絵空事 | ナノ

(親子パロ)


「キッド、キッド!」

夕飯の支度をしようとしていたら急にローが脚にまとわりついてきた。相手にするのが面倒臭くて生返事を返せばぐいぐいズボンを引っ張ってきて、仕方がないから視線を向ける。


「何だ?もうちょっとで出来るから向こうで待ってろよ」
「あのね、すぐ終わるからしゃがんで?」
「あとでいいだろ」
「すぐおわるから!」


別に今じゃなくても、とは思ったがあまりにもローがしゃがんでしゃがんでとうるさいので包丁を置くとその場にしゃがんでやる。一体何をしたいのか全く検討がつかない。ただローがキラキラと目を輝かせているので、とりあえず文句は飲み込んで待ってやることにした。


「うごかないでね?」


こてんと小首を傾げたローに、ああ、と返事をする。何でもいいから早くしてくれ、そう思ったときにローの小さな手がぺたりと頬に触れた。何だなんだと思いながらも黙っていれば、そのままちゅっと唇に触れる柔らかい感触と可愛らしい音。それが一体何であるかを確認するよりも早く、思わずローの肩を掴んで引き剥がした。


「…おい、それ一体誰から教えてもらった」


瞬間、脳裏に浮かんだのは先ほどまでここにいたあの馬鹿だった。こんなことをローに教えるやつは一人しかいないはず。半ば確信を持ってそう問えば、そんなことは露も知らないローはにこにこと笑った。


「ペンギンがね、」


その名を聞いた途端くらりと視界が揺れたが、そんなことに気づくはずもなく、ローは話を続ける。


「あの野郎にされたのか?」
「んーん、キラーやとしてたの。それなーに?ってきいたら、すごいすきなひととするってことってペンギンがゆってた!」


あいつら人の家をラブホかなんかと勘違いしてんじゃねェのか、おい。
無邪気に笑うローを前に引きつる頬は止められず、キッドもして!と物騒なことを口走るローに痛むこめかみを押さえつける。
キラーはともかく、あの馬鹿ペンギンは本当に何をしでかすか分かったもんじゃない。今度から留守番を頼むのはやめよう、そう心に固く決めるとじっとこちらを見つめて待っているローの肩に手をかけた。


「いいか、そういうのは好きな人って言っても、普通は好きな女の子にするもんなんだ」
「でもペンギンは、あいがあればだいじょうぶって」


いってたよ?と首を傾げるローは恐らくそれがどんな意味か分かってないから言えるのだろう。ハァ、と深いため息を吐くとがくりと俯く。
人んちの子供に対して大変情操教育に悪い影響を与えてくださったあいつを一体どうしてくれようか。ぶつぶつ口の中で呟きながら考えていると、痺れを切らしたらしいローに、ねー!と声をかけられて顔をあげた。


「まだー?」
「…あ?」
「ちゅー。キッドはちゅーしてくれないの?」
「…、だからな。ロー、さっきも言ったけど…」
「ローのこときらいなの…?」


聞いちゃいねェな。これだから餓鬼は嫌いだ。
イライラしそうになるのを何とか堪えて、また同じようなことを言ってみたが無駄だった。ちゅーして!とローのこときらいなの?が繰り返されるだけ。一番最悪なパターンだ。


「ロー、キッドのことすきなのに…」


しまいに俯いたローはそんなことを呟いてみせるのだからたまったもんじゃない。喉元まででかかったため息を飲み込むと、大きな瞳に溜まっていく涙に面倒臭ささえ覚えた、が。
…まあ、仕方ないか。あとで覚えてろよペンギン。


「ロー、泣くな」


俯く顔を上げさせると目尻の涙をそっと拭う。そのままほんのりと赤い頬にキスを一つ。


「キッド!!」
「ぅおっ!?」


そしてローからのタックル。首に急に抱きついてきたローに慌てて体勢を整える。
危ねェから急に抱きつくな、と言ってもローは笑うだけで全く何も聞いちゃいない。俺も途中で馬鹿らしくなったから文句を言うのはやめて、一向に離れようとしないローに苦笑するとその背をポンポンと撫でた。


「えへへー、ローね、キッドがいちばんすき!」


キッドは?と聞いてくるローの声色があまりにも楽しそうなので、答える代わりにもう片方の頬へそっとキスをした。
…さて、あとでたっぷりペンギンに「お礼」を言わなきゃだな。




親子〜初めてのちゅー編〜でした。
これからローたんは毎晩寝る前にちゅーをねだるようになります。キッドは仕方がないのでおでこにちゅーしてあげます。
ローたんはまだこどもだからどこにされようとキッドにちゅーしてもらえればそれでいいのです。一番最初に唇にしたのはペンギンたちがそうしてたから。
このあとペンギンは一週間ローと接触禁止という恐ろしい刑にあいます。


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