絵空事 | ナノ

(現パロ)


トラファルガーは行事ごとが結構好きな男で、その度どこか浮かれた顔を見せるのは元旦とて変わらない。初詣に行こうと誘われたが寒いのも並ぶのも嫌いな俺はあまり気乗りがしないもんだから、コタツから出るのが億劫で気乗りのしない返事ばかり。日にちをずらして落ち着いたら行けばいいじゃないかとお笑い番組を見ておざなりに返事をすれば、テレビを消されコタツのスイッチを消され終いにはジャケットを投げつけられる始末だ。「初詣、行くよな?」にこりと笑ったトラファルガーに行かないという選択肢はない。ため息をつくとジャケットを拾って袖を通した。



「…寒い」
「ユースタス屋すっげー着込んでたじゃん」
「むり、さむい、ヒートテック二枚じゃ足りない」
「どんだけ寒がりだよ」

飄々とした顔で白い息を吐き出すトラファルガーに、お前が寒さに強すぎるんだよ、と思う。気温は一桁、いやもしかしたら零度近いかもしれないこの環境で、薄手のパーカー一枚にダッフルコートだけを羽織ったその姿は見ているだけで寒くなる。マフラーも手袋もしっかりと身に着けている俺とは対照的に、その首元も手首も寒風に吹かれているくせに震える姿は微塵も見られない。

「雪、明日積もるかなあ」
「どーでもいい…さっさと帰りたい」

ちらちら降る雪にぶるりと震えて歯切れの悪い言葉を返すと横顔に視線が突き刺さるのがわかる。今のはちょっとなかったかなと自分で思いながらも、しかしすぐにでも帰りたいのは本心だ。朝も夜も寒いからとせっかく昼を選んだのにこれではあまり大差ないように思える。しかも考えることは皆同じなのか、参拝の列はやたら混んでてなかなか前に進まない。これなら早朝に行けばよかったと後悔したがもう遅い。ポケットの中でカイロを転がしながら鼻を啜った。先程の返答のせいでトラファルガーが面白くなさそうな雰囲気を出しているのはひしひしと伝わってきたが、生憎俺の脳内は寒いの二文字でジャックされていて口を開くのも億劫な状態である。トラファルガーが何か話しかけてきたら次はまともな返事をしようという気兼ねはあったが、俺の恋人サマはそれからうんともすんとも言わなくなった。完全にヘソ曲げられたなと思いながら、それでも暖房の効いた暖かい部屋に戻るまではご機嫌取りも儘ならないからどうしようもない。スマフォを弄り出したトラファルガーは隣にいるのに見えない壁があるように他人ぶるのだろうと思っていたが、予想に反して投げかけられた言葉にワンテンポ遅れて返事をした。

「しりとりしよう、ユースタス屋」
「…別に、いいけど…」
「じゃー俺からね。鳥居」

列の先頭は見えるがまだ順番は回ってきそうにない。暇潰しにしりとりだなんて子供の考えそうなことだが断るなんて考えはなかった。珍しいことを言い出すもんだなと頷いて、その出だしのマニアックさに笑った。確かに今神社にいるからなんだろうが、鳥居を一番最初に持ってくる奴はなかなかいないだろう。

「い…イカ」
「カタツムリ」
「リス」

傍から見たらこれはこれは一体どんな光景なのだろうかとふと思う。大の男が二人並んでしりとり。一人はスマフォを弄りながら、一人は寒さに震えて身を屈めながら。想像したらおかしく思えたが中断する気はなかった。ただ淡々と答えを探してつなげる。

「あー、青」
「お、かゆ」
「ゆ、ゆー……ユースタス屋すき」
「き…っ、え、は?」

わりと続くなーなんて思っていたその時だった。語尾の言葉に集中しすぎて言葉が丸っと頭の中に入るのに二秒くらいかかったと思う。言われた意味を理解して、驚いてトラファルガーを見れば何でもないように「もう次だから終わり」と言われてしまった。確かに前の人が立ち去ろうとしていたので仕方なく賽銭箱の前に立つ。お賽銭を投げて鈴を鳴らしても願うことなんてちっともなくて、それよりもさっきのトラファルガーの言葉で頭はいっぱいだった。すき、その二文字がぐるぐる回っていまさら頬が熱くなる。トラファルガーが顔を上げた気配がしたので俺も顔を上げて何か言おうとしたが、それよりも先におみくじがしたいと遮られる。百円入れておみくじを取り出す様を落ち着かなく見る俺なんかなんとも思っていないように、おみくじを開いて見たトラファルガーは大吉が出たと喜んだ。境内の静かな場所に移動すると、トラファルガーは取ったそれを読みながらやれ金運がいいだの病気はしないだの中身を声に出して読む。俺、安産だって、なんて笑うトラファルガーに気がついたら口走っていた。

「結婚するか」

自分でも、あ、と思ったが別に訂正することもないと思い、それよりもぽかんとしたトラファルガーの表情が面白くて笑う。なにいってんだアホ、なんて言うくせに顔は真っ赤で全くもって可愛らしい反応だ。「か、考えておいてやる、っ」と吃りながら答えたトラファルガーに笑うとその冷たい頬にキスを落とした。寒さに耐え忍んでわざわざ来てよかった、今年はいい一年になりそうだ。


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