絵空事 | ナノ

箸を持つ手が震えている。ジャガイモを掴み、口元まで運ぶも震える手がつるりと箸から逃がしてしまう。ぽちゃりと音を立てて再びスープの中に沈み込んでしまったそれは冷めていくばかり。ローが好きだと言ったポトフは、まだ半分もその形を残していた。

「さっきから遊んでばっかで…食う気がないなら下げるぞ」
「ちがっ…だって、うまく食べれな…ッ」

わざとらしく溜息をつけば涙の滲んだ瞳が揺れる。ふるふると首を振り、必死に箸を動かすローに人知れず笑った。叱りつけるように諭しても俺の手の中にあるリモコンのスイッチが切られることはなく、ローの震えも止まらない。朝から乳首につけたローターのスイッチを気まぐれに付けたり消したりしていたが、もうそろそろ限界のようだ。分かっていてその振動を弱から強に変えると、軽い音を立ててついにローの手の中から箸が滑り落ちた。

「っ、あぁ、あ!」
「ロー、はしたないぞ。食事中だろ」
「ごめ、なさっ、でも…んっ、あぁ、ぅ、」

カラカラ、と床に落ちた箸を拾いもせず、彷徨う手は胸元を握りしめる。赤い顔に荒い息、もぞもぞと脚を擦り合わせ、何かから逃れるようにして揺れる体は全く以って午後19時の食卓にふさわしくない。リモコンのスイッチを弄って振動を弱めたり強めたり、今この状況を作り出しているその本人に叱られるとはどういう気持ちなのだろう。文句も言わずに謝罪を紡ぐ唇は素直で余計にいじめてやりたくなる。

「キッドっ…ぁ、もう、」
「何だ?言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「ひっ、も、もう、これ…とってぇ…」

唇を震わせ必死に言葉を紡ごうとするローに突き放したように言えば、その瞳にじわりと涙が滲む。続きを促すこともせず一瞥して視線をそらすとローはするりと服を捲り上げた。現れたのは乳首を押しつぶすようにして貼り付けられたピンクローター。その振動を止めるためのリモコンは俺の手の中で知らん顔をしたまま転がっている。

「キッドっ…!おねが…も、やっぁあ!」

くしゃりと顔を歪ませ懇願するローを尻目にもう一つのスイッチも強に変える。なんとまあ淫猥な食卓だろうか。びくびくと腰をくねらせ甘い声をあげるローに口角を吊り上げる。頬に触れ、半開きの唇に親指を突っ込むと口端からだらしなく唾液が垂れた。

「明日の朝まで、って約束だろ?」
ぽろぽろと涙を零すローを見つめて、今日は眠れないなと笑った。



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