抵抗も拒絶も特にしなかった。というよりは、あまりに唐突すぎる出来事に何もついていけなかったのだ。そうすれば受け入れたと勘違いした舌が勝手に唇を割り込んで我が物顔で口腔を犯していく。それに、あ、俺いまユースタス屋とキスしてる、と他人事のように思った。だがそれも始めだけですぐに意識を取り戻した頭が今の状況を否定する。逃れるように肩を押し返すもいつの間にか後頭部に回された手がそれの邪魔をするだけだった。
暫く続けていたがユースタス屋に離す気がないと分かると投げやりに自分からも舌を絡め始める。酔った勢いなんだと酒のせいにした。
あのキスのあと、逃げるようにその場から立ち去った。それ以来ユースタス屋とはまともに顔を会わせていない。避けてるわけでも嫌なわけでもなかった。ただずっとぼんやりと考え事をしていた。だがいくら考えても結局は同じところに行きつく自分の頭に、ならばどうしようかとまた思いを巡らせる。
考えた末、このままでは埒が明かないと結論付けた。そうなるとあとは実力行使だ。椅子から立ち上がると目的地に向かって足を進める。どちらかと言うとあまり気乗りはしなかった。
ユースタス屋の船に勝手に乗り込むと扉を開ける。机に向かって何かしているようで奴は顔を上げない。
「だからキラー、その話は後に」
「俺はキラー屋じゃねぇよ」
余程忙しいのか何なのか、顔も上げずに面倒くさそうに言ったユースタス屋の言葉を遮る。そこで初めてユースタス屋はこちらを見た。遅ぇよ、と呟いて奴のベッドの上に座る。
「何しに来たんだてめェ」
「ユースタス屋に会いに来た」
ユースタス屋は驚いたような呆れたような複雑な顔をした。喜ぶとは思ってなかったからそれはそれで別にいいけどな。じっとこちらに注がれる視線を尻目に俺は窓の外を眺めた。
蒼白い月がまるで一心の興味の矛先であるように黙って見つめる。ユースタス屋は何も言わないし俺も何も言わない。沈黙が間を流れるだけでそれを取り繕う音は一切なかった。
ふとユースタス屋の方に顔を向ける。自ずと絡まり合う視線に口の端だけ吊り上げて笑った。
「ユースタス屋、」
「…何だよ」
「キスして」
結局、結果は変わらなかった。ユースタス屋にキスされたその日もそのあとも俺はずっと同じことを思っていたのだ。もう一度してほしい、と。
ユースタス屋は何か言おうとしたが、早くと急かすと黙って立ち上がった。こちらに近付くまでの時間はあっという間なのにそれが何故か長く感じる。
ユースタス屋の手が頬に触れると目を閉じた。すぐに唇に熱が伝わる。それに唇を開くと案の定入り込んできた舌に自分のそれを重ね合わせた。この間と違うところは抵抗も拒絶もしないところだろうか。違うな、と独り言ちる。ユースタス屋に触られたところ全てがまるで熱を持ったかのように熱いのだ。抱き締められた体も重ね合う唇も全てが。この間はそんなこと思わなかったのに。
唇を離すと何故か離れていった唇が惜しく思えてユースタス屋に抱き付く。そうすれば強く抱き返してくれた。トラファルガー、と耳元で熱っぽく名前を呼ばれてくすぐったい。次の行為は容易に想像出来たが、それよりもまず先に言ってもらわなきゃいけないことがある。ユースタス屋の唇は俺にその気持ちを自覚させるけれど俺から言うのは癪だから嫌なんだ。
「ユースタス屋、待てって」
「あ?何だよ」
「その前に俺に言うことあるだろ」
首筋に這う舌に身震いしながらも肩を掴む。俺が何を言いたいのか分かったのか、ユースタス屋は怪訝そうな顔をした。俺はそれを見て笑う。今度はキスのときのように急かしはしなかった。
ユースタス屋、と呼びかけるとじっと見つめる。それに観念したかのように小さく息を吐くとこちらに視線を寄越した。
「好きだぜ、ロー」
「っ!…狡いぞユースタス屋」
まさか名前で呼ばれるなんて、耳元で言われるなんて思いもしなかったから、思わずその言葉が口をついて出る。赤くなった自分の頬としてやったりと笑うユースタス屋が憎たらしい。そのままベッドに押し倒されると顔中に降るキスに甘んじた。
それが何故か悔しくて、キッド、と呼ぶと唇にわざとらしく触れるだけのキスをする。首に手を回すと俺もお前が好きだと口にした。
長らくお待たせいたしました、18900hitにてリクしてくださった燕様に差し上げます!
あの…何か…全然リク添えてないような文ですみません…!
素敵リクだったのに神リクだったのに…!
こんなので宜しければ貰ってやってくださいませ´`
リク有難うございました!またお待ちしてます!