絵空事 | ナノ

(学パロ)


今までは授業はサボるか、そもそも遅刻して行くかのどちらかだったが、偶然席替えでトラファルガーと同じ席になってから授業に出席するようになった。教師には煩く言われなくなったし単位も取れるし五十五分間トラファルガーの顔眺められるし最高だ。最初からこうしてれば俺だって真面目に授業受けたのにな。


「トラファルガー、購買行こうぜ」
「えー、一人で行ってこいよ面倒くせぇ」
「何か奢ってやるから来いよ。どーせまた菓子パン一つなんだろ?」


授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、俺は財布を掴むとトラファルガーを促す。気乗りしなそうな顔をしていたが、渋々と言ったように席を立った。


「大体今じゃ人多すぎてなにも買えねぇだろ…時間ずらせよ」
「いいの売り切れちまうだろ。何ほしい?」
「俺、購買とかあんま行かねぇから分かんね」


何が美味いのかと聞かれたが俺だって知らない。ただここのスウィートポテトが人気なのだけは知っていた。甘いもの好きなこいつにはちょうどいいかもしれないと思い、告げようと隣を見れば全く知らない奴がいて面食らった。早くも戦場とかした購買に、トラファルガーな流されてしまったらしい。あんなひょろい体してるから人波に逆らえないんだと溜め息を吐く。まあどうせトラファルガーのことだから隅にでも避難しているだろう。そう思ってパンを買おうと手を伸ばしたそのときだった。


「ユースタス屋!勝手に先行くなよ、もっとゆっくり歩け」


前方から聞き覚えのある声がして思わず手を止める。聞き間違いでなければ確かに俺の名が呼ばれたはずだ。だが俺はここにいるし、誰にも引き留められていない。更に言えばあのぶつくさ呟く声は紛れもなくトラファルガーのもの、で。


「ユースタス屋、聞いてるのか?」


視線で探ると少し前の方にトラファルガーがいるのが見えた。しかもそいつは全く知らない赤の他人に、ユースタス屋、と剥れていた。腕と腕をぎゅっと絡ませながら。


「まてまてまて」


いやおかしいだろ、俺とそいつ全く似てないんだが、と思いつつ、否定もせずに、え、とか、あ、とかしか言わない絡まれてる相手を自ずと睨み付けた。何顔赤くしてんだよおい。ってかトラファルガーも気付けよ。
イライラしながら進めば周りの奴らがさっと避ける。こてんと首を傾げたトラファルガーにより一層顔を赤くしたそいつにムカつきながらも、トラファルガーの腕をぐいっと引っ張って自分の方へ抱き寄せた。


「てめェは何見てンだ。俺はこっちだろーが」
「え、あ…ユースタス屋?」


トラファルガーはびっくりしたように俺と誰とも知らねェ野郎を交互に見つめ、納得したのか、ごめんな、と相手に謝った。それに奴は何か吃りながら返していたが全て無視して、適当にパンを買ってその場を後にした。もちろんトラファルガーの腕を離さずに。




「何で間違えるんだよ」
「今日コンタクトしてねぇからなんも見えねぇんだ」


戻って開口一番に聞いた答えに、はぁ?と半ばイライラしながら返したが、トラファルガーは平然とした様子でパンを食べている。買ってやったスウィートポテトを口に含み、美味いなこれ、なんて呟いた。


「見えねっつったって顔間違えるほどか?」
「目めっちゃ悪いんだよ、ホント」
「視力いくつだよ」
「この間測ったら、0.05?ぐらいだったかな」
「はぁ?お前何でそれで裸眼なんだよ」
「だって眼鏡持ってねぇしコンタクトも買い忘れてねぇし…しょうがないだろ」


唇を尖らせたトラファルガーにまた溜め息。さっきの男と俺を見間違えたのは髪型が似ていたから、らしい。


「…で、今俺の顔は見えてんのか」
「ぼんやり。鼻辺りのでこぼこと目の凹凸くらいは…あ、今のっぺらぼうになった」
「相当悪ぃのな…」


机一つ挟んでこれ、少し身を引いただけでもう見えないときた。免許取れなくなるぞと言えば、医者にも言われたとトラファルガーは笑った。


「まぁそんなんなくても俺が連れてってやるけど」
「フフッ、ユースタス屋男前」


笑うトラファルガーを見つめながら買ってきたパンの袋を開く。そこでふと、俺はあることに気が付いた。


「ってことはさ…俺が視姦しててもお前は全く分からないってことだよな」
「さっきの前言撤回するレベルの発言だぞおい」


トラファルガーは唸って答えなかったが、よくよく考えれば午前中で答えは出ている。四限×五十五分間舐め回していたが全く気付かなかったくらいだ、分からないんだろう。


「先に言っとく。ごちそうさまでした」
「五限からは辞書で仕切り作ってやるからな…」




そのあとの授業も結局トラファルガーを眺め回し、危ないからと手を繋いで帰った。ついでに俺の家に寄らせて、見えないんだからいいだろと電気つけたままヤった。トラファルガーは恥ずかしいからとか言って明かりがついたままするのを嫌がるから。お前は見えてるだから意味ないだろとか顔赤くして言ってて可愛かったな。もう二度とないかもしれないと思って隅々まで目に焼きつけたぐらいだ。
残念ながらトラファルガーは次の日からコンタクトをしてきたけど。二日に一回くらいは裸眼でいいんじゃないかと提案したら殴られた。


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