絵空事 | ナノ

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高校生キドロ。ローたんがとてもツンデレ乙女。




「どうしようユースタス屋…」
「まあ…完全にはぐれたよな」


ざわざわとした喧騒の中でぽつりと取り残された俺たちは二人顔を見合わせた。
今日は修学旅行の三日目、水族館で自由行動というものだったのだが、あまりの人混みに俺たちは途中でキラーたちとはぐれてしまったのだ。時期が悪かったのか、周りは修学旅行生で溢れかえっていてどうみても混雑の具合を超えている。
それでもあれが見たいこれが見たいとトラファルガーがあちこち動き回るので、何とか見失わないように、はぐれないようにとそればかり意識していたらいつの間にか自分がこの様だ。
どうする?と眉根を下げつつ小首を傾げたトラファルガーについいつもの保護欲をかきたてられて、その頭を撫でると大丈夫だと安心させるように笑った。


「集合時間も場所もちゃんと分かってるだろ。そこに行けばキラーたちもいるって」
「そうだけど…」
「お前高二になっても迷子になって泣きそうになるとかこの先どうすんだよ」
「な、泣きそうになんてなってねぇよ!」
「むちゃくちゃ不安そうな顔してたくせに」
「そりゃ…お前がちゃんと場所分からなかったらどうしようか考えてただけだっ」


ふいっとそっぽを向いて怒ったように言うトラファルガーに笑いながら分かった分かったと頷く。その態度が気に入らなかったのか、ちらりとこちらを向いたトラファルガーは頬を脹らませると拗ねたような表情へと変わってしまった。
トラファルガーは極度の方向音痴で、そのくせ勝手にどこかへ行こうとするものだからすぐに迷子になってしまうのだ。しかしこのご時勢、携帯と財布があればそれで何とか自力でどうにか出来るだろう。だがこいつはそう出来ないのだから困りものなのだ。
今の憎まれ口も、本当はただ不安だっただけだろうに、まさかトラファルガーが素直にそんなことを言うはずもない。からかった俺も悪かったのだろうけど。
それでも人一倍寂しがり屋ですぐ不安になってしまうトラファルガーは先ほどの返しに黙ってしまった俺にちらちらと窺うような視線を寄越してくるもんだから、その様子に可愛すぎてどうにかなるんじゃないかと思った。


「ユースタス屋…?」
「ん?こんなとこ突っ立ってねェで早く行こうぜ。イルカ見たいんじゃねェの?」
「あ、行く!」


控えめに俺の名前を呼ぶトラファルガーの頭をもう一度撫でると何でもない風に歩き出す。白熊が見たかったのに、と隣に並んだトラファルガーがぼやいたので、こんなところに白熊はいねェよと笑った。


「でもはぐれてよかったかもな」
「なんで?」
「デートしてるみたいでよくね?」


にやっと笑うとトラファルガーが分からないと言うように首を傾げたので、その耳元でそっと囁くと途端に頬が赤くなる。また背中殴られんのかな、それとも暴言か?とか思っていたら、トラファルガーは恥ずかしそうにバカと一言呟いただけだった。


「トラファルガー?」
「は、はぐれたら困るだろ!俺ははぐれないけどお前ははぐれそうだからな!」


いつもと様子の違うトラファルガーに今度は俺が首を傾げれば、不意にぎゅっと制服の裾を握られる。かけられた言葉にそりゃこっちのセリフだろうと思ったが、視線をそらしながら離さないというように強く、それでも顔を真っ赤にして恥ずかしそうに握りしめるトラファルガーが可愛くて、抱きしめてェな、と思った。俺の恋人は何でこんなに可愛いのかと誰かに惚気たい。


まあでも、とりあえずは、


「な、ホテル戻ったらキスしようぜ」
「は、な、なに言って…!」
「キラーたちにはちょっと席外してもらえばいいだろ?」
「そういう問題じゃないだろ!」


バカスタス!と顔を真っ赤にして怒鳴るトラファルガーに今度こそ背中を叩かれる。だけどその腰を掴んでぐいっと引き寄せ、約束な?と耳元で囁くとトラファルガーはぎゅっと服を握って大人しくなってしまった。

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