絵空事 | ナノ

(同棲パロ)


春――新しい季節。出会いの季節、別れの季節。
表現する言葉は多々あるが、だからと言って俺の環境が劇的に変わるわけではなく。段ボールに入れられることもないマグカップからは、アップルティーの甘い匂いがした。


「もう卒業だなんて早ェよなぁ。つい最近までこんぐらいしかなかったのに」
「おいそれ50cmくらいしかないぞ」


しみじみと思い出すように呟いたユースタス屋が、ぐぐっと掌を下げる。低すぎるそれにツッコミをいれてみたが軽くスルーされた。昔は生意気だったよな、ああ今もか、なんて笑う。


「でもこれでちょっとは犯罪くさくなくなったんじゃねぇの?いたいけな高校生を連れ込んで同棲させるとかアレじゃん」
「言っとくけどお前が勝手に入ってきたんだからな」
「別に追い出せたのに」
「追い出してほしかったのか?」
「ううん」


素直にそう呟いてユースタス屋の肩に頭を寄せれば優しく撫でられる。ちゅっと額にキスされて擽ったくて笑った。


「なぁ、もう一回だけ制服着てみろよ」
「なんで?」
「制服着たお前とすると『いたいけな高校生』にイタズラしてるみたいで楽しいから」
「なっ、変態!絶対嫌だ!」
「そう言うなよ」


これで最後なんだから。ロー。お願い。
冗談が混じったよう甘い声で囁かれて、聞くだけ無駄だと分かっているのに拾った言葉に耳が熱くなる。少し下手に出れば俺が何でも言うことを聞くと思っているんだから本当バカ。そういうのやめてほしい。


「…一回だけだからな!」


だって俺はユースタス屋以上にバカで、大変なことになるって分かってるのにそんな声で頼まれたら断れないから。きっとまた腰を抱えて後悔するんだろうと思ったけど、いそいそとハンガーにかかった制服を持ってくるユースタス屋にそれでもいいかと思うのはやっぱり惚れた弱味だろうか。



prev / top / next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -