絵空事 | ナノ

(先生×生徒で従兄弟同士な二人)



「やだもーマジで。部屋入ってくんなよ」
「は?勉強見てやろうっていう俺の親切心が分かんねェのか?」
「頼んでねぇよ!」


ノックもなしに部屋に入った途端、物凄く不機嫌そうな顔したローが一瞬宙を仰いだかと思うとすぐに視線を戻してキッと俺を睨み付けた。それにさも心外だと言わんばかりに眉根を寄せればローの貧乏揺すりがより一層激しくなる。
本当集中出来ない、とぶつくさ呟く声は完全にシカトして静止も聞かず部屋へ入った。


別に、ただ暇だったんだ。夕飯の支度をするにはまだ少しばかり早いし、こんな中途半端な時間じゃ面白いテレビもない。春休み課題用のテストはすでに作ってあるから取り急ぐ仕事もない。
だから一時間半ほど前から自室に閉じ籠るローの様子を見に、基ちょっかいかけにきたんだが。邪魔されたくないらしく、俺の登場にかなり不機嫌なようだ。


「そうカッカすんなよ。カルシウム足りてねェんじゃね?」
「黙れ、それか、出てけ」


何の教科と格闘しているのだろうかとローの後ろから机の上を覗き込もうとすれば、それを遮るように一語一句区切って吐き捨てられて肩を竦めた。
何か答える代わりに誤魔化すようにポンポンと頭を撫でると振り払って睨み付けられる。それに苦笑しながら相変わらず汚い机だな、とごちゃごちゃなそれを見渡した。
横に積み重ねられた参考書は傾れを起こす一歩手前だし、その反対側には英和に古語に電子辞書が無造作に重ねられている。まっさらなルーズリーフが入り乱れ、それを適当に押しやって出来た真ん中のこじんまりとしたスペースにローは目下格闘中のプリントやらワークやらを広げていた。


「しっかしこんな机でよく勉強する気になれんな…」
「ね、本当黙れよ。まだ課題終わってねぇんだって」
「へぇ、どの教科だ?秀才くん」
「てめぇの教科だよ!」


さすが散らかしの能力、と思いながらしみじみ呟けば苛々したローの声が俺の言葉を書き消すように響き、わざとらしく教科名を促せばひどく睨み付けられた。


「はぁー…やっぱり終わってなかったか」
「…なんだよ」
「お前遊びに行き過ぎなんだよ。そのわりに帰ってきてやる気配もねェし?」
「だってキッドのやつ、やるの面倒くせぇのばっかなんだもん」
「おい、特進クラスなんだから当たり前だろ?」
「勉強嫌いなんだよ!マジ普通科でよかったのにさ」
「じゃあ何で来たんだよ…」
「だからキッドがいるから」


何度言わせるんだというような顔をして、実際何度目かのその一言をしれっと言い切る。でも課題の量がムカつく、とローは再度悪態を吐くと忌々しそうにプリントを睨み付けた。
だがもちろんそんな馬鹿みたいに多く出したつもりはない。要は計画的にやっていないこいつが悪いだけの話だ。


「キッドと毎日会えるのはいいけど嫌だ」
「どっちだよ」
「だって会えるけど…全然構ってくれないし、トラファルガーって呼ぶし、課題多いし、」
「学校で俺は先生、お前は生徒だろ。公の場で私情は挟まない。あと課題が多いのは、お前が出さずに溜めるからだ。先先週の分もとっとと出せ」
「春休みの分がまだ終わってないのに先先週のなんて知るか」
「お前な…」


唇を尖らせて、すっかり拗ねるモードに入ったローに思わずため息を吐いた。
この分だと提出しなきゃどんどん減点してくからな、なんて言っても聞かなそうだ。そもそもテストで毎回九十五点以上しか取ったことのないこいつには提出物なんて結局どうでもいいんだろう。推薦も興味ないみたいだし。
それでも一応やる努力はするらしい、と机の上に出されたプリントを眺めながら思った。


「大体この間だって職権濫用したくせになんで…」
「時と場合による」
「するならいつも依怙贔屓しろバカ」
「バレたら俺の首が飛ぶって分かってて言ってんのか?」


ぶつくさ文句を垂れるローの額を小突くと、知ってるし別に言っただけだしと益々拗ねてしまったのでそんな姿に苦笑した。確かにこいつは学校でも見境ないし、隙あらばくっついてくるような奴だからそれに何度肝を冷やしたかも分からない。
それでも呆れて放っておかないのも面倒臭くなったりしないのも、結局は俺がこいつにベタ惚れだからなんだろう。こういう我儘でさえ可愛いと思えてしまう自分はそろそろ末期な気がする。


じっとその姿を見つめてそう考えていると、思わず苦笑いが零れ落ちる。それを馬鹿にされたと思ったのか、もういいと言いたげにローは机に向かうと俺に背を向けた。
だがこのまま放っておくと面倒臭いことになるのは明らかだ。なんせこいつはいじけると機嫌が直るまで時間がかかる。
だから早いとこ機嫌を直してしまおう。なんて思いながら、ふいっとそっぽを向いて机に向かいだしたローをベッドに放り投げた。


「うわっ!なにすんだよ!」
「楽しいこと?」
「ふざけんな課題…!」
「どうせ出す気ねェんだろ?でも本当にやりたいなら退くけど」


自分から押し倒したくせに、どうする?と言ってわざとらしく尋ねるとローは顔を赤く染めて唸りだす。結局ここ最近はこいつの相手をロクにしていなかったのだ。
俺が全然構ってやらないから他の奴らと遊びに出かけて、俺が暇になった途端今までやりもせず溜め込んでた課題を片付け始めるなんてどう考えても当てつけだろ。機嫌も悪いし、拗ねてるし、構ってほしいなら最初から素直にそういやいいのに分かりにくい。


「知ってるくせに…」


でもそういうところが可愛かったりする。




首に腕を回してキスを強請るローの額にしてやると嫌々とかぶりを振られて、それに苦笑すると唇にそっとキスをしてやる。でもまさか触れるだけでは終わらなくて、何度も啄むように重ね合わせた後、薄く開いた唇から舌を入れた。
くちゅりと舌が絡み合い、それにローの体が小さく跳ねる。必死に舌を動かして俺についてこようとするその姿が可愛くて、絡めた舌を強めに吸ってやればびくりと腰が震えた。


「んぅ、っ、ふ、ぁ…」


唇の隙間から洩れる、久しぶりに聞く甘い声は早々に理性を頭の片隅へと追いやってくれる。それに従うままにキスをさらに深くして上顎をそろりと撫でてやると、ぎゅっと服を掴まれてその可愛らしさに笑みが零れた。


ちゅっ、と最後に軽くキスしてから唇を離すと、頬を赤く染めて荒く息をするローがぼんやりとこちらを見つめる。蕩けた瞳は今や俺だけを映し出していた。


「今日は特別授業してやるよ」
「教科書もないのに教えられんの?」
「ネイティブなめんなよ」


もっと実践的な英語だ。そう言うとローは笑って唇を寄せる。どうやら機嫌はすっかり直ったようだ。


「英語分かんないから教えて、センセ?」
「言われなくても」


情欲の灯る瞳に薄く笑いかけながらもう一度その唇を貪った。





いつかのキリリク没作品だったりします。途中まで書いたけど気に入らないからやめた奴。完成させる気もないけど勿体無い精神であげときます。


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