だけは嫌々ながらはっきり覚えている。



『なら、別れるか?
そうしたら無理に時間を作るのも会って過ごすのもしなくていい。
そっちのほうが気楽でいいんだろ?』



そう言ったユースタス屋の目は酷く冷たいものだった。そこで謝ればいいのに俺としたってそうはいかない。プライドが高いとこういうときにはすごく面倒だ。なんだか適当なことを言って、そのあとのことは覚えてない。
そしたらユースタス屋と連絡が取れなくなって。気にしないフリをしていても心の奥底で捨てられたんじゃないかって思ってる自分が嫌だった。俺はそんなに弱い人間じゃない。それもこれも全部ユースタス屋のせいだ馬鹿。

「だからもういい。知らないお前なんか」
『ちょっと待てって。何自分の言いたいことだけ言って終わろうとしてんだよ。』

もう俺に話すことはなにもない。うん、確かに少しすっきりしたかもしれない。根本的な解決にはなってないが。
だから少しばかりずるい考えだがユースタス屋の話は聞きたくなかった。このまま終了ボタンを押したい。お前は我儘だとかそんな類の言葉を今は聞ける気分じゃなかった。

『つか、お前いま絶対泣いてるだろ』
「…は?泣いてねぇし」
『いーや、絶対泣いてる』

むきになって返すとユースタス屋もむきになって言い返す。がちゃ、と遠くでドアの鍵が開く音がした。もうペンギンが迎えに来たのだろうか。まだ一時間ぐらいしか経ってない気がする。じゃあ俺仕事だから、と言って切ろうとすれば聞き覚えのある声が電話口と自分のすぐ後ろで響き、思わず後ろを振り返った。

「ほら、やっぱ泣いてんじゃねェか」
「っ…なん、で…」

ここにいるんだよ、とは言葉にならなかった。伸ばされた腕でユースタス屋の親指が目尻を拭う。ぽとり、と零れ落ちたそれがシーツに染みを作って、そこではじめて自分が泣いてることに気づいた。見られるのがいやで乱暴に目を擦ると腕を掴んで止めさせられる。そのまま腕を引っ張られてユースタス屋に抱きしめられた。

「俺が悪かったから、もう泣くな」
「…じゃ、なんでずっと連絡くれなかったんだよ?」
「ちょうど海外出張があって出来なかった。あー…それに…あの言ってることが本当だったら連絡しねェほうがいいかと……って何笑ってやがる…」

気まずそうに目線を逸らしたユースタス屋に思わず笑ってしまう。泣き笑いというなんとも間抜けな光景だが今だけは気にならなかった。

俺たちは相手に対して極端に臆病な気がする。そのくせお互い意地っ張りでなかなか自分を譲らない。だから喧嘩も遠回りもするし面倒なことにもなる。解決策は至って簡単なことだ。でも俺たちにとっては随分難しいことかもしれない。

「…もっと素直になればいいのに」
「そりゃこっちのセリフだ」

ユースタス屋の首に手を回すとぎゅっと抱きつく。一週間ぶりに触れた肌は温かった。







相互お礼で曄鏖ちゃんに捧げます!
遅くなってすみません!そしてまったく素敵リクを生かしきれてなくてすみません!何これマジで…ちょっとシリアスっぽいし…。
連絡待つローかわいいよローとか思ってたらこんなんできてしまいました。
よろしければ貰ってやってくださいませ´`
リク有難うございました!





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