Gift | ナノ

困ったことに俺らは行き先が同じである。進む方向は同じことに変わりないが相変わらずムードが最悪なので二人とも一言も口を利かない。ただお互いむっつりと、また今年も被った、何て最悪な思いをしながらひたすらに足を動かしていた。

「俺、絶対お前は花なんか買わねぇって思ってたのに」
「…そりゃ残念だったな。つか俺もそう思ってたし」

重い沈黙の中で、ふと思い出したように呟いた兄貴の言葉に軽く返す。こいつの場合は逆に王道過ぎてて買わないかなと思ったが俺の予想は見事外れたらしい。こいつもこいつで俺の柄には合わないと重々承知しての結論だったのだろうから、変なところで双子の能力を発揮するお互いを恨めしく思った。

トラファルガーにはすでに行くことは伝えてあった。勝手に入ってこいときていたので言葉通り家に着くと勝手に入る。両親とも共働きであまり家にいない俺たちと同じくトラファルガーの両親も海外出張だと家を空けることが殆どで、今日もあいつの誕生日だというのにあいつの両親はいないらしい。それにいつしかトラファルガーの誕生日は俺ら三人で過ごすことが常となっていた。

「ロー、来たぞ」

鍵のかかっていないドアを開けてズカズカと遠慮もなく入っていく兄貴に続いてリビングに向かう。いつもなら何かしら反応を示すトラファルガーが静かなので首を傾げれば、原因はソファの上に丸くなって眠っていた。

「十八時半には行くっつったのに何で寝てんだ…」
「でも珍しくね?」

すやすやと眠るそのようすにぼそりと呟く。
確かにトラファルガーがこんな風にして夕方から眠るは珍しく、それにわざわざ起こす気もおきない。どうしたもんかとお互いじっと見つめていれば、不意にその瞼がゆっくりと開いた。

「…ん、」
「あ、起こしたか?」
「ちが…勝手に起きた」

ぼんやりとした瞳で俺らを捉えると、ふわっと欠伸をしたトラファルガーが起き上がって眠そうにごしごし目を擦った。まだ意識があまりはっきりしていないのだろう、少し寝惚けたようなその姿はあまり見ることが出来ないもので、何というか可愛らしい。
トラファルガーが起きたことによって空いた両スペース、いつもの定位置にお互い囲むようにして座ると、手に持ったその花束を差し出した。

「「誕生日おめでとう」」
「……」
「……」
「…あ、りがと」

どうしてこう大事なときのタイミングはいつも被ってしまうのだろうか。普段は被る方が珍しいくせに。
やはり被ってしまいギリギリと睨み合う俺らの間でトラファルガーはワンテンポ遅れてその花束をじっと見つめた。また今年も被ったんだ、と口には出さないが目が訴えかけている。

「そっか…今日俺の誕生日なのか。忘れてた」

すっかり覚醒したらしいトラファルガーはそう呟くと、ありがと、と今度ははっきりした口調で再度嬉しそうに笑った。ほぼ高確率で毎年忘れてんじゃねェか、と思いながらもその笑顔に絆される。
やっぱりこいつには笑った顔がよく似合う。そしてその笑顔に見惚れてしまうのも俺の悪い癖だ。

「な、ロー、薔薇の花言葉って知ってるか?」
「んー…?愛とか恋とかそこら辺だった気が…?」
「そーそ。…俺の愛の告白、受け取ってくれる?」

ほら、な。見惚れてる間にこれだ。どうにかして耐性をつけたい訳だが如何せんトラファルガーは可愛い過ぎて手に負えない。とか考えてるうちにも兄貴はあたかもお姫様に愛を囁く王子のごとくトラファルガーの手を取ってその甲に口付けている訳で。それに赤い顔して慌てるトラファルガーも、まあ可愛いが原因が原因なだけに気に食わない。

「っ、ゆーちゃん、な、に言って…!」
「本当だぜ?受け取ってくんねぇの?」
「ぅ…別にそーいう訳じゃ…って、ぅわ?!」
「聞くなよトラファルガー。耳が腐り落ちるぞ」

にやっと笑った兄貴の台詞にしどろもどろになりながらも赤い顔して答えるトラファルガーに苛々したので、返答の途中にその腰を掴むとぐいっと引き寄せて後ろから抱き締めてやった。ぼそりとその耳元で囁くと、赤い顔がますます赤くなって面白い。
耳裏にキスを落とせばびくりと体が小さく震えて慌てたような気配がますます強まる。それに今度は俺が口元を緩めた。だって兄貴にばっかいい思いはさせらんねェだろ。

「ちょ、きーくん…!」
「何?嫌?「っ、いやっていうか…恥ずか、」
「嫌に決まってんだろ離しやがれ」
「あんたには聞いてねェよ」
「断れない優しいローの代わりに俺が言ってやったんだろ?ほらロー、こっち来いよ」
「クソ迷惑な解釈だな。行くなよトラファルガー、あんな奴のとこなんか」
「…えっ、と…」

自分のところへ引き寄せようとトラファルガーの腕を引く兄貴に、負けじと俺もトラファルガーの腕を掴む。ギリギリ睨み付ける俺らの間で困ったように視線をさ迷わせるトラファルガー何てのはもう見慣れた光景だ。

「大体お前の思考回路は安直なんだよ。どうせローの笑顔でも想像して買ってたんだろ」
「それをあんたに言われる筋合いはねェよ。薔薇、とかな。あんただって十分安直なくせに」
「一緒にされちゃ困るな。お前と俺じゃ愛の重さが違う」
「ふざけてんのか?俺はあんたよりもトラファルガーのことが好きな、」
「も、お前ら黙れよ!これ以上変なこと言うならどっちも受け取らないからな!」

顔を真っ赤にしたトラファルガーが見かねて一喝。それに俺らは先程の饒舌さが嘘のように静かになった。
どうやらまたやってしまったらしい。お互い罰の悪そうな顔をするも、俯くトラファルガーの表情は窺い知れなくて眉根を寄せた。

「ロー?」
「トラファルガー?」
「…二人が喧嘩するぐらいなら俺、なにもいらない…」
「「!!!」」
「ロー、本当ごめんって。もう喧嘩しないから、な?」
「大体本気で喧嘩なんかしてねェよ?ちょっとした冗談みたいなもんだからさ」
「…ほんと?」
「嘘なんか吐かねェよ、な…兄貴」
「あ、あ…ちょっとした冗談だ」
「…なら、いいけど」

お互い頬を引き攣らせつつ、わざとらしく目配せしながら盛大に嘘を吐いているがトラファルガーはどうやらそれで信じたみたいだ。ちらりと目線を寄越した顔はまだ少し膨れっ面ではあったが、もう機嫌を損ねてはいないようだ。
にしてもあの切り返しは新しい。マジで焦った。そう思っているのは兄貴もらしく、顔を上げたトラファルガーにどことなくホッとしたような顔をしていた。

「…なぁ、ローってもう飯作った?」
「あ、まだ。寝てたから忘れてた」
「じゃあ今日は俺が作ろうかな」
「マジで!?じゃあ俺も手伝う!きーくんも一緒に作ろ?」
「…あー…マジで?つかお前誕生日なんだし全部やらせとけば?」
「いいの!それにきーくんだって野菜切ったりぐらいは出来るだろ?」

するりとすり替えられた話題に、最早すっかり機嫌を取り戻したトラファルガーに強請るように腕を引っ張られて苦笑する。俺の料理の出来なさ加減は兄貴もトラファルガーも重々承知しているのだが、それでもトラファルガーは三人で作りたいらしい。兄貴にもちらりと目で合図されて肩を竦めると仕方なく立ち上がった。

「三人で作るのとか久しぶりだな」
「天麩羅作ろうと大惨事になったとき以来か」
「きーくんが全部真っ黒焦げにするから」
「油の中に投げ入れてたお前に言われたくねェよ」
「どっちもどっちだから。つか俺一人で作った方が安全だし」
「うー…でも今日は三人で作る!」
「「はいはい」」

頬を膨らませたトラファルガーにお互い呆れたように笑うと、それでもこの目の前の存在が可愛くて仕方がなくて。
トラファルガーには内緒だが、あらかじめこいつの好物ばかり買って入れておいた冷蔵庫を開けるとまず何から作ろうか、なんて考えている兄貴を尻目にくいくいとトラファルガーに服の裾を引っ張られる。

「きーくん、」
「ん?」

何かと思って振り向けば、ちゅっと頬に感じる柔らかな感触に驚いて目を見開く。一瞬で離れはしたがそんな俺にトラファルガーは頬を赤く染めて、プレゼントのお礼、なんて照れたように笑うものだから。トラファルガーからという珍しさとその笑顔の可愛さに思わずにやけそうになる口元を押さえるとその余韻に浸ってしまう。
だからゆーちゃんにも、と呟いて兄貴の元に行ってしまったトラファルガーに一歩遅れてしまって。



「んっん?!ん、んー!」

くぐもった声にハッとすれば、頬にキスしてきたトラファルガーの破壊力にやられたのだろう、そこにはやはり兄貴にキスし返されているトラファルガーがいた。こうなることは予測済みだがご丁寧に舌も入っているようで気に食わない。気に食わないので少し唇が離れた瞬間自分の元へと引き寄せた。

「〜〜っ!ゆーちゃんのばか!」

若干涙目のトラファルガーは息を荒げたまま、俺に体を預けてキッと兄貴を睨み付ける。けれど兄貴は特に気にした様子もなく、ペロリと唇を舐めるとちらりと俺に視線を寄越してきた。まあ言いたいことは大体分かるけどな。

「飯作んねェの?」
「そ、そーだよ!早く作ろ!」
「まあ待てって。俺は自分の気に入ったもんから食べるタイプだが得てして弟よ、お前はどうだ?」
「まあ同意かな」
「はっ!?ちょ、きーくんなに言って…!」
「悪いなトラファルガー」
「「諦めろ」」
「?!」

ふるふると若干青ざめた顔で首を振るも、後ろから俺に抱き締められている訳で、前には兄貴もいて逃げられない。
このタイミングのよさは双子の能力だと喜んでいいのか悪いのか、どちらにせよ後になってすっかり拗ねてしまうであろうトラファルガーのご機嫌を取るのは大変そうだと他人事のように思いながら兄貴と目配せしてにやりと笑った。



愛してる×愛してる







妄想プログレッシヴの海老様に捧げます!
物凄い素敵絵を頂いてしまったのでこれは何かお礼をせねば!と相互記念に書かせていただきました(^^)
でもこれお礼になってるのかな…?(笑)
甘い話なら何でもとのことでしたので恐れ多くも海老様の素敵絵を小説にさせていただきました><
素敵すぎて妄想が止まらなかったことが原因です^^;
もしイメージ崩してしまったらすみません´`いろいろと有難うございました!これからも是非是非宜しくお願いします(*^^*)





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