その笑顔は反則だから
本当に最初、この人が正規部隊隊長に就いた時、どうしようかと思った。
我愛羅隊長は威圧感バリバリ、仏頂面の無愛想。気難しそうでこれからやっていけるのか不安になったりもしたけど、最近この人がわかるようになってきた。
わりと普通にお話しできるし、話しかけたらどことなく嬉しそう。なんか可愛い。そして、何より、隊長が笑った顔は酷く穏やかで優しかった。
あの人の笑顔見た瞬間から、私の心のどこかが持っていかれた気がする。どちらかと言うと、盗まれた感じだ。この気持ちなんだろう……。
自分の気持ちを見失ったまま、とにかく私はまた隊長の笑顔が見たくてたまらなくて、私の好奇心とか、探求心がわいてくる。心臓も落ち着かない。
──もっと知りたい。隊長のこと。
些細なきもたが原動力となって色々と行動してわかったことは我愛羅隊長は人に触れられることに慣れてない。そのせいか、人との接触に過敏に反応することだった。
最初はイヤだと避けられたのかな、とか。潔癖症なんて思ったけど違うみたい。どことなく嬉しそうだもの。
……だから私は考えた。馬鹿なくせして考えた妙案が抱き締めたら、たいちょーの笑顔が! 嬉しそうに微笑む顔が見れるのではないかとっ……!
いつも任務中に足をひっぱる私のせいで眉間にシワをせよてる隊長の心を少しでも楽にするためにっ……!
そしていつ、行動に移そうかと待ちに待っていて、やっとチャンスが訪れた。
人通りも少なくて人目に触れずに、私の悲願を達成できそうな良い場所に我愛羅隊長が歩いてるのを発見した。
私は一言声をかけて隊長の歩みを止める。
話しかけられて何だか隊長は幸せそうな微笑みを私に向けた。私はしばらく我愛羅隊長の目を見つめて、ただため息。胸をいぬかれるって、こういうことだろう。
ずるい、優しげに緩んだ目元に、ゆるく弧を描く口元。
「どうした名前。明日の任務で何か心配事か……?」
「あ! すみません隊長。隊長に見惚れてました!」
黙ってて見惚れてた自分に気づいて、気づかされて、我に返った。我愛羅隊長は照れ隠しか、右手で口を押さえながら私からそっと目を離していた。
油断してる。
「隊長、いつものお礼です」
「礼……?」
私は高鳴る心臓を抑えながら。強く隊長に腕をまわして引き寄せた。
「なっ、急に何を!」
「えへへ、嬉しそうですね」
「……別に、そんな、わけ、……ない」
我愛羅隊長が抵抗もしなかったことに喜びを覚えた。どこか不服そうだけど、お構いなしだ。
我愛羅隊長の体温を間近で感じて、ドッと胸がいっぱいになる。
「ドキドキ、いってますねー……なんか抱きしめられると幸せになるって聞いたので、その勇気を出しました!」
我愛羅隊長の引き締まった胸に耳を押し当てると聞こえてくる鼓動。とても、心地い音色だ。我愛羅隊長が生きてる証拠だ。何だか安心する。
我愛羅隊長が一瞬、息を深く吸ったのが気になった。そして、押し殺したような声で我愛羅隊長は声を出した。
「……ああ、オレも一応男だからな……」
「え? 言われなくても知ってますよ〜? 我愛羅隊長が女だったらビックリです」
どうしたのだろう? いつもと雰囲気が、空気が、変わったような気がするのだ。私はそれを肌で感じ始めた。
「……少し、意味が違うな」
「へ?」
内心、戸惑い始めた私と違い。冷静さを取り戻した我愛羅隊長は落ち着いた口調で続ける。
「オレは名前を一人の女としてみている、という意味だ……」
「それって私をいままで男として見てたんですか? 失礼ですね〜」
我愛羅隊長は、呆れたようにため息をはいて、私に目を合わせた。
「分からないのか?」
え? どういうことだろう。私は素直に頷いた。
真顔で即答すると、我愛羅隊長は困ったように顔を歪めたが、すぐにもとの無表情に戻ってしまった。
どこか、真剣な面持ちになって、私の頬を左手で包んだ。耳元に我愛羅隊長は唇を寄せて──。
「そうか、なら、じっくりオレが教えてやる……」
囁いて、私は状況が読み込めずにバッと、我愛羅隊長を見上げると。
これ以上ないくらい、隊長の頬は──。
配布元:たしかに恋だった
加筆修正2023.06.03.