絵空事 | ナノ

「ユースタス屋ー、俺ね、俺ねー水族館行きたい!」
『…おー』
「今な、白熊のベポがちょうどショーやってて!」
『んー……』
「でな、そのショーで観客に絡むやつがあるから、俺、うまくいけばベポの近くに行けるかも!」
『……へー』
「……ユースタス屋?」
『あ…?』
「ちゃんと俺の話聞いてる?」
『おー…』
「絶対聞いてねぇだろ。眠いの?」
『…んー……』
「もーいいよ。じゃあこの話はまた後でするからいつか行こうな」
『あー……?…五日?…悪ぃけど無理…』
「は?なんで?」
『バイト入ってっから…』
「バイトって…別に毎日ある訳じゃねぇだろ」
『毎日はねェけどよ…』
「じゃあいいじゃん。いつかなんだし」
『…ぁあ?…だーから五日は無理…』
「はぁ?意味わかんねぇ。…ユースタス屋は俺と行きたくないの?」
『そーいう意味じゃねー…だいたい、何でそんな…』
「…じゃあどうすりゃいんだよ。いつか、は駄目って…ずっと駄目じゃん。…俺はユースタス屋と行きたいのに」
『んでそんな…(その日に)こだわってんだよ…』
「っ!…んだよそれ…!もうユースタス屋なんて知らねぇっ!」
『は?おいトラファ』



ブツッ!
ツー…ツー…ツー…



「…意味分かんねェ」







「あー…ムカつく」

よく分からないままユースタス屋と喧嘩して三日経った。
何なんだよあいつ。ムカつく。いつか行こうって言っただけなのに駄目、とか。じゃあずっと駄目じゃん。…俺はユースタス屋と行きたかっただけなのに。

ベッドに俯せになったままため息を吐くとシーツをぎゅっと握り締めた。この三日間ユースタス屋からの連絡も一切なくて。…不安じゃないと言えば嘘になる。


「ユースタス屋のばか…」


やべ、泣きそうかも。
でもこんなことで泣くのはカッコ悪くて、涙を止めるように深呼吸を一つ。と同時に玄関のチャイムが鳴った。だけど、とてもじゃないけど出られるような気分じゃなくて。どうせ勧誘か何かの類いだろうと居留守を決め込めば再度鳴るチャイム。…しかもなかなか鳴り止まない。


「うぜー…」


居留守を決め込むつもりだったのにどうにもこうにも鳴り止まなくて。半ば自棄気味にベッドから立ち上がって玄関に向かうとドアを開けた。


「んな何回も押さなくても聞こえて、」
「よう」
「………」
「待て待て何閉めようとしてんだよてめェ」


苛々とドアを開けたその先の人物を見てさらにテンション急降下。ドアノブを掴んで思いっきり閉めようとしたら未然に塞がれて舌打ちした。


「今更なにしに来たんだよ」
「今日行くんだろ」
「は?…どこに」
「水族館」


そのためにシフト変えてやったんだからな、ったく。大体急すぎんだよ。と言ったユースタス屋に思考回路が追いつかない。
え、だって、


「…ユースタス屋行かないって」
「行けないの間違いだろ。てめェが五日に行きたいって言うから無理矢理交代してもらったんだからな」
「は?…五日?」
「よく分かんねェけど今日行きたかったんだろ?」


そう言って気まずそうに視線をそらしたユースタス屋に置いてきぼりだった思考回路が徐々に追い付いてきて。


「…ユースタス屋」
「あ?」
「俺が言いたかったのは五日じゃなくていつか、だったんだけど」
「…あ?」




「ふふ、そっかそっか!ユースタス屋あのときお眠だったもんな!」
「てめっ、笑ってんじゃねェよ!」


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